ダンジョン法の施行
テスト期間(木・金・土・月)が無事に終わって、今日は火曜日。採点の為に今日は休校となっている。俺達三人は全員同じ高校に通っているので、三人そろって今日は休日である。まあ、姉さんは受験勉強で忙しくしてるけど。
「ねえ、二人とも。もし今後、日本でもダンジョン攻略を生業とする職業が出来たら、そっちで稼げるよね? いやまあ、だからと言って勉強を辞めるって訳じゃないけどさ」
「うーん、確かに。でも、その分野のプロになれば、新しい称号とかスキルが手に入るんだろ?」
「うんうん。確か、お医者さんになればヒールの完全上位互換のキュア。あと、異常状態を回復できるリカバリーとか、毒を操るポイズンなんかの魔法が手に入るんだよね? 薬剤師さんなら薬調合とポイズンだっけ」
そう。日本で何らかの免許や資格を取れば、新しい称号やスキルを入手できる例が多数報告されているようだ。運転免許取得により解放される【御者】や医師免許取得により解放されるヒーラーの完全上位互換【医師】が有名どころである。
ちなみにだが、回復魔法の出現は医学を淘汰するかというと、そうでもないみたいだ。例えば、生まれたばかりの赤ちゃんや不健康な人は生命力の最大値が0となっており、通常の医学で治す必要があるらしい。あと、糖尿病、癌、脳梗塞などの病気や老化による体力の衰えも、魔法ではどうしようもないようだ。
改めて考えてみると、異世界でもご高齢の方はいたし、病気で亡くなる方もいた気がする。あと、乳児死亡率もそこそこ高かったはず。
回復魔法は医学の限界を補うが、逆に医学は回復魔法の限界を補う。そんな関係にあるらしい。
「でも、志望校はちょっと考え直した方が良いかもしれないわよね……。それこそ薬剤師とか医師とか目指してみようかしら?」
「薬学部ならともかく、医学部は厳しいんじゃないか?」
俺達は互いの成績を見せ合ったりしているので、姉さんの学力レベルは大まかに把握している。
「今の成績じゃ無理よね……。今日から毎日12時間勉強してギリギリって所よね……。まあいいや。勉強してくるわ~」
姉さんは自室に戻って行った。
◆
リビングに残った加奈と俺は朝の情報番組を眺めていた。丁度ステータスシステムやダンジョンについての特集が組まれていたからだ。
『ダンジョンについて、政府は一時的に市民の立ち入りを規制する法律を作ったとのことでしたが、それはどのような目的があるのでしょうか?』
お? 丁度気になっていた事柄である。
『はい、『ステータスシステムと同時に出現した異空間への侵入を規制する法律』、通称『ダンジョン法』の事ですね。これは、ダンジョン内で怪我人が出た事、またその他のダンジョン内に潜む潜在的な危険性を考慮して作られました。現状、ダンジョンについて何も分かっていません。その解明を国が主体となって進めたいという事でしょう』
と行政に関する専門家がコメントした。
『ダンジョン内に潜む潜在的な危険性、というのは一体?』
『例えば、未知の病原菌や未知の毒素などですね。あるいは放射性物質のようなものが検出される恐れもあるでしょう』
『なるほど。確かに、現時点の医学、あるいはスキルを以て対処できない危険因子が発見される可能性がありますよね』
『ええ。それを不特定多数の人が外に持ち出してしまったら……と考えるとゾッとしますよね。また、改めて思い出してほしいのですが、ステータスシステムとやらは我々の意識すらもコントロール下に置く危険性を秘めているのです。自分にしか見えないステータスウィンドウ、自分の心の内を反映していると考えられる称号やスキル。こういった事象がある以上、ステータスシステムは我々の精神さえも冒す危険性があるのです』
『なるほど。しかし、この政府の発表に関して、反対する意見が多数見られるようです。VTRをご覧ください』
「ダンジョン法、ねえ。政府の決定も分からなくはないよな」
「うん。私達にとっては馴染み深いけど、普通は知らないし」
「ただ、反対意見も多く出るだろうなあ……」
テレビへ目を向ける。町行く人へのインタビューが行われているのだが、様々な反対意見が出ているようだ。
小中学生は『自分もダンジョンに潜ってみたい』とコメントしている。高校生や大人はもう少し踏み込んで『ダンジョンへの侵入を妨げているのは、中にある宝物を独り占めしようとしているのではないか』『自分達だけレベルアップの恩恵を受けるのはずるいと考える人は多くいるだろうし、自分もそう思ってしまう。出来るだけ早く、ダンジョンを一般にも公開してほしい』などとコメントしている。
「レベルアップの恩恵。私達がそれを一番実感してるかも、だよね」
「加奈の言うとおりだな。レベルアップは直接収入に繋がるからなあ……。少なくとも冒険者になるなら」
俺達はレベルが上がる事によるメリットを身に染みて感じて育った。より深層へと潜れるようになり、より貴重な品を納品できるようになり、よりランクが上がる。
なお、冒険者にならない選択肢を選んだ場合、レベル上げの恩恵は小さい。例えば、露店でディスクケーキを売っていた人がいたが、彼女にとって生命力や魔力が上がる事はそんなに魅力的ではない。むしろ、沢山料理して、料理スキルを成長させる事にこそ価値がある。
「うんうん。この世界でも、冒険者的な職業は出来るだろうしね。そうなったらレベルは重要になるよね」
「だろうな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます