ドワーフからの頼み事

 日本ではダンジョンが封鎖されてしまったが、俺達は眠って異世界へ行けばダンジョンを堪能する事が出来る。今日も冒険者ギルドで緊急性が高そうな依頼が無いか確かめる事にした。


「で、姉さんも着いてきたって事は、今日は休憩するのか?」


「まあね~。日本向こうでしっかり勉強したし、こっちでは休憩してもバチは当たらないでしょ? テスト前って訳でもないし」


 定期テストは終わったばかりだし、模試もしばらく無いらしい。今日は三人で行動だな。



「お? なんか今日は騒がしいな?」


「うん。何かあったのかな?」

「お祭りはもう少し先だし……。危険な魔物でも現れたとか?」


 実はこっちの世界にもお祭りという物がある。時々どんちゃん騒ぎをしたくなるのがヒトのさがなのだろう。だが、姉さんが言うようにお祭りはまだ先だし、そもそもギルドの雰囲気がいつもよりも悪い気がする。何と言うか……全員が緊張しているような?


「あら! サクラちゃん達じゃない!」


「あ、ラーラさん。こんにちは!」


「最近顔を出してなかったから心配してたのよ! 良かったわ、来てくれて。早速だけど、お願いしたいことがあるのだけど……」


 ラーラさんは最近ギルドの受付嬢になった若いエルフの女性である。

 最近顔を出していなかった、か。言われてみれば、ここ一週間はテスト勉強を、そして昨日はエスケープラビットの納品をしたからな。ギルドに来たのは久しぶりである。


「どうかしたんですか?」


「ラトソールって知っているかしら?」


「「「ラトソル?」」」


 ラトソル。熱帯地域にみられる土の一種であり、鉄やアルミニウムの酸化物が豊富に含まれ、赤色を呈す土壌だ。


「ドワーフが多く住む町なのよ。ちなみに、チャールの故郷よ」


 チャールさん。武器のメンテナンスを行ったりしてくれるギルドの職員である。ランクが上がるとほぼ無償でメンテナンスを受ける事ができ、俺達も何度もお世話になっている。


「へえ、チャールさんの。チャールさんもドワーフですものね」


 と話していると、本人がやってきた。俺達に気が付くと、走って向かって来た。


「よう、嬢ちゃん達! お前たちが来てくれて一安心だよ!」


 チャールさんはずんぐりむっくりした体形と立派なお髭を持つ、まさにドワーフって感じの男性だ。

 それにしても「お前たちが来てくれて一安心」とはどういう意味だろう? この騒ぎに関係した事なのかな?


「何かあったのですか?」


「ああ。儂の故郷にあるダンジョンでスタンピードの兆候が出たんだ。猶予は二週間程度。その間にダンジョンの魔物を減らさないとマズイんだ!」


「「「スタンピード……!」」」


 スタンピードってあれか? ダンジョンから魔物が溢れ出してくる、的なやつ。


「おいおい、チャール。そんな子供にスタンピードに対処してもらうつもりなのか? こいつら、まだまだ若いじゃないか。未来ある子供に、危険な仕事を任せるのは流石に気が引けるぞ?」


 別のドワーフがやってきて、チャールを制止した。そんなに危ない事なのだろうか? 俺達は最悪こっちで死んでもリスポーン出来るから、危険な仕事もこなす事は出来ると思うが、出来れば痛いのは勘弁したいところである。


「いやいや。実はな……こいつら銀ランクなんだよ!」


「是非とも私たちの町をお救いください!」


「「「……」」」


 手の平クルックルだな、おい。でも、この二人の会話で、ようやく事態を把握できたよ。


「えっと。つまり、ラトソールのダンジョンから魔物が溢れ出しそうになっているから、事前に間引く必要がある。それで高ランクの冒険者を募っていたところに俺達がやってきた。そういう事であってますよね?」


「「ああ、まさにその通り」」


「取りあえず、詳しいことを教えて頂いてもいいですか?」



 詳しい話を聞くと、スタンピードは深層の魔物が徐々に浅い層に現れ始める現象のことらしい。それを放置したら、ダンジョンの外にも漏れ出すという訳だ。先ほどチャールさんが「猶予は二週間程度」と言ったのは「魔物が外に溢れ出すまでの猶予が二週間弱」という事らしい。


 ラトソールにあるダンジョンは完全攻略済みのダンジョンらしく、全部で50層しかないらしい。とはいえ、一層目からそこそこ強い魔物が現れるので、初心者は五層にたどり着く事すらできない、言わば中級者向けのダンジョンらしい。

 日本に現れたダンジョンが低難易度~高難易度に分かれていたように、この世界のダンジョンも、中級者向けのダンジョンという物が存在するんだな。いい勉強になった。


 より詳細に言うと、通常時のラトソールダンジョンの難易度は以下のような感じらしい。


・ラトソール1~10層≒無限ダンジョン11~25層

・ラトソール11~20層≒無限ダンジョン26~40層

 ……

・ラトソール41~50層≒無限ダンジョン71~85層


 最下層でも85層レベルなのか。俺達なら十分クリアできるな。



 また、無限ダンジョンがあるここセントロマイナからラトソールへは馬車で六時間程度らしく、十分行ける距離である。



「どうする? 俺は行ってもいいかなって思うんだけど」


「そうね! よく考えたら、私達こっちではセントロマイナの外に出た事ないし!」

「うん。三人で旅行。きっと楽しい……!」



 こうして俺達はラトソールへと向かう事になったのだった。

 地球でダンジョン攻略できない分、異世界こっちでは楽しませてもらおうじゃないか!




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