地球に魔力が?ダンジョンが?
長い長い回想を終え、俺は改めて森の中を眺めた。目を閉じて、魔力感知に集中する。確かに魔力の流れを感じる。
「ちょっと森に入っていい?」
そう聞くいてみるが、お義父さんは首を横に振った。
「危ないからやめておきなさい」
「(って言うだろうな……)その、トイレに行きたくって……」
「ああ、なるほど。分かった、それなら仕方がないな。遠くには行くなよ?」
「すぐに戻ってくる」
「この辺りか? 地中に魔力を感じる……」
俺は地面を観察する。特に変なところはないよな……。でも、明らかに
掘り起こすか? いや、駄目だな。公園内を勝手に掘ったりしたら、不審がられるだろう。それに時間が無い。早く戻らないと心配させてしまう。
◆
「という事があったんだ。どう思う?」
「何か呪物でも埋まってるのかな……」
「怖い……」
「こっちじゃ魔法は使えない……事も無いから、最悪幽霊が出たら魔法で対抗できるか」
幽霊。俺はその存在を信じていない。一応、異世界にはゴーストやスケルトンと言った魔物が出現するが、ゴーストはあくまでそういう種類の魔物であり、死んだ人の霊ではないと俺は考えている。
ゴーストは物理攻撃が効かない敵であり、また回復魔法でダメージを与える事が出来る。この辺りの性質を鑑みても、「そういう種類の敵」という印象しか受けない。
「あの山なら、放課後にでも自転車で行ける距離だよな。時々行って確認するかあ……」
「危なくない?」
「一人で行くの? 危険よ」
「や、大丈夫だろ……ってこれだとフラグ発言だな。うーん、そうだな。三人で行動するか?」
「ええ!」「ん!」
「んじゃそうしようか。鬼が出るか蛇が出るか、あるいは何も出ないか……」
それから数週間。俺達は三日おきにあの場所へ赴いて、現地を調査した。こっそり監視カメラを設置して、夜中にナニカが現れないかを探ってみたが、別に百鬼夜行がそこから現れたりはしなかった。
ただ、安心はできない。地下にある魔力がどんどん高まっているのだ。ただ、魔力が強まるにつれて、魔力感知で魔力の質を読み取れるようになってきたのだが、今感じている魔力に害意は無いように感じる。これはただの勘と思われるかもしれないが、実際そう感じるのだ。
魔力感知のレベルを上げると、索敵の際に相手の雰囲気を把握できるようになる。味方なのか、敵なのか。敵だとして俺に気が付いているのか否か。そう言ったことがなんとなくわかるのだ。
まあ、この地下に眠る物が【ジャミング】のようなスキルを使って、魔力感知を妨害しているなら話は別だが……。仮にそうだとしたら、「どうして察知できるのか、完全に隠せばいいのに」という疑問が残る。
「この件もそうだし、地球でもスキルが使えるようになったり、なんだか不穏ね……」
「だな。それが吉兆なのか凶兆なのかは分からないけど、願わくは吉兆であってほしいな」
◆
「明日からゴールデンウィークだな!」
高校にて。俺達はゴールデンウィークの話題で盛り上がっていた。ゲーム三昧だと喜ぶ人、友達と遊びに行く約束をする人、家族旅行に行くと話す人、女の子をデートに誘って断られる人。みんな楽しそうだ(最後の人はドンマイだ)。
「そー言えば、ネットニュース見た? スライムが見つかったらしいぜ?」
「は?」
とある友人の一言に俺は驚いた。スライム? あの? 小学生の頃、沢山倒したあのスライムの事か? それが地球に現れただって?
「あー、見た見た。あれってガチなの?」
「流石に大学が発表してるし、ガチじゃねーのか? まあ、スライムに似た生命体って事であって、ドラクレとは無関係だと思うけどな」
「でも、スライム倒してレベルアップってロマンじゃない? 俺もゴールデンウィークはスライム探しに出かけようかな?」
「やめとけ、見つかる訳ないだろ。それに、どうせ新種の生き物ってだけだよ」
なんだなんだ? 結構みんな知っている話題なのか?
詳しく聞くと、とある大学が「つぶやいたー」で発表した事らしい。そのつぶやきがこちら。
※ドラクレ(ドラグーンクレーター):ドラゴンを倒して、騎龍兵になり、その頂点を目指すというストーリーの狩りゲー。ドラクレという略称で呼ばれている。スライムはこのゲームの雑魚キャラである。
※つぶやいたー:SNSの一種。世界的に広く使われている。加奈や俺もアカウントを持ってるが、あまり使用していない。
~~~
京都府大学【公式】@KU_Topics_JP 4月28日
米国で本大学の研究員が遺跡を発見。内部で既存の生命科学では説明できない生命体が発見された。その姿から「スライム」との愛称で呼ばれる事に。また、遺跡の名称も「ドラクスタ」に決定か?
