親に心配をかけちゃ駄目

 21層に入ってすぐ聞こえてきたのは蝉がけたたましく泣く声。フィールド内は蒸し暑く、何の暑さ対策もせずに攻略するのは躊躇われる。


「暑いわね~さっきまでは快適だったのにぃ……」


「うん、暑い」


 二人も服をパタパタとさせている。美少女が服をパタパタしてるのって絵になるよな~。それはともかく。


「この調子で10層ごとに季節が変わるのかなあ?」


「その可能性が高そうね。何せ四季は日本の特徴の一つだし」


「秋とか良さげだよな! でも、秋エリアに行くにはこの中を歩かないといけないのか……。二人はどうしたい?」


「「今日は帰る」」


「じゃあそうしようか」



 ピコーン! ピコーン! ピコーン!


 20層のチェックポイントからダンジョンの入り口へと転移すると、途端に俺達のスマホに通知が入った。それも沢山。


「何? 何?」


 お義父さんとお義母さんからの不在着信30件、友人からのLIMEが20件入っている。加奈の方にもそんな感じらしい。

 さらに、姉さんのつぶやいたーには100件以上の通知が入っていた。


 姉さんはつぶやいたーをチェックし、俺はお義父さんに、加奈がお義母さんに連絡する。



「もしもし、お義父さん?」


『歩夢か! 無事か?! 咲良はいるか?』


「え、う、うん。俺は無事だし、姉さんも一緒にいるよ。ごめん、電話に出られなくって。え、何があったの?」


『さっき警察か何かから連絡があって、咲良が危険なモンスターのいる洞窟へ向かった可能性があるとかなんとか言われたんだ。そっか、無事だったのか。それなら何よりだ……』


「え? 警察が? なんで?」


『知らないのか? なんかモンスターで溢れている洞窟が色々なところで発見されているんだって! それを発見したミーチューバーが『ダンジョン攻略』とか言って、洞窟を探索する配信をしたらしいんだが、そいつらがダンジョン内で大けがを負ったらしいんだ』


「え? ダンジョンで大けが? 怪我するような事なんてあるのか……?」


 そんなことあるか? 配信が繋がるって事は、比較的浅い階層だろ? しかも、ステータスシステムが起動している以上、生命力に守られている訳だし……。


『おい、歩夢。その言い方だとダンジョンに潜った事があるように聞こえるのだが? どういうことか説明してもらおうか?』


「……すみません。ダンジョンを見つけたので入りました。今出てきたところです」


『お前なあ……! 下手したら死ぬかもしれないんだぞ?! はあ、取り敢えず、母さんにも連絡しろ。母さんが一番心配してたから』


「今、加奈が電話かけてるよ」


『加奈もいるのかよ?! 加奈は止めなかったのか?』


「別に?」


『加奈って大人しいイメージだったのだけど、意外とアクティブな面もあるんだな……。親の俺すら知らなかった一面だ……。はあ、とにかく今後はそういう危険なことはしないように。あと、警察がダンジョンの場所やその難易度なんかを聞きたがっている。俺の方から咲良達に無事が確認出来たって伝えておくから、その後、色々と事情徴収されると思うぞ』


「え? どういうこと?」


『父さんは知らないからな~。頑張れよ~』


「あ、切れた」



 お義母さんとの会話を終えた加奈が言うには、俺達がダンジョンに潜っている間に、他の場所でもダンジョンが発見され、攻略しようとする人が相次いだようだ。そして、行方不明になったり、大けがを負ったりする事例が相次いでいるらしい。

 そう言われて、改めて思い返すと、今回の探索で戦った10層ボス『業火之狐』は比較的強敵だったような気がする。俺達はレベルが高い上に、近接アタッカー、遠距離アタッカー、ヒーラーというバランスがいいパーティーを組んでいたから、余裕で倒す事が出来たけれども、普通の高校生が挑んでクリアできるだろうか?

 ましてや、『ダンジョン攻略だ~!』と浮かれている人達だ。こう言っては何だが、準備とか怠っていそう。


「無限ダンジョンの10層ボス『キングスライム』なら準備無しで倒せそうだけど……」


「『業火之狐』は低レベルだったら厳しいだろうな。他のダンジョンも同じくらいの難易度なのかもしれないな」


「地球に発生するダンジョンの方が難しいのかな?」


 そう疑問を抱いてしまうのは当然だろう。もしかすると、地球に発生しているダンジョンは全て高難易度なのか?



 その後、本当に警察から連絡がきた。ダンジョンの発見場所を教えてほしいと言われたので、GPS情報を乗せてメールを送信。すぐに現場に警察官、ではなく正確にはダンジョン対策課(仮称)と呼ばれる臨時の政府組織の人が数名現れた。互いに軽く自己紹介した後、早速本題に。


「こちらがくだんのダンジョンですね。怪我はないと聞いていますので、救急車は派遣していませんが、心身に問題はないですか?」


「はい、三人とも全く問題ないです。生命力も0を切りませんでしたし」


「それなら良かったです。もしも体調に変化があったりしたら、近隣の医療機関へ相談して下さい。医療機関には所謂ヒールやリカバリー、ポーション製作、その他のスキルを有している人が多いですから」


 なるほど。医者にはヒールやリカバリー、薬剤師にはポーション製作というように、職業にあったスキルを入手するのだろう。


「はい、分かりました」


「それと出来る限り詳細に、内部の構造を説明して頂けるとありがたいのですが、ご都合の程は如何でしょうか?」


「はい、大丈夫ですよ。一層目は……」


 内部で現れた魔物について説明する。


「俗に言う『中難易度ダンジョン』だったようですね。よく無事でいられましたね……。本当に良かったです」


「ま、まあ。偶然良いスキルを持っていましたので……。それより、『中難易度ダンジョン』とは?」


「そのままの意味で、ダンジョンの難易度を現す指標です。まだ、仮の呼び方ですがね。低難易度は『10層までスライムしかいないようなダンジョン』で中難易度は『10層までにスライム以外の魔物が登場するダンジョン』、高難易度は『1層目から強敵が現れるダンジョンです』」


「なるほど。高難易度じゃなくてよかった感じですね……」


 俺達のステータなら高難易度でも何とかなっただろうけどな!


「いえ、実は一番けが人が多いのは中難易度ダンジョンなんですよ。高難易度だったらすぐに勝てないと分かって撤退しますが、中難易度だとそこそこ進めてしまうんですよね。10層まで行って、生命力を減らされて、帰りにけがを負う。のようなケースが多発しています」


「「「なるほど」」」


「情報提供ありがとうございました。今後はダンジョンと思われる場所には入らないようにしてくださいね」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る