魔法の鞄

 異世界での活動を始めてから4年が経過していた。加奈と俺は小学校五年生(11歳、精神年齢15歳)になり、姉さんは中学一年生(13歳、精神年齢約17歳)となった。


 すると問題になるのは「同じ布団で寝ていいのか」という点だ。性別の違う兄弟姉妹が同じ部屋で寝るのは、一般的には10歳ごろまでと言われている。実際、お義父さんとお義母さんには「別々の部屋にする?」「せめて別々の布団にする?」と何度も言われた。

 また、精神年齢が高校生前後である俺達三人は異性が同じ布団で寝る事の意味を大方理解している。だからこそ、両親が部屋を分けたがるのは十分理解できる。だが、別々の布団で寝ると、一緒に異世界を冒険できなくなる。一緒に寝る事のメリットとデメリットを天秤にかけた結果、今でも俺達は三人同じ布団で川の字になって寝ている。特に冬は三人でギュッとくっついて寝ている。ぬくぬく。


 さて、精神年齢の発達に伴い異世界での冒険にも慣れてきた。効率のいいレベル上げの方法を考えたり、役割分担について考えたりするだけの知恵が付いたのとも言う。


 その過程で、新しく発覚した事実がある。

 まずは魔法について。地球において魔法やスキルを使う事は出来なかった。【夢渡り】だけが例外のようだ。

 次に加奈が身に着けていたアクセサリーについて。宝石の付いたアクセサリーは一般的に「タリスマン」と呼ばれており、宗教的な儀式などに使われるものであること、そしてゲームではヒーラーが持つ物であると分かったのだ。それを知った俺達は加奈にタリスマンを持って祈りを捧げてもらった。その結果、加奈の魔力を消費して生命力を回復する事が出来るという事が発覚した。こうして加奈はヒーラーとして活動する事になった。

 次にステータスの伸びについて分かった事がある。レベルアップの際に成長するパラメータは、経験値稼ぎの際に使った魔力や生命力に依存して変動するようなのだ。例えば加奈は後衛のヒーラーとして活動しているので、魔力を多く消費し、代わりに生命力はあまり消費しない。すると最大魔力量が成長しやすくなるのだ。逆に姉さんは前衛の物理アタッカーなので、魔力よりも生命力の消費が激しい。すると生命力最大値が成長しやすくなる。

 最後にスキルについて。魔法はスライムからドロップしたが、それ以外の方法でスキルを手に入れる方法があると分かったのだ。それが「何かを繰り返し行う事」。加奈はヒーラー(見習)というクラスを取得すると同時に【回復魔法】を手に入れ、姉さんは剣士(見習)というクラスを取得すると同時に【剣術】を手に入れた。

 ちなみに姉さんは、剣士になれたことに喜び、中学では剣道部に所属したらしい。現実世界ではスキルは使えないはずなのだが、姉さんの剣道の腕前はかなりの物らしい。おそらく、異世界で剣を振るっているので、剣術が体に馴染んでいるのだろう。

 いや待てよ? 刀と剣では扱い方が違うはずだよな。まあ細かいことを気にしてもしょうがないか。


 参考までに今のステータスはこんな感じである。


『赤木歩夢』

レベル:35

生命力最大値:75

生命力回復率:2

魔力最大値:104

魔力回復率:3

幸運値:815


スキル

・夢渡り(Lv.---)

・風魔法(Lv.17)

・水魔法(Lv.18)

・火魔法(Lv.14)

・土魔法(Lv.18)

クラス

・■■、学生、異世界の者、駆け出しハンター、魔法使い(見習)



『赤木加奈』

レベル:32

生命力最大値:55

生命力回復率:2

魔力最大値:120

魔力回復率:4

幸運値:35


スキル

・回復魔法(Lv.12)

・水魔法(Lv.4)

クラス

・学生、異世界の者、駆け出しハンター、ヒーラー(見習)



『赤木咲良』

レベル:36

生命力最大値:132

生命力回復率:3

魔力最大値:38

魔力回復率:1

幸運値:32


スキル

・風魔法(Lv.1)

・剣術(Lv.5)

クラス

・学生、異世界の者、駆け出しハンター、剣士(見習)




「今日は雨だしどうする? 何かないか探してみる?」


 洋館のリビングで寛いでいた加奈と俺に、そんな提案したのは姉さんだった。


「そうだな。まだこの洋館の中にお宝が眠っているかもしれないし」

「うん」



「このバッグ、可愛いわ」


 加奈が皮で出来た肩下げかばんを見つけたようだ。日本で売られている物と違って、クラッシックでシンプルなデザイン。確かに加奈に似合っているかもしれない。


「いつも使ってるリュックサックより小さいのが難点だな」


「そうね。でも、こう見えて意外と色々入ると思う」


 そう言って加奈は鞄に魔石を放り込み始めた。いくつくらい入るだろう?


「……あれ? おかしい。このバッグ、何か変」


 加奈が首を傾げる。そして鞄の中に手を突っ込み……腕全部が鞄の中に入った。


「「ええ?!」」


「このバッグ、底なしみたい」


「「な、なんだって……」」


 創作物の中では有名な「魔法の鞄」。見た目以上に物を入れる事が出来る袋の事をそう言うが、まさかリアルでも見れる日が来るとは。いや、これはあくまで異世界だし、「リアルで見れた」とは言えないか?


「重さとか容量制限とかはどうなんだ?」


「さあ? 確かめてみるね」


 加奈は洋館の倉庫にしまってある魔石をドサドサと詰め込んでいく。


「重さは変わらない。制限も無さそう……」


「「すげえーー!」」


「これを使えば、色々な物を持ち運べる。より遠くまで探索できるかもしれない」


 なるほど、確かに加奈の言うとおりだ。俺達は今まで洋館を拠点にしていたのだが、今後は行動範囲をもっと広げても良いかもしれない。


「それなら、清潔な水を入れておかないとな。食料は現地到達できると思うし」


 スライムゼリー、角ウサギの肉や、羽ばたき魚(大きなヒレを羽ばたかせ、空を飛ぶ魚)などなど。モンスターを倒す事で、色々な食料を手に入れる事が出来る。


「テントとか寝袋とか欲しいわね! あと、着替えの衣服と」


「テントはいらないだろ? 土魔法を使えばシェルターを作る事が出来るし」


「調理器具と火打石がいると思う。あと、念のため薪も持っていきたい」


 異世界キャンプの準備を整えた俺達。今後は探索範囲がより広がるだろう。




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