高校にて
加奈と俺は高校一年生。一般に同じ苗字の人は、紛らわしいのでクラスを分けられるという噂を聞くが、加奈も俺も同じクラスになった。科目選択(文理・物化生の組み合わせ)が同じだからなのかな?
さて、今日は体育で体力測定がある。新学年の定番だよな。異世界での活動に備え、地球で多少トレーニングをしているし、平均以上の成績を残せると思うが果たして。今日は体育館に呼び出されたので、屋内で出来る測定かな?
「握力測定、立ち幅跳び、前屈、反復横跳び、腹筋か」
俺は記録用紙に目を向ける。中学の頃と変わらないラインアップだ。
「ありきたりでつまんねえな」
と言ったのは友人の青山。出席番号が俺の一つ前だったので、直ぐに仲良くなったのだ。
「お前は体力測定に何を求めてるんだよ……」
「そうは言ってもよ、やっぱり毎年同じラインアップだしさあ。まあ、毎年同じことをするからこそ、成長具合を測れるんだろうけど」
と駄弁りながら、空いてそうな場所を探す。うーん、握力測定が人気が無さそうだな。
「握力かあ。姉さんは凄い記録を叩き出したって言ってたっけ?」
「へえ、お前、姉もいるのか」
「って言っても従姉だけどな。つまり、加奈の実の姉だな」
「マジで羨ましい環境だな。俺は一人っ子だから、マジで羨ましいぜ。で? お前の姉さん、そんなに力持ちなのか?」
「まあな。剣道部で活躍してたから」
「へえ! それは凄そうだな。どれくらい?」
「45だってさ。男性の平均よりもちょい上って感じだが、女性の中だと相当上位らしいな」
「それは凄いな! 俺はどうだろ……。去年測った時は40なかった気がするが……」
「え? そうなのか?」
「そんなに意外か?」
「勝手ながらスポーツ少年っぽい雰囲気だったから……」
「ああ、俺はサッカーやってるんだ。だから足は鍛えてる方だと思うけど、握力はって言われると、なあ」
「なるほどな。お。前が空いたし、やってみますか」
「おう。負けねえぞ?」
「そっちこそ」
青山の記録は……。46! すごくいい方じゃないか?
「お、頑張ったな、俺。お前の姉さんには勝ったな」
「だな。さて、次は俺か」
思いっきり握る。うごごごごご。うりゃああ!
「はあ、はあ。左手だからひどい結果だと思うがどうだった?」
「39だな。まあ、利き手じゃないにしてはいい方じゃないか?」
「く、悔しい。右手だったらもう少しいい記録を出せるはずだ! うおおおおお!」
思いっきり握る。負けないぞ!
「あ?」
その時、体中を何かが流れるような感覚に陥った。まるでエネルギーの奔流が俺の中を流れているような……。これってまさか!
慌てて手を放すも、時すでに遅し。握力計のメーターが指していた値は……。
「す、すげえぞ! 70って……ヤバない?」
「嘘だろ? たぶんそれ、測定ミスだよ。もう一回測ってみるよ」
何も無かったかのように、測り直しを希望する俺。測りなおした結果、43だった。妥当な値である。
(あれって【身体強化】だよなあ……)
スキル【身体強化】。本来はアクティブスキルであり、体の中の魔力を循環させることで身体能力を向上させることができる。ただ、頻繁に使っていると、「力を出したい!」と思うだけで、自然と魔力が循環するようになり、まるでパッシブスキルであるかのように扱う事が出来る便利なスキルだ。
当然、これも日本で使えるのはおかしい。姉さんの【剣術】、俺の【鑑定】に続いて今度は【身体強化】か。
他人に見られて不味いようなスキルじゃないだけありがたいと思っておこうか……。火魔法とか見られたら、言い訳のしようが無いしなあ……。
その後、身体強化が発動する事は無く、いつも通りの生活を送る事が出来た。
◆
その日の夜、俺は今日起こった出来事を姉さんと加奈に共有した。
「私も今日、スキルが発動したの。怪我をした時に、ヒールが使えた」
なんと。加奈がヒールを使ったらしい。これはびっくりだな。ある意味一番「魔法らしい魔法」の発動例である。
「他の人にバレては?」
「大丈夫。バレてない」
「今後もこんな風に魔法が使えたら、面倒ね。アクティブスキルなら使わないように意識すればいいけど、パッシブスキルだと、色々と困るわよね……」
「ぱしっぶスキルじゃなくて?」
かつて姉さんがしていた間違いを、未だに俺は覚えていて、時々こうやって弄っている。そしてその度に姉さんは。
「もー! それは忘れてよ~!」
と言いながら俺を羽交い絞めにしてくる。背中に姉さんの大きなお胸が当ってる……! まあ、要するに姉弟のじゃれ合いである。
「むう」
そしてじゃれ合う俺達を見て加奈も参戦。三人でイチャイチャしてから、異世界へと旅立った。
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