日本産のダンジョン十層目のボスは狐だった。体長2メートルほどの大きな狐である。姉さんはスマホで「可愛い!」と写真を取っている。


『業火之狐』

レベル:25

生命力最大値:50

生命力回復率:1

魔力最大値:120

魔力回復率:5


「コーン!」


 ボスが雄たけび?を上げると同時に、狐火が大量に現れた。1,2,3,……数えてられないな。だいたい百個くらいだろうか。これは凄い迫力だ。姉さんは一枚写真を撮った後、直ぐにスマホを仕舞った。

 これを一個一個処理していたらきりがないな……。


「よし、それじゃあ本体を叩くぞ! 【魔力ブースト】! ブリザード!」


 【魔力ブースト】は一定時間魔力回復率が5倍になるスキルだ。これは異世界にてアンデッドマジシャンを倒した時に手に入れたスキルである。なお、クールタイムは5分。

 ブリザードは【水魔法】で雪嵐を生成する魔法。かなり大量の魔力を消費する魔法であり、その分効果も強い。狐火の三分の一が消えたのではなかろうか?


「【魔剣術】! やああぁぁぁぁ!」


 姉さんの叫び声は【咆哮】効果によって相手に威圧を与える事が出来る。狐は少したじろぐ様子を見せた。


「【エンチャント[回復]】」


 そして加奈はヒールの上位互換、【エンチャント[回復]】を使用。これは仲間一人に継続回復を付与する事が出来る魔法である。一般的には「リジェネ」などと呼ばれたりもするな。エンチャントのクールタイムは1分とそこそこ長いので注意が必要だ。


 大量の狐火が姉さんに向かって飛ぶ。【咆哮】によって姉さんにヘイトが集まったのだろうか? ボスに向かって駆けていく姉さんを、俺は氷魔法で援護する。


「ミスト、からの~スノー!」


 ミストは【水魔法】により霧を生成する魔法。基本は姿を隠すための魔法だが、炎系の魔法を弱める効果もある。スノーはミストで出来た霧を凍らせる魔法。その名の通り、雪が生成される。

 実はミストからスノーを使った方がブリザードよりも魔力消費が少ないのだ。雪が舞って、狐火の炎の威力が一気に弱った。


「コーン!」


 姉さんが目の前に迫り、ボスは狐火を一気に姉さんにぶつける。姉さんの肌が焼かれるが、生命力が残っている限り、何とかなる。しかも、継続回復が付いているから、おそらく姉さんの生命力はほとんど減っていないだろう。


 姉さんの攻撃により、ボスはあっさりと倒された。異世界で鍛えているからな、流石にこの程度だと楽勝だったな。


「ドロップアイテムは何かな!」


 貢献度が一番高かったのは姉さんだろうか? だとしたら通常ドロップしか落ちていないと思うが果たして。


「魔石は無いな。通常ドロップは……。これだな」


「お稲荷さん?」


「しかも、狐っぽい耳までついてる拘りっぷり。味は……美味いな! お揚げに出汁がしみ込んでいて、めっちゃ美味い! 二人もどうぞ」


「わあ! すっごく美味しい!」

「!! 美味しいね」


 腹ごしらえ出来た所で、次の階層へと向かいますか。あ、その前にチェックポイントを記録しないとな。


<10階層のチェックポイントを記録>


 これで今後は11階層からチャレンジする事が出来る。



 11階層~20層は菜の花と桜が咲き乱れるフィールドだった。


 フィールドという事はつまり、10層までと違い「道」という概念が無いので、次の層へ通じる階段の場所を探すのに苦労する。何せそこそこ広い空間の中から、二メートル四方の穴を探すのだ。見つからないときは本当に見つからない。逆に一瞬で見つかる時もあるけどな。

 さらに大変なことに、10層までは前後を警戒すればよかったのが、ここでは360度警戒しなくてはならない。異世界で冒険者を始めた頃は苦労した物だ。見てなかった方向から奇襲を受けたりな。でも今ではそんなミスは犯さなくなった。


「あ、【魔力感知】に反応。向こうの茂みとあっちの茂みに隠れてる」


 そう。魔力感知がある限り、奇襲を仕掛ける事なんてできない。エスケープラビット様様である。


「オッケー! 私が向こうのを叩くわ!」


「んじゃ、俺はこっちか。加奈、補助を頼む」


「任せて。【エンチャント[魔攻]】」


 加奈がかけてくれたエンチャントはボス戦の時とは違う者。ボス戦では被弾に備えて回復のエンチャントをかけてくれたが、今回は魔法攻撃力のバフだ。



 11層~20層で現れる敵は、火狐(狐火を5個ほど纏った狐。『業火之狐』の劣化版だな)、猫又(先ほどよりも大きく、タフになっている)、舌切雀(羽がナイフのように鋭いスズメ)の三種類。通常ドロップはそれぞれ蝋燭、猫じゃらし、雀の羽である。あと、魔石。


 20層のボスは『業火之狐』と『猫又の王』だった。特別苦労する事も無かったのでカットだ。ドロップアイテムはそれぞれお稲荷さんと三味線だった。あと、狐からは魔石も落ちた。


「あ、見て。狐からもう一つドロップアイテムが。アユ君、流石ね」


 加奈が言ったように、狐からもう一つドロップアイテムが落ちた。これは非常に珍しい現象である。先に言っておくと、魔石+ドロップアイテムは幸運値が高ければ比較的よく起こる現象である。魔石は通常のドロップアイテムとは別枠だからな。

 だが、ドロップアイテムが複数落ちるなんて事は、基本的に起きない。ましてや、今回のようにドロップアイテム+ドロップアイテム+魔石と三つもアイテムが手に入るのはまずありえない現象だ。

 だが、これを可能にするスキルが存在する。俺が新しく得たクラス『コレクター』とその付随スキル【ドロップ数上昇】である。名前の通りのスキルであり、通常ドロップに加え、もう一つお宝を入手できるという便利スキルである。


 今回手に入ったのは指輪だ。どんな効果があるだろう? 早速【鑑定】を使用する。


『狐の指輪』

耐久値:100

生命力最大値:+0

魔力最大値:+10

スキル:狐火

※スキル【狐火】:魔力を10消費する事で、狐火を5つ召喚する事が出来る。クールタイムは1分


「これ、凄くいいね」


「だな。これは……加奈が使うか? こっちだと、加奈は攻撃手段を持ってないし」


「いいの」


「もちろん。姉さんもいいよな?」


「ええ」


「ん。ありがと。役立てるね」


 その後、「アユ君、嵌めて?」といつぞやの様に左手を出され、姉さんがちょっと拗ねたりしたが、それはまた別のお話。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る