第27話

「お前がな」

 と、ユーリがつぶやいた。


 銃声とともに、フェルナンの胸に赤い花が咲いた。

 ユーリのステアーAUGの5.56mm弾がフェルナンの胸を貫いたのだ。


「大丈夫か」

「気をつけろ、まだ死んでないぞ」


 俺の叫びにぎょっとして、ステア―AUGを構え直す。

 キャットウォークの手すりをつたい、再度起き上がろうとしている。


「不死身?」


 ユーリが叫ぶ。

 叫びながら、ステア―AUGを連射。

 的確に5.56mm弾を叩き込む。


 血飛沫とともに、腕がちぎれる。


「注射型のエリクサーを持ってる!」

「エリクサーか!」


 ちぎれた腕を拾おうと、フェルナンの肩から肉芽が伸びた。

 身体の損傷を補おうと、体内のエリクサーが暴走しているのだ。


 フェルナンは、化け物と化していた。


「異教徒どもめええええ」

 肉の巨体が動き始めた。


「首を落とす」

 ユーリが、ステア―AUGを捨てナイフを抜いた。


「エリクサーでも、脳がなければ何ともならん。実験済みだ」


 どんな実験をしたのかまでは聞きたくなかった。


「落とした首を、これで吹き飛ばせ」

 そう言って、MK3手榴弾を渡してきた。


「本体じゃなく、か」

「先に脳だ。銃で撃ちぬく程度ではだめだ。一気に吹き飛ばせ。心臓で作用するエリクサーと、思考を司る脳を切り離さない限り、勝ち目がない」


 化け物が迫る。

 異常に膨れ上がった血管が収縮し、筋肉が増殖している。


「行くぞ!」

 ユーリが飛び上がる。


 キャットウォークの手すりを足場にした二段ジャンプ。

 そのまま、ナイフを振り下ろす。


「あ」


 フェルナンの首が、漫画のようにポロリと落ちた。

 首を拾おうと肉芽が一気に増殖する。

 ユーリがそれに捕まる。


「早く!」

「くそっ」


 俺は化け物の足元で、目をぎょろぎょろとさせているフェルナンの首をひっつかむ。

 左手が痛みで思いきり抵抗してくるが、ねじ伏せる。


 そして、口にMK3手榴弾を突っ込み、頭ごと放り投げた。


 それは、船底に落ちる前に爆発、四散した。


 一方、蠢く肉の塊と化したフェルナンの身体が、ユーリを飲み込もうとしていた。

 ナイフを振るうものの、肉芽の量に追いつけない。


 俺は捨てられたステア―AUGを拾う。


「心臓だ。エリクサーは心臓を基点にする。破壊しろ!」

「了解」


 俺は残った5.56mm弾を全弾心臓に向けて放った。

 集弾しすぎて、胸らしき部分が抉られ、穴となった。


 ようやく、フェルナンの動きが止まった。


「『機関』のくせに、こんなやべーもん使いやがって」

 ユーリが吐き捨てた。


 ユーリがもう一つ、MK3手榴弾を取り出した。

「さて、逃げるぞ。これを使うとキャットウォークが落ちる。あとは時間との競争だ」

「こっちは怪我人だぞ」

「こいつを、このままにして逃げたいか?」


 ユーリの正論。


「いや、それはないな」

「じゃあ、逃げるぞ」



 俺たちが走る背後で、MK3手榴弾が爆発した。

 キャットウォークが崩れていく。


 俺たちは崩れ落ちるキャットウォークの中を必死に走った。


 幸い、奈落に落下することなく甲板に上がった俺たちは、甲板にヘリ、UH-1の民間タイプ、ベルのM205を見つけた。

 朝日観光というロゴが入っている。


 そのドア前で、エマがステア―AUGを撃ち続けている。

 ヘリの中には藤倉親子。

 親父は盾を構えつつ、片手でSG551を撃っている。

 俺が放り出した銃だろう。


 十字会の連中はさほど多くない。二、三人くらい。

 ついでに構えがどうにも素人くさい。

 おそらくはもともと船員、航海のための人員なのだろう。

 戦闘に慣れていなさすぎる雰囲気だ。


「この船をどうする気だ?」


 言外に沈めるのか、と聞いている。


「こんなところで沈めたら、それこそ隠遮しきれない。片付けは公海上で『機関』にやってもらうよ」

「了解」


 だとすると、あまりスタッフを減らしすぎるのもよくない。


「先に行け」


 ユーリがスピードを落とし、ステア―AUGを撃ち始めた。


「どうする気だ」

「エマの負担が大きすぎる。こちらに引き付ける」


 十字砲火の形となり、十字会の戦意がくじけるのがわかる。

 俺は藤倉の脇から、ヘリに乗り込む。


「涼真さん!」

 麻耶が抱きついてきた。

 肉をごっそり持っていかれた左腕に激痛が走る。


「くっ!」

「あ、あああ、ごめんなさい」

 麻耶が悲嘆の叫びをあげる。


「これを」

 パイロットが応急処置キットを出してきた。

「ありがとう」

 受け取った俺は消毒スプレーをぶっかける。


 藤倉が奥に入ってきた。

 続いてエマ。


 最後にユーリ。


「出せ」

 ユーリの言葉に、パイロットがM205を上昇させた。

 そして、俺たちは戦場を離れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る