ラトソール
異世界ぶらり馬車の旅。目的地はまだ見ぬ街『ラトソール』。
馬車には俺達三人の他に二人の乗客がいる。チャールさんとその友人プレーリーさんである。
「今更ですがチャールさんもセントロマイナを離れるんですね」
「まあな。故郷の危機なんだから、行くしかないだろ? と言うのは建前で、ちょっと里帰りをしたいだけなんだけどな」
「なるほど」
御者が乗り、馬?に指示を出す。するとギャーオ!という鳴き声と共に、馬車が発車した。……馬じゃないんだな。何なんだろ、この生物。【異世界語】スキルは馬と翻訳しているが、地球にいるそれとは全く違うんだろうなあ……。まあ、気にしちゃ駄目ってやつだ。
さて、ここから六時間の移動となる訳で。正直乗り心地を心配していたのだが、意外と揺れは小さい。サスペンションとかそう言った機構が搭載されているのかな? さらにふかふかのクッションも敷いてあるので、快適に移動できる。
セントロマイナの中心地から離れるにつれて、建物の高さや密度が小さくなっていく。四五十分もしたら、窓から見える景色は完全に田舎の田園風景と化した。セントロマイナが、と言うより無限ダンジョン周囲が特別発展していたんだなあと改めて痛感した。
「何の作物を育ててるんだろう……?」
「うん? ああ、あれはトマトだな。こうして地面に生えてるのは見た事が無いか?」
「え、ええ。初めて見ました……」
俺の祖父ちゃんが畑を持ってるから、トマトを育てている所を見せてもらったことがある。だから、苗木を見て「ああ、これはトマトだよな」って言えると自負している。
だけど……。今眼前に広がっているのは明らかにトマトって感じではない。むしろ、イチゴに見える。流石は異世界の作物、ツッコミどころが多すぎる……。馬の事然り、地球での常識など、こちらでは何の役にも立たないんだな。
「というか、食材ってダンジョン産のものだけじゃないんですね」
「ははは。そっか、ずっとセントロマイナで暮らしてたら、知らないのも無理ないよな。ダンジョンで穫れた物の中には、こうして栽培出来る物もあるんだぞ」
「「「へー」」」
そっか。この世界、「全てがダンジョンありきで成り立っている」という訳ではないのか。15年以上暮らしてきて、初めて知ったよ。
その後も長閑な田園風景の中、パカリパカリと馬車は進んでいった。正直凄く暇だ。なのに、この道中は眠ってしまってはいけない。俺がウトウトしてしまうと、その瞬間こちらの世界から俺達が消失するからだ。消失する瞬間をチャールさん達に見られるわけにはいかないので、俺は必至で目を開けておく必要がある。
こちらの世界にスマホなんてある訳ないしなあ。遠くの風景を見ながら、到着するのを待つかあ。
◆
「もうすぐ到着ですよ~」
と御者が声をかけてくれた。んー、やっと到着か。なんとか寝ずに耐える事が出来た。
「このまま直接ラトソールの冒険者ギルドへ向かうのですよね?」
「ええ、その予定ですよ」
「分かりました」
まずは冒険者ギルドで到着したことを報告し、その後お昼ごはんを食べる。午後からは迷宮に向かい、ひとまず30層まで攻略する予定である。そして明日には50層まで攻略する予定だ。
この二日は、まくまで攻略するだけ、つまり最短ルートで迷宮を進む予定である。そして明後日以降、40~50階層にて魔物の間引きを行う予定となっている。
「それにしても、ドワーフがいっぱいね! まあ、そりゃそうなんだろうけど」
「やっぱり、みんな職人気質なのかな?」
姉さんの言うように、ラトソールの町ゆく人々の半分以上がドワーフである。普段とは全く異なる街並みであり、まるで異世界に来たかのように感じる。いや、そもそもここは異世界だけれども。
そして、加奈の疑問にはチャールさんが答えてくれた。
「ははは、確かに鍛冶の道へ進むドワーフは多いが、だからと言って全員が全員職人って事は無いぜ? 普通に冒険者やってる奴もいるしな」
なるほど、そうなんだな。ドワーフの冒険者か。やっぱり鎚で戦うのかなあ?
「そういえば、使われているレンガの色が、セントロマイナとは違いますね。何故なんですか?」
ふと抱いた疑問を口に出す。
「ああ、確かにな。こっちで使われてるレンガは『耐火レンガ』つって、普通のレンガとは種類が違うんだ」
「へえ、なるほどです。やっぱり鍛冶をする為には、耐火レンガである必要があるんですか?」
「いや、そういう訳ではない。確かに鉄や硝子を溶かす釜は耐火レンガでないといけない。ただ、どちらかと言うと、単純に耐火
「「「耐火泥?」」」
「水に溶かしてから固めれば耐火煉瓦になる特殊な泥の事だ。色々なモンスターから落ちるぞ」
「なるほど。それを消費する為に耐火レンガを使っているという訳ですか」
「そうだな」
「他にはどんなドロップアイテムが落ちるのですか?」
「そうだなあ。メジャーな物だと砂鉄や珪砂。深層でなら鉄のインゴッドやらミスリル鉱石なんかも手に入るぞ。最深部で時々見つかるオリハルコンゴーレムからはオリハルコンが落ちるぜ」
「「「オリハルコン!」」」
「ああ。だが、オリハルコンゴーレムは見つかりにくい上に、ドロップ量が少ないんだ。一体のゴーレムから数グラムしかドロップしない」
「そうなんですね」
「残念ね~。オリハルコンの剣とか欲しかったなあ」
「オリハルコンの杖……別に要らないかな」
確かに、姉さんの剣がオリハルコン製になれば、今までよりも戦力強化になりそうだな。だけど、ヒーラーの加奈にオリハルコンは合わない気がする。
「どちらかと言うと、カナには不死鳥の羽とかが似合いそうよね。アユには……何かしら?」
「アユ君には……ユグドラシルの枝とか?」
おお! なんとも夢が広がる話じゃないか。不死鳥の羽。ユグドラシルの枝。どちらもそれっぽいアイテムだな。
そして、そんな二人の会話を聞いて、先ほどまで寝ていたプレーリーさんが反応した。そして言う。
「ユグドラシルって言えば、伝説の勇者の仲間が使っていた奴だよな? 実在するかどうかも怪しいが、もしも見つけることができれば大発見だな。不死鳥の羽ならエレメンタルダンジョンで落ちるって記録が残ってるぜ?」
「勇者……?」
「エレメンタルダンジョン……?」
「凄そうな情報……!」
色々とツッコミどころが多すぎる。伝説の勇者? エレメンタルダンジョン? なんだ、それは?
「知らないのか? 伝説の勇者ってのは500年前にいたとされるパーティーのリーダーで、無限ダンジョンの500階層を突破したメンバーなんだ。一生をダンジョンに捧げた人物として語り継がれているんだ」
どこかで聞いたことがあるような……? あー、そういえばリエルさんが言っていたっけ。500階層を突破した人がかつていたって。
「なるほど。それで、エレメンタルダンジョンっていうのは……」
「ああ、それはだな……」
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