ラトソールダンジョン1
「エレメンタルダンジョンってのは、妖精の里にあるダンジョンだ。不死鳥の羽もそうだが、他にも色々な伝説級の素材が取れるとされている」
「ほえー。僕たちでも挑戦できるんですか? それとも、何か許可証的な物がないと入れないとかですか?」
「一応、誰でも挑戦できるぜ。そこに生きてたどり着けるのなら、な」
え、何その言い方。ちょっと怖いじゃん。
「というと?」
「妖精の里は確かに存在する。だが、百年前の記録が最後で、それ以降辿り着けた者はいないんだ。妖精の里への生き方は単純だ。エルフの国『クリスタ』の北西部にある樹海を抜けた先、あるいは樹海の中心部にあるとされている」
「なるほど。その樹海を進むのが難しいという事ですね」
「そういうこった。あの樹海は特殊な環境で、ダンジョンに近い性質を持っている。つまり、魔物が現れるんだ。しかも、かなり強力な魔物が、な。さらに、方位磁針がむちゃくちゃな向きを指すから、方向感覚が狂ってしまう。一度入ったら生きて帰ってくることはできない、と言われていて、そこから『樹海魔境』とか『緑の地獄』なんて異名が付いている」
「樹海魔境……。怖いけど、いつか挑戦してみたいですね……」
「まあ、もしも妖精の里に辿り着けたら、一生働かなくても過ごせるほどの財産を気づき上げる事が出来るらしいからな。実際、百年前に樹海魔境を踏破したパーティーは、そこで得た資金で財閥を作ったからな。ほら、ミストフォレットって財閥。聞いたことあるだろ?」
「ええ。ミストフォレット系列の百貨店なんかを見た事があります。あれってそう言う経緯で作られた組織だったんですね……」
確かに強い冒険者は多くのお金を稼ぐことができる。実際、俺達もかなりの額を稼げている。とはいえ、ちょっと豪華な食事にありつける程度の稼ぎであり、決して財閥を築き上げるほどの資金があるとは言えない。
それが、エレメンタルダンジョンから持ち帰った素材だけで財閥を築き上げる事が出来るというんだ。如何にエレメンタルダンジョンが特殊なのかが分かる。
「エルフの国『クリスタ』は遠いのですか?」
「そうだなあ……。馬車で一週間はかかると思うぜ」
「それは……相当遠いんですね」
「とは言え、全然行ける距離だろ? 興味があるなら行ってみると良いと思うぜ。樹海魔境は外から見るだけでも圧巻だからなあ……」
プレリーさんは、若い頃、各国を旅する機会があったそうだ。それでクリスタにも立ち寄った事があるそうで、遠目に樹海魔境を眺めた事があるんだとか。そこはヒトの侵入を拒んでいるような、大自然の威圧感を感じたそうだ。「お前など、ちっぽけな存在だ」「お前程度の物が、ここに立ち入ってはならない」と言われている気がしたんだとか。
「いつか行ってみたいね!」
「だな。危なくなったら逃げ帰るとして、一度見てみたいよな!」
「うん!」
新たな目標が出来た瞬間だった。
◆
その後、ラトソールのギルドにて改めてスタンピード対策のクエストを受注した俺達は、早速ダンジョンへ向かった。場所は町の外れにそびえ立つ山の中腹、にぽっかりと空いた洞窟だ。
「他の冒険者が少ないね」
「だな。スタンピードの前だからか? それとも、この町の特性か?」
そもそもこの町はモノづくりの街であり、セントロマイナのように冒険者を専業でやっている人はそれほど多くないと聞いている。
「取りあえず、早く潜ってみましょ! 新しい敵が私達を待っているわ!」
「ああ、そうだな!」
「頑張ろうね」
ラトソールダンジョン第一層。無限ダンジョンや日本のダンジョンでは、第一層は一本道だったが、ここではいきなりフィールド形式である。
フィールド一面がごつごつした岩場となっており、移動に体力を使いそうだ。あと、索敵が難しく、下手すると不意打ちを喰らいそう。なるほど、確かに高難易度のダンジョンだな。まあ、魔力感知がある以上、索敵に心配はないと思う。改めて、エスケープラビットに感謝である。
「一層目から広いな」
「うん。アユ君、敵はいる?」
「えーと、向こうの岩場に何かいそうだ」
「流石アユ君」
「流石、索敵のプロね! 今日もお世話になるわ!」
何かが潜む岩場に向かう俺達三人。岩の向こう側にいる魔物は、不意打ちするつもりなのかじっと動いていない。だけど、悪いが俺には君の場所がわかるんだよ! という訳で。
「取りあえず小手調べだ。アイスプリズン!」
身体を凍えさせると同時に、足止めにもなるある意味万能な魔法。それがアイスプリズンだ。エスケープラビットを捕まえる時にも重宝したな。
「姉さん!」
「ええ!」
接近戦では姉さんの方が強い。俺が魔法を発動した後、姉さんが魔物に向かって接近した。
「はああ! せい! ふう」
姉さんはドロップアイテムを片手に戻ってきた。俺と加奈がその姿を直接見る前に、敵は倒されてしまったようだ。
「一瞬だったな。どんな魔物だったんだ?」
「そうね……。表面が砂っぽいテクスチャで覆われた球体……って感じだったわ。大きさはこれくらい」
胸の前で「これくらい」と手で示す姉さん。なるほど、サッカーボールくらいの大きさか。
「硬さは?」
「見た目ほど硬くなかったわ。うーん、ライチくらいの硬さかしら」
こうしてラトソールダンジョンの攻略が始まった。
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