ラトソールダンジョン3
ラトソールダンジョンの11~20層では、サンドスフィアの代わりにロックスフィアが、ストーンドールの代わりにアイアンドールが現れた。
ロックスフィアは普通の剣では切り割くことは出来ず、魔剣術を使って風を纏わせた剣を使うか、あるいは俺の魔法攻撃を使う必要があった。
アイアンドールは、ロックドールのような「ただの人形」ではなく、剣と盾を装備した「戦闘人形」であった。ただ、剣は錆びついており、盾もボロボロ。名前に「
それぞれドロップアイテムは珪砂と砂鉄。あとガラス玉や鉄クズが手に入る事もあった。少しずつグレードが上がっている感じだろうか?
また、少し小ぶりなロックトータスがちらほら出現するようになった。先に出会ったロックトータス程強くはないが、それでも攻撃魔法を使って攻撃してくる厄介な敵である。
20層のボスは『アイアンアーミー』。新品のアイアンドールが10体現れたのだ。
さっきまでのアイアンドールは装備品はボロボロだし動きもきごちなかった。が、アイアンアーミーはしっかりした装備品を身に着けており、統制の取れた動きで俺達を翻弄した。
ラトソールダンジョン20層は無限迷宮40層程度と言われているが、その通りだと実感する。無限迷宮40層辺りからボスに知性が宿っており、油断できない相手になるのだ。今でこそステータスに大きな差があるからさほど危機感は抱かないが、まだレベルが低かった頃だと、結構苦労したと思う。
そして、今日の最終目標である30層を目指して進み始めた。
20層~30層では、雑魚敵もそこそこの強さを発揮するようになってきた。
雑魚敵『マグマスライム』の体当たり攻撃を受けてしまうと生命力の5%以上を失うし、さらに火傷の異常状態(継続ダメージ)を喰らう。
第二の雑魚敵『新品のアイアンドール』は20層ボスで戦ったような相手だ。ボスと違って一体一体別行動しているが、仲間を呼ぶ性質を持っているため、出会ったら急いで倒さないといけない。
雑魚敵はこんな感じ。次に、各階層に数匹ずついる強敵ポジションについてだが、『水晶兵士』という魔物が現れる。全身が水晶で出来た人型の魔物である。
ところで、水晶とガラスの違いは何だろうか? 高校の化学で習うのだが、これら二つはどちらも二酸化ケイ素という化学物質である。どちらも同じ分子という事は、両者に違いは無い、という訳ではない。水晶はケイ素と酸素の原子が規則正しく並んでおり、強固な結晶となっている。それに対してガラスはケイ素と酸素がぐちゃぐちゃに配置しており、結晶とは呼べない構造を作っている。いわゆるアモルファス、あるいは非晶質という物だ。そういう訳で、水晶は硝子よりも固いのだ。ガラスのグラスを割った経験が誰にでもあるのではないかと思うが、それがもし水晶のグラスだったらそう簡単には割れなかっただろう。
何が言いたいのかと言うと、この水晶兵士、結構厄介なのだ。光魔法を使っても貫通するし、火もあまり効いていない。
結局、何度も同じところを攻撃して、少しずつ傷をつけて壊す必要があった。面倒な事この上ない敵。
だが、その分ドロップアイテムは良い物だった。通常ドロップの「大きなサイズのガラス玉」に加え、レアドロップの「水晶の髪飾り(生命力+30)」は綺麗だし便利だ。5つ手に入ったので、三つは自分たちで取っておき、一つはお土産、もう一つはギルドで売ろうと思っているのだが、いくらで売れるかな?
そして30層のボスはそんな『水晶兵士』をさらに強くしたような強敵『水晶騎士』だった。下半身が鉄でできた馬、上半身が水晶でできた騎士。ケンタウロスのような見た目である。
「アイスホールド!」
突進攻撃を避けつつ、俺は魔法を発動。馬の脚を氷で固定した。
「効いてない!」
しかし加奈の声を聞き、慌てて振り返ると、熱で真っ赤になった馬が俺めがけて突進してきた! 火属性が使えるのか!
「っく!!」
即座に眼前に岩の壁を生成。そして風魔法を使って自身を真上に吹き飛ばす。
馬は岩の壁を破壊するも、空中に逃げた俺がダメージを喰らう事は無かった。これは厄介だな。
「
未だ空中にいる俺は咄嗟に土魔法を使い、岩で出来たハンマーを生成した。それを握りしめ、身体強化をかける。
「おりゃああああ!」
そして水晶騎士に向かって振り下ろした。ガキン!と言う音と共に、岩のハンマーは粉々になるも、水晶騎士の顔にヒビを作る事に成功した。
『~!!!』
水晶騎士は言葉にならない声をあげ、俺に反撃。その手に持つ水晶の剣を俺に向かって振るった。
なんとか防御姿勢を取り、顔を守ることは出来たが、腕に大ダメージを受けてしまう。また、見事吹き飛ばされてしまった。
「アユ君! ヒール!」
加奈が回復魔法をかけてくれた。助かった。
俺にとどめを刺したいのか、俺に向かって駆けだそうとする水晶騎士。しかし、それは叶わなかった。姉さんが間に入ったのだ。
「魔剣術! 喰らいなさい!」
高熱の炎を纏った姉さんの剣が水晶騎士を狙う。騎士の腕にヒビを作った。
『ブモオー!!』
馬が姉さん目がけて炎を吐く。ギリギリでそれを躱した姉さんは、どこぞの運動選手の様に空中で三回転した後、地面に降り立った。身体強化の恩恵を受けているとは言え、姉さんの運動神経の良さには驚かされる。
この調子であと数回攻撃すれば、倒す事が出来るだろう。骨が折れる相手だ……。
そう思っていたのだが、予想以上に戦闘は早く終わった。
『ブモオーー!』
『……!!』
馬が真っ赤になり、それに乗る騎士はその剣を高々と掲げている。そんな時、ふと俺は思い出したのだ。理科の実験を。
「
いいですか。この実験をするときは、試験管の口を下にしないといけません。もし口を上に向けていたら、化学反応で出来た水蒸気が水になった時、水滴が下に流れて行き、それが過熱部に到達すると、過熱部のガラスが急激に冷やされて、割れてしまうからです。
」
そう。熱い物体を急激に冷やすと収縮する。その際、一部分だけを冷やすと、そこにゆがみが生じてしまい、物によっては破壊される。
水晶は硝子よりも固い。という事は逆に歪みには弱いという事なのでは? 俺は水魔法を発動し、水晶騎士を濡らした。
『?!?!』
すると、水晶騎士のお尻が割れた。馬に接している部分は言わば過熱部。そこに冷たい水がかかったのだから、急激な温度変化が起きるのは想像に難くない。
そしてその一撃が致命傷になったのか、馬とガラスの騎士は光に消えた。
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