変わりゆく日本と変わらぬ俺達
ダンジョンを探せ
「ご協力、本当にありがとう、赤木歩夢さん」
「いえいえ。せっかく便利なスキルを手に入れたのに、使わないのはもったいないですし」
俺はダンジョン対策課の綾地美鈴という人と共に、車で移動している。
あの後、家族としっかりと相談した上で、ダンジョン対策課に協力する事にしたのだ。今日から五日かけて、全国を巡る予定だそうで、その間学校は公欠になる。ただし、俺のスキルが周囲にバレるのを防ぐため、公欠の理由は『この前俺達が発見したダンジョンの調査の為』と偽装されている。
「あはは。まあ、割のいいアルバイト程度の気持ちで受けてくれたらいいと思う」
「正直、割が良すぎてびっくりしました……」
基本、時給2000円。加えて、ダンジョンを一つ発見する毎に10万円という破格の待遇である。現在発見されていないダンジョンは30個ほどあると推定されているから、そのすべてを見つける事が出来れば300万円となる。実際は、全部は見つける事が出来ないだろうが。
◆
「どうかな?」
「先ほどよりも魔力濃度が高いですね」
「うむ、分かった。方角は分かる?」
「向こうから感じますね」
「おっけ、分かった。んじゃ、飛ばすわよ~」
と基本車で移動しつつ、魔力の流れてくる方角を探る。それを繰り返す事でダンジョンの在りかが分かるのだが……。
「この中から感じますね……。でもこれは……」
「不法投棄されたよく分からない機械の集まり……。社会問題だねえ……」
「逆に言うと、誰かの所有地という訳ではないのですかね? だったら中に入れるのですが……」
「誰かの所有地だったら、いくら国の機関でも捜査は出来ないからね」
ちなみに、ここが誰かの所有地であり、探索の許可が数日で取れなかったとしても、例えば一か月後にここでダンジョンが見つかれば、俺の下に10万円が支給されるそうだ。
「……と。所有者はいないみたい。正確には国有地という事になっているわ」
「そんな場所に何故ゴミが?」
「もともと、港を開発しようとして、国が購入した土地なんだってさ。でもなんやかんやあって頓挫。そしてこのありさまって訳さ。調査許可も出たし、早速入ろうか」
「はい。こっちです」
で、魔力の流れてくる方をたどっていくと、あった。車の部品やラジオの部品で作られたアーチと地下へと続く階段が。
「こんなダンジョンもあるんですね……」
「私も初めて見た形式だよ。今までは自然物の間に出来た物しか報告されていない」
そう言って写真を撮る綾地さん。
「中へは入らないのですか?」
「それは他のメンバーがするから、私達は次へ向かうよ。その方が君にとってもいいでしょ?」
と手をお金マークにする綾地さん。確かに、次々と進んでいけば、その分お金を頂く事が出来る。
「でも、探索してみたい気持ちはあります。楽しかったので」
「三人は中難易度ダンジョンを10層までクリアしたのよね。それだけうまく立ち回れるならダンジョンも楽しいでしょうね……。あれ、そういえば君は水魔法も使えるって言っていたよね? おっと、詮索はダメよね」
「あー。水魔法は後天的に授かりました。水属性のスライムを倒すと、一定確率でもらえるみたいです。確率は低いみたいですけど」
嘘は言ってない。ただ、本当のことも言っていない。これぞ最強!
「そうなの?! 海外でそう言った事例があったって聞いていたけど、日本では初めての例かもしれないわ」
「そうなんですか? まあ、確率が低い上に、そもそもダンジョンに潜った人が少ない。さらに政府が『むやみにスキルを言いふらさないように』と注意喚起していますから、報告が上がっていないだけかもしれませんね」
◆
一日あたり8時間、五日で40時間が労働時間の限度である。それをフルに使ってダンジョン探しに精を出した結果、15個のダンジョンの発見に成功した。40hour×2000円+15×10万円=158万円が振り込まれる事になっている。いや、源泉徴収があるから、取り分は少なくなるかな?
「流石に来週もって訳にはいかないわよね。学校もあるし」
「ですね。来週の土日なら予定はないですが……、その頃には発見が難しくなっていると思います……」
徐々に地球の大気中の魔力濃度が上がってしまったせいで、ダンジョンの場所を把握しにくくなっているのだ。実際、五日目はダンジョンを1個しか発見できなかった。
「そう、ね。どうしようかしら……。そもそも、高校生を毎週呼び出す訳にはいかないし、今後は私たちの方で何とかするわ」
こうして俺の忙しい一週間が終わった。
◆
「……って感じだったよ」
家に帰った俺は、四人に成果を報告した。振り込まれる予定の金額に驚く義父母。何に使おうかと期待している姉妹。
「それはすごいな……。いやはや、何と言うか。お疲れ様だ」
「そういえば、木曜日から中間試験だけど……。勉強は間に合うの?」
「……そういえばそうだったな」
寝ないで勉強しないといけないか? いや、そんな事をしたら、勉強の質が落ちて意味がないよな……。
とそこで、加奈が俺の肩をちょんちょんとつついた。
「アユ君」
「ん? なんだ?」
「私、しっかり勉強してあるから。後で一緒に勉強しよ。寝る前も寝た後も」
「マジ? それは助かる!」
異世界へ物品を持ち込むことはできないので、加奈は必要な知識を暗記した上で、向こうで勉強に付き合ってくれるという事になる。本当にありがたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます