第24話
ユーリは盾を掲げながら前へと進む。
背後から、エマが騎士修道会の兵士たちを撃ちぬいていく。
あえて、身を隠さずに真正面から出てきているため、敵の数が多い。
なかなかに難易度の高いミッションだ。
ユーリはそんなことを考えつつ、ステアーAUGの引き金を引き続ける。
事前想定の兵士の人数は10人程度。
航行に必要な人員とは別に、戦闘要員として配される人数は、せいぜい一個分隊9名と踏んでいた。
工作員としてのF2のお抱えの化け物はともかく、この船にそれほど配置できるか、と言えばせいぜいその程度と踏んでいた。
火線の数から見ると、大体の陽動としては成功しているはずだ。
ひとしきりの攻撃を受けきり、死体を山積みにすると、次は船倉へと突入する流れだった。
改造された第五船倉は、全体で三層に分かれていた。最上層は指揮所や医務室、待機室となっている。第二層が船室。戦闘員や工作員たちの部屋。そして、最下層が倉庫や監禁室になっている。
リョーマはまっすぐ指揮所に向かった。
おそらく、目標である聖母の娘は、そこにいる可能性が高い。
たが、監禁室に閉じ込められている可能性もゼロではなかった。
だからこそ、ユーリたちは、最下層から進んでいく。
スチールの階段を滑るように降りていく。
見張りは誰もいない。
と、すると守備する価値はないということか。
無駄足だったかな、そう感じるユーリの耳に、誰かの呟き。
誰かいる。
エマとハンドサインをかわす。
突入する。
被保護対象あり。
了解。
援護する。
ユーリは盾を構えながら最下層に侵入する。
いきなり、脇の部屋から一人飛び出してきた。
待ち伏せだ。
H&KのUMP。
45ACP弾がバラまかれる。
盾で受け止めつつ、足元に向かってステアーAUGを撃つ。
足を撃ちぬかれ、もんどりうって倒れる男の胸に5.56mm弾をたたきこむ。
もう一人が飛び出してきた。
まだいたのか。
だが、その男の額にエマの放つ5.56mm弾をたたきこまれた。
のけぞって倒れた。
本当にいい腕だ。
日々、その能力が上がっている気がする。
ユーリは舌を巻く。
他にはいないか。
ゆっくりと進む。
すると、鉄格子の中に、一人の男がいた。
両手が手錠で天井の梁に繋がれている。
上半身裸の状態だった。
おそらくは鞭の痕だろう、傷跡が全身にあった。
拷問中ということだ。
「誰だ。名前は言えるか」
ユーリの言葉に男は答えた。
拷問中とは思えないほど、しっかりとした声で。
「西方十字教会。藤倉進だ」
聖母の父か。
ユーリは驚きを隠せなかった。
予定外だが、重要人物を一人確保、というところか。
とりあえず、恰好を何とかしてもらう。
上半身裸で戦えるのは、スタローン演じるランボーやシュワルツネッガー演じるコマンドーくらいだ。
まあ、この神父、見た目ならその二人に近いものはあった。
とは言え、銃弾で飛び散る破片は、容易に人の身体を傷つける。
それに、ユーリは男の身体に興味はなかった。
身に着けていたのはズボンだけだったので、監視部屋を漁る。
だが、元々着ていた衣類はなかった。しかたないので、死体から奪った。
幸い、サイズは似たようなものだったらしく、藤倉はあっさりと数多いるカソックの男たちの仲間入りとなった。
ユーリは赤いバンダナを取り出して渡す。
「これ、つけておいてくれ。識別できない」
「わかった」
藤倉は、そう答えて左腕に真っ赤なバンダナを巻く。
「お前たちは何だ?」
完全武装のメイドという、いかにも怪しい姿だ。
そう簡単に納得できるものではないだろうが。
「助けに来た者だよ。で、あんたはどうしてこんなところにいる?」
「ちと、昔のやらかしでな。で、ここの騎士修道会の連中に捕まっていた」
「そうか」
昔のやらかしというのは、娘を匿ったことを意味するのだろう。
ユーリは、その言葉に応えた。
「あんたの娘がF2にさらわれた。リョーマとともに救出に来た。我々は囮役兼サポートだ。こちらの監禁室に娘さんがいることを無視できなかった」
「そうか。リョーマの友達にしちゃあ、ずいぶん若いが、それなら礼を言わねばな。感謝する」
「まだ敵地だ。礼は早い」
ユーリはそう言ってホルスターからグロック19を抜いて、藤倉に渡した。
「使え」
「ユーリ」
エマが咎めるような声をだす。
ユーリたち「結社」と「機関」はあくまでも敵対者だ。
敵に銃を渡すな、という意味だろう。
それを無視して、追加で予備弾倉も渡す。
「『機関』のエージェントと聞いている。使えるだろう」
「ああ、使えるが」
「私たちは『結社』の人間だ。気に入らなかったら、ここで我々を撃って、ひとりで行け」
ユーリは、そう言って藤倉を見つめた。
「阿呆、うちの娘よりも幼い連中を撃てるか。つか、『結社』は人手不足なのか。こんな子どもを」
藤倉は嫌そうに言う。
「その話は今度ゆっくりと。行こう。おそらくは、リョーマが戦っているはずだ」
上層から銃声が聞こえた。
「行くぞ」
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