魔法
スライム狩りを楽しんでいたある日。俺達は洋館から少し離れた所にある雑木林と足を運んでいた。
「今日はこの森でスライムを探すわ!」
「オッケー! 頑張るぞ!」
「ん、頑張る」
姉さんは森と呼称しているが実際は規模の小さな雑木林。小学生の体でも十分歩き回る事が出来る。
「あそこみて。緑色のスライムがいるよ」
「さすが加奈、目が良いわね!」
「早速倒そうか! まずは姉さんから!」
俺たち三人がスライムに近付く。するとスライムは体をプルプルと振るわせた。その瞬間、やつの下に緑色の魔方陣が現れた。
「「「!!」」」
新しい現象に驚く俺達。5秒ほどすると魔方陣が輝き、そして俺達の方へ突風が吹き荒れた。
「わ!」「きゃ!」「おっと」
俺と加奈はしりもちをついてしまったが、姉さんは何とか踏みとどまった。幸いにして追撃は無かったので、姉さんがそのままスライムの方へ駆け出して……
「てや!」
スライムは一撃で倒された。緑色のスライムゼリーがドロップしたが、味は無かった。残念。
「今の、魔法よね! 二人とも見た、見た?」
「見た見た! 凄かったね!」
「落ち着いて、二人とも」
興奮する姉さんと俺。落ち着いている加奈。精神年齢が一番高いのは姉さんのはずなのに、明らかに加奈が一番大人びているのは何故だろう? それはともかく、こうして俺達は魔法の存在を知った。
「またあの緑色のスライムだ! 今度は俺が倒していい?」
「いいよ」
次に緑色のスライムを見つけたのは俺。加奈に聞いてから、今度は俺がスライムに攻撃を仕掛ける。ちなみに、小学二年生になり一人称は俺になっている。
「やった、倒したぞ! ドロップアイテムはなんだろ? ……うわあ!」
スライムが光の粒子となって消えていくのを見ていると、その光の粒子が俺に向かって飛んできた! 俺はびっくりして後ずさるが、光の粒子はホーミングしているかのように俺にぶつかってきて……。
<【風魔法Lv0】を取得しました>
「俺、風魔法を手に入れたよ!」
「ホント?! いいなあ!」
「おお~。パチパチ」
「でも、どうやって使うんだろ?」
呪文を唱えようにも、呪文の内容が分からない。困っていると、姉さんが助け舟を出してくれた。
「私が読んでる小説では、イメージが大事らしいよ。『こうなって欲しい!』って強く思う事で魔法が発動するんだって」
姉さんは現在小学3年生(8歳)。さらに精神年齢の成長が速いのだ(10~13歳程度)。だから、他の子よりも少し早くラノベデビューを果たしたのだと俺は予想している。ともかく、姉さんにラノベ知識があったおかげで「魔法はイメージ」というアドバイスを貰えた。そしてこれが功を奏した。
「さっきのぶわって風を送る魔法を使ってみるね。ん~!」
ステッキを前方に向けて俺は祈る。すると、自分の足元に魔方陣が描かれた。それを確認した俺は祈るのを辞めて「えい!」と魔法を起動した。
「……あれ、失敗?」
「失敗と言うか、威力が弱かったね」
「そよ風みたいだった」
「なんで?! 祈り方に問題があったのかな?」
その後の検証で、祈る時間に問題があると判明した。魔方陣が生成されてから数秒間は祈り続ける必要があるみたいなのだ。そういえば、緑色のスライムが魔法を使った時、魔方陣が出来てから発動するまでに5秒ほどのタイムラグがあったな。
俺の魔力最大値は20なので、込める事が出来る魔力は20まで。込める魔力の量と威力、そして発動までにかかる時間の関係は以下のようになっている。
消費魔力20→20秒以上祈る必要がある、当たればかなりの衝撃を受ける。
消費魔力10→10秒以上祈る必要がある、効果は突風。
消費魔力5→5秒以上祈る必要がある、効果は扇風機の「強」程度。
消費魔力1→1秒以上祈る必要がある、効果は扇風機の「弱」程度。
また、イメージを変える事で色々な魔法を使えると判明した。例えば風を一点集中させて撃つ「エアバレット(仮称)」は少ない魔力でも強力な風を起こす事が出来た。逆に竜巻を生成する「トルネード(仮称)」は大量に魔力を消費しても威力が小さかった。
◆
「アユ、ずるい!」
「やっぱりずるいよ、アユ君」
「そー言われても……」
緑スライムを倒せば必ず風魔法が手に入るという訳では無く、「風魔法」は極低確率でしか手に入らないレアドロップのようだ。
「これは渡す事が出来ないからなあ……」
魔石ならプレゼントできるが、魔法はプレゼントできないのだ。である以上、他の2人はなかなか魔法を手に入れる事が出来ない。
さて、風魔法を使ってスライムを攻撃する事で風魔法のレベルが上がると分かった。まあ妥当だな。ただ俺の場合はもっと楽に風魔法のレベルを上げる方法が存在下。それが「追加で緑色のスライムを倒す事」だ。
風魔法を既に持っている状態で風魔法を入手すると、レベルが上がるのだ。なるほど、確かに無駄になる訳じゃないのはありがたいな。と言っても毎回1ずつ上がる訳ではなく、Lv.5辺りから伸びが悪くなった。
こうして俺は魔法使いへの道を歩み始めたのだった。
雑木林の中で見つける事が出来たのは「緑色のスライム(風魔法)」「青色のスライム(水魔法)」「赤色のスライム(火魔法)」「茶色のスライム(土魔法)」の四種類。ぞれぞれ風、水(氷)、火、土(泥)の弾を飛ばしたりする魔法が手に入った。
『赤木歩夢』
・風魔法(Lv.10)
・水魔法(Lv.12)
・火魔法(Lv.5)
・土魔法(Lv.9)
魔法のレベルが上がった事で、発動スピードが速くなった。つまり、今までは魔力を10加えるには10秒祈る必要があっただが、今ではほぼタイムラグなしで撃つことができる。
また、姉さんと加奈が「私は魔法は取得出来なくていいや。魔法はアユに任せて、他で勝負するわ!」と言ってくれたおかげで、俺の魔法のレベルがどんどん上がった。当時から姉さんと加奈は潔い性格だったのだ。
◆
ところで、リアルの方で一つ大変なことがあった。小学生100人に効いたら90人以上が嫌いと答えるであろう(←偏見)イベントがやってきたのだ! その名も「マラソン大会」。小学一二年生は2kmを走るのだが、一年生の時の加奈と俺はひどい成績だった。なお、咲良はそこそこの順位だそうだ。
で、一年の時にひどい成績だったから、親に「ちょっとはトレーニングしなさい!」と言われてしまった。マラソン大会の一か月前から加奈と俺、そしてついでに咲良も毎日長距離を走ることになってしまった。
その甲斐あって、マラソン大会では平均的な順位を取る事が出来たのだが、持久力が付いたことで変わったことがもう一つある。それが、夢でも疲れにくくなったことだ。
異世界の中の肉体と現実世界の肉体は別物であり、向こうで怪我をしても現実に反映される事は無いし、現実で怪我をしても向こうの肉体に反映される事は無い。だが、体格の変化や筋肉量の変化は相互に反映されるようなのだ。
こうして俺達は徐々に徐々に探索範囲を広げていった。ある時は川を見つけて魚型のモンスターと戦った。ある時は砂利の中に落ちている綺麗な鉱石を拾い集めた。でっかいトカゲみたいな魔物に手を噛み付かれた時は驚いたが、生命力が残っている限り痛みは軽減されるし怪我も負わない。ちなみにそのトカゲは姉さんに心臓を刺されて倒された。
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