家族団らんと鑑定と

 家で改めて「準優勝おめでとうパーティー」が開かれた。と言っても姉さんは外で食べてきたので、盛大な料理なんかは出されない。その代わり、かなり高級なケーキが出された。


「それにしても最後の試合は納得できないな!」


 父さんはまだその事を気にしている。当の姉さんは気にしていないみたいだが。姉さんは気にしていないという旨を伝え、父さんをなだめていた。その時、加奈と俺に視線を向けていたのが気になった。

 あの姉さんの視線……。「後で話がある」か? 当っていたら、以心伝心だな。



 美味しいケーキを食べ終わった後、家族みんなでのんびりとテレビを見ていた。偶然点けたチャンネルでクイズ番組が放送されていたので、それを見ている。


『それでは次の問題! この果実の名称はなんでしょう!』


 写真が表示された。外表は黄色くてトゲトゲ。断面というか実の部分は緑色でゼリー状である。正直、気味が悪いフルーツだな……。


「何、このフルール? 変わってるね」


 加奈が首を傾げ、俺達を見る。当然答えを知っている人はいないので、家族一同首を傾げる。


(鑑定が使えたらいいのにな。『鑑定』、なんちゃって)


 ここが異世界なら、鑑定すれば名称が分かる。そう思いつつ心の中で鑑定とつぶやくと、半透明のポップアップが表示された。


<ツノニガウリ:ウリ科のつる植物>


「え? ツノニガウリ……?」


 俺のつぶやきに、四人がこっちを向いた。そのタイミングでクイズ番組が進行した。東大ぎょくが早押しボタンを押したのだ。


『お答えをどうぞ!』


『ツノニガウリ!』


『正解です! 東大玉チームに一ポイント!』



「アユ、凄い!」

「おお~! アユ君正解」

「よく知ってたな」

「どこで知ったの」


 家族からの質問攻めに俺は。


「ど、どこかで聞いたことがあるんだ。あはは」


 と言いつつ、俺は姉さんと加奈に「後で話がある」という視線を送った。



 俺達三人は寝室で横になった。俺が真ん中、両脇に姉さんと加奈がくっついている。まさに両手に花。


「何か言いたそうな顔をしてたよね、サク姉、アユ君」


「流石、俺達は以心伝心だな」

「うんうん。夢の世界も含めると、二十年以上一緒にいるからね」


「先に姉さんからどうぞ。決勝戦での話だよな?」


「ええ。普段なら、私も審判の判断に苦言を呈したと思うわ。でも、今日は違ったの。あの時、詩織ちゃん、対戦相手の子は明確に私を恐れたわ。大声に驚いたとかじゃない。あれは迫りくる死の恐怖に怯えた表情だった。そしてその後に繰り出した私の一撃は、審判が言うように力任せの攻撃だったわ。正確には相手を戦闘不能にするための攻撃だった。おそらくあの時、私はスキル【剣術】とスキル【咆哮】を使ったんだと思う。この世にあってはならない力を使って勝っても、って思ったから審判の判断に納得したのよ」


 スキル【剣術】は剣での攻撃が上手くなるパッシブスキルである。その効果は、体の動きにアシストが入るという物。

 スキル【咆哮】はダンジョンに挑んでいる時、姉さんが大声で魔物をひるませた際に手に入れたスキルである。叫び声に殺気を乗せるというパッシブスキルであり、ダンジョン攻略でも役に立っている。


「それって……」


 加奈が驚く。地球ではスキルを使う事は出来ないはずなのだ。それを使ったというんだから加奈の驚きは当然である。


「ええ。加奈同様、私も驚いたわ。実際、あの瞬間とき以外で剣術スキルが使えた時は無かったから。で、アユはあんまり驚いていないみたいだけど、私の話を予想していたのかな?」


 二人の視線が俺に集まる。俺は頷き、先ほど起こった事を伝えた。


「鑑定が使えたの?! それは……すごいわね」

「びっくり。鑑定さえあれば、アユ君もクイズ王への道を進めるかも?」


「いや、鑑定を使ってクイズ王になっても嬉しくないよ! それはともかく。今議論すべきは『どうしてこの世界でもスキルが使えるのか』だよ」


 色々と意見を出し合うも、決定的な意見は出ない。「会議は踊る、されど進まず」とはまさにこの事だ。(違うか)


「リエルに話を聞いてみようか?」


「うーん、聞いてもいいのかな? 危険因子と判断されて、【夢渡り】をはく奪されるかもしれないよ?」


 という意見が出た後、俺達の議論は「これは予期されていた出来事なのか」に話が移った。つまり、俺達が何かをしたせいで、こちらの世界でもスキルが使えるようになってしまったのか、あるいはこの出来事は時間経過で自然に起こる物だったのか。

 ただ、自分たちが何か特別なことをした記憶は無いし、もしあったとしても、気付くことはできないだろうなあ……。


「ひとまず保留って事にするか」


「サク姉の引退が決まったのは、ある意味好都合」


「加奈の言うとおりね。今後、剣道中に剣術スキルが発動したら困るし」



 ひとまず、今日起こった事は秘密としておこう。そう結論付けた上で、俺達は異世界へと旅立ったのだった。




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