ステータスシステムの起動

地球の異変

 その日、俺は目が覚めると同時に、奇妙な感覚を覚えた。なんとなく、虫の鳴き声が大きく聞こえる気がしたのだ。姉さんや加奈は特にそうは感じないようなので、俺の気のせいなのか?


 リビングに入ろうとドアに手をかけた時、リビングには人が二人いて、片方がキッチンに、片方がテレビの前に座っていると分かった。「ドアに手をかけた時」である。「ドアを開けた時」ではない。


 透視能力が芽生えたような感覚。この感覚を俺は知っている。【魔力感知】だ。異世界において、魔力は全ての生命体が持っているエネルギーであり、それを感知するスキル【魔力感知】は最強の索敵スキルの一角であると俺は思っている。

 ちなみに、【魔力感知】はパッシブスキルなのだが、「耳を澄ます」のと同様、「魔力感知に集中する」ことで、よりはっきりと分かるようになるので、アクティブスキルっぽい一面もあると言えよう。


 さて、地球でこのスキルが使える事については、前々から分かっていた。ゴールデンウィークの前に、山の一角の魔力濃度が高いと判断したのは、このスキルを持っていたからだしな。だが、昨日までは索敵機能を使う事は出来なかったはずなのだ。

 つまり、昨日まではお義母さんとお義父さんは魔力を有していなかったはずなのである。それ故に【魔力感知】に引っかかる事は無かったのに、今ははっきりと認識する事が出来る。


 いったいどういう事だ? まさかお義母さん達にも特殊体質がうつったとか……?



 そしてその後、お義母さんとお義父さんが特別という訳ではないと分かった。町を歩く人、学校にいる人、友人、先生。みんなが魔力を有している。もっと言うと、散歩中の犬も、間抜けな顔で道を歩いている鳩も、そこらを飛んでいる羽虫も。ありとあらゆる生き物に魔力が宿って見える。

 なんだか気持ちが悪いな。地球にいるはずなのに、異世界にいるような感覚に陥る。



 放課後。姉さんと加奈と共に例の山へ行った。


「気のせいかもしれないけど、体がむずむずするわね」

「うん。私もそんな気がする」


「そうなのか? 確かに濃い魔力が満ちているけど、二人にもそれを感知できるのか?」


「? 魔力濃度が濃いの?」


「ああ。この周囲だけは魔力が高いよ。感覚的には……異世界と同じくらいの濃度に達していると思う。あと、地下にあった魔力の反応が大きくなっている」


「なるほど。もしかしたら、パッシブスキルが働いてるのかも。ここに来た時だけ身体強化が強くかかって変な感覚になっている、みたいな。そう考えてみたら、そんな気がして来た」


 むずむずする感覚はパッシブスキルが働いたからなのか? その可能性は十分あるな。


「もしかしてここなら魔法を使えたり?」


「かもしれないな。アイスショット!」

「ウィンド」

「ヒール」


 俺の手から氷の塊が発射され、姉さんから風が放出され、加奈の体が癒しの光に包まれた。


「三人同時に使えたな」


「前まではアクティブスキルを意識的に発動はできなかったのに……。やっぱりこの場所が特殊なのかしら」


「ねえアユ君。魔力濃度が高いのはここだけ?」


「ああ。今の所、ここしか知らないな」


「もう一つ質問。ここの魔力はどこへ向かってる? この辺りにとどまってるの? それとも町へと流れて行ってる?」


「良い質問だな、加奈。ここの魔力は町へと流れて行っているように俺には見える。つまり、このままだと……」


「「街中も魔力で溢れる……?」」


「だろうな。いや、既に街にも魔力が行き渡っているんじゃないかな? ほら、今朝『地球の生き物にも魔力が宿って見える』って話をしただろ?」


「なるほど。つまり、アユは『地球の大気中にも魔力が行き渡った結果、地球に住む生き物が魔力を取り込むようになった』と言いたいのね」


「ああ」


 この町に異変が生じているのか、それとも日本全国が魔力に飲まれているのか。


「ねえ。例のスライム騒動も魔力が原因かも」


「確かに……。魔力濃度が高くなった結果、魔物が生じたって事か……。でも、ドロップアイテムを落とさなかったんだろ?」


「ダンジョンで生まれた魔物じゃないから、ドロップアイテムを落とさなかった、とか」


「なるほど。確かにそうとも考えられるか……。姉さんはどう思う?」


「うーん。私も、『アメリカで見つかった遺跡は実はダンジョンじゃないかな』って思っているわ。ドロップアイテムが落ちなかったり、魔物がリポップしなかったのは、ダンジョンが不完全だったから、とか?」


「なるほど。もしそれが真実なら、いつか完全なダンジョンが生成されるかもしれないな」


「そうだとしたら、この場所って怪しくない? 地中に埋まっている魔力塊。あれがダンジョンの卵だったりしないかしら?」


「あり得なくはないな。だが、リエルさんの話では、ダンジョンはステータスシステムと共に出現するんだろ? でも、地球ではステータスシステムが無いし……」


「それもそうね。『ステータス』……やっぱり開かないわね」


「だが、何かが起こる事は十分考えられるよな」


 地球は一体どうなってしまうのだろう。不安なような、少し楽しみなような。そんな感想を言いながら、俺達は帰路についたのだった。




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