〔※画像が添付されている※〕
1392コメント 6321りつぶやき 32
【コメント(抜粋)】
・え? まんまスライムじゃん。CGじゃないんだよな?
・「それっぽい生き物」ではなく、マジでスライムで草
・これを倒せば、レベルアップするのかな?
・んな訳ないだろ? ないよな?
・「既存の生命科学では説明できない」って所が引っかかる。やっぱり魔物?
・これは神が世界を滅ぼそうとしているのです……。今こそ、我が教団へ。
・うわ、怪しげな宗教がおる! こういう人ってSNSとかしないと思ってた
・どうせ新種の生命体。でも、スライムっぽいという点に関しては完全に同意。
・これ、なんて学名がつけられるのかな?
~~~
「……」
見た目は確かにスライムだな。だが、俺の知っているそれよりは小さいな。異世界との関係は今の所不明って感じだな。
「驚いたか? スライムそっくりだろ?」
「ま、まあな。驚いたよ。これってもっと詳しい記事は無いのか?」
「京都府大学のHPに詳しく載っているはずだぞ」
「ほんとか?!」
この遺跡探索に関わった研究員の名前を調べる。もしかすると、もしかするかもしれない。そうだったら、詳しい話を聞くことが出来るかもしれない。
「赤木聡、赤木佐奈……」
あった。俺はその名前を見つけて口元が緩む。
「ん? どうかしたか?」
「や、なんでもない」
程なくして始業のチャイムが鳴った。ゴールデンウィーク前最後の日が始まった。
◆
「もしもし、母さん? 今大丈夫?」
『歩夢! 貴方から電話をかけてくるなんて珍しいわね! ええ、大丈夫よ。元気にしてる?』
「ああ。普通の生活を送ってるよ。母さんは?」
『ええ。楽しくトレジャーハントしてるわよ』
俺の遺伝上の母親、赤木佐奈。職業は自称トレジャーハンター、実際は考古学者である。俺が三歳になった頃、どうしても手が離せない研究が出来たとかで、日本を離れる事になった。向かう先は、あまり衛生状態が良くない国であり、赤ん坊の俺を連れて行くのは憚られた。そして、俺は一時、母の兄(=俺の叔父)の家に預かられることになった。
一年後、両親の仕事はいったん落ち着いたらしいのだが、それでも国内外を転々とする必要はあった。転校を繰り返すのは子供の心身に良くないと考えたのか、あるいは俺が従姉と仲良くなっていたからか、俺は今でも叔父の家に居候している。なお、俺の養育費と称して、相当な額が叔父の家に振り込まれているらしい。詳しい額は知らないが、両親はかなり稼いでいるようだ。
「えっと、守秘義務とかがあるなら言わなくてもいいんだけど……」
『もしかしなくても、粘性生物の事ね?』
「ああ。スライムを見つけたんだってな。どんな感じだったか詳しく教えてくれないか。具体的には……倒した場合どうなったのか」
『ふふふ、流石聡さんの息子ね。着眼点が独特かつ重要な点だわ。箝口令が敷かれている訳では無いし、話しても問題ないと思うわ。でも、あまり広めないでね。実わね、粘性生物を倒したら……水だけが残ったわ。DNAやRNAどころか、脂質膜なんかも検出できなかった。まるで最初からそこには水しか無かったかのように』
「! そう、か」
仮にその遺跡がダンジョンだとしたら、水なんて残らない。残るのはドロップアイテムである。
『驚いているみたいね。念のために付け加えるけど、粘性生物を倒してもお金がドロップしたりはしなかったわ。世間では『リアルドラクレだ!』なんて騒がれているけどね』
「本当に水以外、何も残らなかったのか? 魔石とか」
『あはは、歩夢もゲーム脳なのね。まあ気持ちは分かるけど。ええ、何も残らなかったわ。まあ、何度も倒せば一匹ぐらいそういうのを落とすかもしれないけど……。これ以上個体数を減らすわけにはいかないから』
「? そんなに少数しか見つかっていないのか?」
ダンジョンだとしたら、リポップするはずだ。ダンジョンでは、魔物は一時間程度でリポップする。
『最初は20匹ほどいたけど、どうにかサンプルを採取しようとして失敗し続けた結果、今は10匹ほどしか残っていないわ』
「どこかに隠れているとか……」
『無理だと思う。何せこの遺跡、凄く狭いから』
規模も小さい、と。なるほど。
「そっか……。うーん、分かった。忙しいだろうに、わざわざありがとね」
『いえいえ。私もあなたの声が聞けて嬉しかったわ。次に会うのはお盆かしら? 楽しみにしてる』
「またね」
うーん。地球にダンジョンが現れたって訳では無さそうか? まだ断定はできないな。
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