ボス戦……え?

 魔法の鞄を見つけてから、夢の中での異世界探検は効率が上がった。行動範囲は広がったが、そんなにスリリングな事件も発生せず、強い魔物も現れなかった。


 そんな時に、俺達は洞窟を見つけたのだった。


「ねえ、アユ、カナ! 洞窟よ、洞窟! ダンジョンじゃないかな? 早速入ろ!」


 姉さんははしゃいでいる。子供じゃないんだし、もう少し落ち着いた方が良いと思うのだが……。いや、実年齢は中学一年生だし、ある意味年齢相応な反応なのか?


「そうだとしても、洞窟は危険だよ、姉さん。しっかり準備してからじゃないと。万が一にも遭難したら目も当てられないよ」

「同感。危険は避けるべき」


「えー、いいじゃん! ちょっとだけ! どんな感じなのかチラッと見るだけだから! それに、いざとなったら土魔法で脱出できるでしょ?」


「そうれはそうだが……」

「『分岐があれば即撤退』って事にする? それなら安全」


「まあ、それでいいわ! 早速レッツゴー!」


 という訳で洞窟の中を進む俺達三人組。幸いにして、壁に生えている光を放つ苔のおかげで視界に困る事は無い。


「綺麗ね……」

「だな。高さも十分あるし、比較的安全そうだな」

「綺麗。スマホが無いのが残念」


 幻想的な風景の中、進む事数十メートル。洞窟の先に光が見えた。反対側なのかな?


「あれ~? もう出口? ダンジョンじゃないのね……」

「ダンジョンじゃなくてよかったよ。スタンピードが起きたら困るしさ」

「短かったね。自然のトンネルって感じ?」


 上から姉さん、俺、加奈の感想である。姉さんはダンジョンに挑みたかったようだが、俺としては勘弁してほしい。しかし、残念ながら、姉さんの望みが叶ってしまった。


「うわあ! 綺麗!」

「外じゃなくて……広間? なんだここ?」

「大聖堂って感じ」


 先ほど見えた光は日光ではなかったのだ。そこは部屋と呼ぶには広すぎる空間、それこそ加奈が言うように「大聖堂」くらいの広さがあった。壁は真っ白であちこちに光る水晶玉が置かれている。左右には天使像がずらっと並べられており、天井には何やら魔方陣が描かれている。そして気のせいかもしれないが、「圧」を感じる。神聖な物の近くという感覚。俺は神など全く信じていないのだが、この場所で司祭に「神をあがめよ」とか言われたら、俺はその宗教に入信してしまうと思う。そんな雰囲気があるのだ。

 そして、俺達が入ってきた入り口とは反対側には、巨大な扉があった。幅20メートル、高さ30メートルほどもある、観音開きの扉である。

 扉に近付くと、表面には美しいレリーフが掘られていることが分かる。それらは絵だ。神々しさを放つ存在が大地に降り立って、そこに住まう人々にナニカ・・・を与えた事、そして人々は与えられたナニカ・・・を使って魔物と戦う事になった事。そんな絵に俺は見えた。


「魔物の出現を予感した神が、人々に力を与えた……とか?」


 俺はそう呟く。姉さんと加奈も同じように受け取ったようで首肯してくれた。

 それにしても、この豪華な扉。この向こうにいるのはやっぱり……


「あの向こう側にボスがいる感じ……かな?」

「それで、この広場はボスに挑む前の休憩場所って所か?」

「大きな扉……。何が向こうにいるのかな」


 俺達はその扉がボス戦前の扉であると考えた。


「勝てるかな……?」


 姉さんは扉に近付いた。


「……挑むつもり? 俺は反対だぞ? せめてもう少し強くなってからじゃないと……」

「私も反対」


「いや、私もこの時点で勝てるとは思ってないけど……。ただ、どんな奴かだけでも見てみたくない?」


「それはまあ……」

「そもそも、この扉、開けられるの?」


「確かに。この扉、押しても動かなさそうよね……」


 そう言って扉に触れた姉さん。


「「ちょっと!」」


「まあ、まあ。二人とも怒らないでよ。多分、私達はボスに挑む資格すらないわね。この扉を開ける事すらできないみたいだし……」


 そう言って姉さんが俺達の方を振り返る。と同時に持っていた剣を地面に落とした。


「「どうしたの?」」


 慌てて近づく加奈と俺。姉さんは「う、うし……」とよく分からないことを言っている。


「「牛?」」


「後ろ……」


「「後ろ? ……!」」


 後ろを振り返った俺達が見たのは、剣を持った美しい女性だった。だが、その頭上には光の環が浮かんでおり、背中には虹色に光る羽が生えていた。

 天使か? いや、天使には見えないな。女性の羽は羽毛が生えておらず、むしろ昆虫の羽のように見える。よく見ると、左右3対、合計6枚の羽を小刻みに動かしている。



 幸いにして、女性は困惑の表情を浮かべており、俺達に攻撃はしてこない。だが、彼女がその気になれば俺達はなんの抵抗も出来ずに殺されるだろう。そう思った。


「なんでボス戦前の扉に触れたら、こっち側にボスが現れるんだよ……」


 しばしの猶予の中、俺はそう独り言ちた。





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