日本産のダンジョン

 三浦先生が職員室へ向かって数十分後、俺達は帰宅する事になった。これは、社会の混乱に伴って公共交通機関が麻痺する可能性がある為らしい。まあ、そんなのは建前で、本音は「このまま授業をしても、集中できないから」だと思う。

 さて、思わぬ休日となってしまったが、俺達にはすべきことがある。今すぐ山へ向かわないと!


 姉さんにLIMEを送ると、「竹刀を取りに行くから少し遅くなる。先に行ってて」との返事が。そういえば、もう部活も引退してるし、竹刀は持って帰ってもいいのか。


 さて。現地へは自転車で向かう訳だが、町がいつもよりも騒がしく感じる。あのメッセージのせいで注意力が落ちた人が事故を起こしていたり、学生同士が自分が得たスキルの自慢をしたり。

 不安なのは、街中で魔法を使う人が現れないか、だな。幸い、今の時点だとそもそもスキルを入手できた人が少ないし、その中で攻撃魔法を入手した人となると限られている。また、魔力最大値は低いので、大した被害は出ないと考えられる。

 だけど、今後他の人がスキルを入手し始めたら。レベルを上げ始めたら。

 そうなる前に、迅速な法整備が必要になるだろうな。


「案外そんなに慌てなくても良いかもしれないよ?」


「ん? なんでだ?」


「だって、魔法が無くても、危ない物ってたくさんある。ナイフや竹刀は勿論、レーザーポインター、睡眠薬。色んな危険がある。それらによる被害を全部ひっくるめて『暴行罪』や『傷害罪』として扱う」


「なるほど。言われてみたらそうかも」


 時々聞こえてくるサイレンの音に不安を覚えながら、俺達は山へと入って行った。



「遅くなってごめんね! 待った?」


「いや、大丈夫。俺達もさっき着いたところ」

「ん。大丈夫だよ」


「なんだかデートみたいな会話だね。で、どうだった?」


「実際に見た方が早いと思う。ついてきて」


 山道を外れ、三人で例の場所へと向かう。そこには……。


「わーお。地下へ続く階段。ダンジョンよね、これ?」


 姉さんが言ったように、そこには地下へと続く階段があった。幅と高さは二メートルほど、深さは未知数である。


「たぶんな」

「でも、まだ入ってないから分からない」


「じゃあ、三人で入りましょうか!」


 階段を一段一段降りていく。五メートルほど降りたところで、広間に出た。


<0階層のチェックポイントを記録>


「! やっぱりダンジョンだったみたいだな」


「凄いわ! つぶやいたーに投稿しよう! 『#ダンジョン を見つけた! 今から潜ってみます! #ダンジョン発見 #ダンジョン探索』」


 姉さんは来た道を戻って入り口の様子を撮影。戻ってきて、今度はチェックポイント魔方陣を撮影。それをつぶやいたーに投稿した。


「大丈夫か、そんな事をして?」


「平気よ。そもそも、フォロワーは友達くらいしかいないし。さ! 早速攻略しよう!」


「「おー!」」



「これは……あれだな。日本風だな」


 無限ダンジョンの1~10層は廃坑?洞窟?のような感じの通路だったが、このダンジョンの通路は砂利道だった。神社にあるような砂利道である。そして道には鳥居がかかっており、提灯が吊るされている。

 ちなみに、砂利道から外れようとすると、見えない壁に阻まれる。ショートカットは出来ないようだ。


「魔力感知に反応があったぞ。多分この先にスライムがいる」


「ええ……」

「スライム……。似合わない」


 スライムを発見した。日本風な風景の中にたたずむスライム。加奈の言うように、正直違和感しかない。


「写真、取らなくっちゃ! うん? この場所、普通に電波が届いてるわね。つぶやいたーに投稿しよ」


 マジか。ダンジョンの中でも通信できるのか。

 スマホを確認すると、確かに電波が届いているみたいだ。ただ、少し弱まっているみたいだから、このまま深層へ進むと、通信できなくなるかもな。


「ドロップアイテムを確認したいから、俺が倒してみるよ。フレアショット」


「あ、スライムゼリー」

「魔石もドロップした」


「普通だなあ。向こうのダンジョンと変わらないかあ」


 一層はそんな感じで特別な発見は無かった。次の層へと進む。

 二層、三層では属性スライムが現れはじめ、四層では新しい魔物が姿を現した。


「あそこに魔物がいるな。なんだ、あれは?」


「猫みたいね」

「尻尾が二本。猫又?」


 なんと、猫又が現れたのだ。すげえ、まさか本物の猫又に出会えるとは!

 ちなみに、攻撃力は普通の猫程度のようで、あっさり倒す事が出来た。てかこれって動物虐待と見なされないか? いや、動物愛護法で『愛護動物』に指定されているのは哺乳類・爬虫類・鳥類であって、妖怪は含まれていない。よってセーフだ。

 通常ドロップは猫じゃらし、たまに魔石が落ちる感じだった。猫じゃらし……。これに使い道ってあるのか?


 ちなみに、この辺りになると、電波が全く届かなくなった。もうつぶやいたーに投稿したり出来ない。


 五層になるとスライムは出なくなり、代わりに猫又と狐火が現れるようになった。猫又はともかく、狐火の攻撃は火傷を負うので早い目に処理するのが無難だな。なお、物理攻撃が効かないので、魔法(俺は【水魔法】・姉さんは【魔剣術】)で倒す必要があった。

 【魔剣術】。ラノベやアニメにある「魔法を纏った剣」をイメージして開発した技術である。元々はゴースト系の敵を倒すために開発した技術であり、所持している属性魔法を剣に纏わせて戦う事が出来るのだ。

 狐火のドロップアイテムはろうそくだ。サイズはかなり小さいが、有用なアイテムと言っていいだろう。


 そんな感じで十層まで進んだ。登場する魔物については最初と変わらず。ただ、後半は狐火の割合が増えたような気がする。アチチ!


「で、ボス部屋前に着いた訳だ。この難易度だと余裕だな」


「そうね! じゃ、さっさとボスも倒しちゃいましょ!」


「油断大敵だよ」


 加奈の言うように油断は禁物だ。休憩して魔力と生命力が回復するのを待つ。そして作戦だが……。


「それじゃあ、最初から全力で行くか」


「そうね。出し惜しみは無しで、一気に畳みかけよっか」


「うん、賛成。みんな、全回復できた?」


「「イエス」」


 ボス部屋への扉を開く。中にいたのは……。


「「「狐!」」」


 一匹の狐だった。




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