ダンジョン対策課
ダンジョン対策課。ステータスシステムの起動、ダンジョンの出現、そしてそこで起こる事故を受けて、急遽作られた政府直属の部署である。警察だけでなく、政治家や科学者も所属していたりする。
「対策」と言っても、ダンジョンに突入して内部を調べるなどはできておらず、今の所、市民に対し警戒を呼び掛けたり、中難易度ダンジョン前に職員を配置して近づかないように警告したりといった活動を行っている。ただ、ダンジョン出現から半日以内にそこまで出来た事は賞賛に値するだろう。
そんな彼らは今、全国にあるダンジョンの分布地図を眺めていた。
「駄目ね……。なんの法則性も無いわ」
そう言ったのはコンピュータサイエンティストの綾地美鈴。スキル『思考加速』を身につけた彼女は、ものすごい速度でパソコンのキーボードを叩いていたが、何の成果も得られなかったようだ。
「ダンジョン発生場所や難易度に法則性は無し、か。歴史についても調べたか? 例えばその辺りに昔墓地があったとか」
「現在~過去の地図のデータベースにアクセスして調べたけど、そう言った情報も無かったわ」
「そうか。はあ」
ダンジョン対策課の一応トップである佐藤和樹は頭を抱える。何が「息子さんがラノベにはまってて、君もそういうの読むって言ってたよね? という訳で、ダンジョン対策課に転属ね」だよ! と心の中で悪態を吐く。
現在日本で見つかっているダンジョンは12個。見つかっていない物も多数あるだろうという考えの下、綾地にフェルミ推定してもらった結果、50個以上のダンジョンがあるだろうと推測されている。
それらを管理し、一般人の立ち入りを規制する事が当面の目標なのだが、どうやって見つけたらいいのか見当もついていない。
「「はあ」」
揃ってため息を吐く綾地と佐藤。暗い雰囲気が漂うその部屋へ、缶コーヒーを両手に持って若い男が現れた。
「お疲れ様っす、先輩方! 缶コーヒー、買ってきたっすよ!」
この男の名は白石栄作。広報担当であり、マスコミを通じてダンジョンに入らないよう呼び掛けたりする役目を担っている。
その仕事がひと段落付いて、する事がなくなったので、こうして雑務というかパシリをしているのだ。
「ありがとう、頂くわ」
「ありがとう」
「どうっすか?」
「この顔を見て察してくれ」
「あ、はい。いやあ、僕にも出来る事があればいいんすけど……。何か手伝えることはないっすか?」
「正直に言うと、もうなくなったわ。私達も八方ふさがりでさ」
うーん、と顎に手を当て、先輩を眺める白石。そして、ポンと手を打って
「よし、こうなったら気分転換しましょう! このサイト、ご存じっすか?」
そう言って彼がその場にいた人に見せたのは『現実世界攻略wiki』という名前のサイトである。
「ここの掲示板に、いろんな考察とかが載ってるんすよ! 皆で眺めてみましょうよ!」
「そう、だな。ちょうどコーヒー買ってきてくれたんだし、少し休憩とするか」
◆
「このスキル一覧ってページ、凄いな。日本で一番、スキルに関する情報が記載されていると言っても過言ではないな」
「なんか面白いスキル、見つかりました?」
「スキル【快眠】を使えば、どんな場所でも快眠できるそうだ」
「うわあ、何それ! すげえ欲しいっすね!」
「私が見つけたスキルも興味深いわよ。スキル【忍法】だって」
「それもカッコよさげっすね! どんな効果があるか載ってるっすか?」
「パッシブ効果として、身軽になれるそうよ。元々、忍者村のスタッフとして、パルクール?を披露していたらしいのだけど、それがやりやすくなったそうよ。あと、アクティブ効果として、魔力を消費して身体能力を強化したりも出来るみたい」
「なにそれ、かっこいいっすね!」
「ただ、忍者じゃなくて『NINJA』だから、隠密とかは出来ないみたいね」
などと話しながらも、三人は頭のどこかで『ダンジョン発見の手助けになるスキルは無いかなあ』と考えていた。もっとも、そんな都合のいいスキルは見当たらなかったが。
◆
「さてと、そろそろ仕事に戻るか。おい、白石。ちょっとこの地図を見てくれ」
「え? 僕っすか?」
「いいからいいから。ほら、これ。現在見つかっているダンジョンの分布だ。これを見て、何か気付くことはあるか?」
「えええ……。え、これってテストっすか? 間違った事を言うと説教コースっすか?」
「いや、単純にちょっとしたアイデアが欲しいってだけだ。間違いもなにも、俺達も正解を導き出せてない訳だからな」
「そうっすね……。このダンジョン、山の中にあるんすね。誰がこんなのを見つけたんすか?」
「ん? ああ、近隣の高校生が見つけたらしいな。中難易度ダンジョンだったそうだが、10層ボスまで倒して帰ってきたらしい」
「それは凄いっすね! 怪我はあったんすか?」
「いや、大丈夫だったらしいぞ。なんでもメンバーの中に回復魔法を持っている子がいたらしくてな。あと、魔法使いもいたらしいな。えーと、これがレポートだ」
「なるほど~。青春してますねえ! 僕もダンジョンに行きたいっす!」
そう言いながら、発見者の資料に目を通す白石。
ある項目に疑問を覚えて、上司に疑問をぶつける。
「先輩、これってつまり、剣道部の子がいて、その子が竹刀でばっしばっし魔物?モンスター?を倒したって事っすよね?」
「まあ、そういう事だろうな」
「なんでこんな山奥に、竹刀を持って入ったんでしょう?」
「そりゃあ、お前。ダンジョンを見つけて攻略するってなったら、武器くらいほしいだろ?」
「発見場所がもっと見つかりやすい場所、例えば自分の家の庭とかなら、取りに帰ったんだろうなって思えますけど、こんな山奥っすよ? 偶然ハイキングに来ていた高校生が、そこにダンジョンを見つけたとして、わざわざ家まで戻りますかね? ましてや、発見時間を見てください。ステータスシステムのアナウンスが入ってから約一時間後に発見したらしいっす。警察が接触したのはもっと後らしいっすけど。高校が休業になって、そこからこの山へ行って、ダンジョンを見つけて、家まで戻って武器を取りに帰って。そんな時間的猶予はないと思うっす」
白石栄作。先ほどまで雑用係だったが、実はなかなか頭の切れる男である。マスコミを自分の思惑通りに動かし、さっさと仕事を終わらせたのは、間違いなく彼の地頭の良さがなす業なのだ。
「なるほど……。で、何が言いたいんだ?」
「つまりっすね。この子達は、ダンジョンがある場所を事前に知っていたんじゃないっすかね? 何らかのスキルを使ってダンジョンの場所を探り出し、準備した上で山を登った。そう考えれば自然っすよ」
「確かに……。ちょっとその事例を詳しく見てみるか。綾地!」
「ええ。もう調べたわ。で、白石の言う通りかもしれないって思う事が分かったわ。これを見て。グルグルマップの衛星写真でなのだけど、発見場所はここなの。山道を外れた場所。こんな場所、はじめからそこにダンジョンがあると確信してないと行かないわ」
「よし。今すぐその高校生にコンタクトを取るぞ」
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