第23話

 大騒ぎになっている船内を、人目を避けて、先へ進む。

「襲撃船は沈んだ」

「船首に二人、取りついた」

「全員、武装してそなえよ」

「保安チームは、船首へ」


 放送と叫び声。

 メイド達はうまくやっているらしい。


「臨」


 両手で独鈷印を結び、唱える。

 

「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」


 大金剛輪印、外獅子印、内獅子印、外縛印、内縛印、智拳印、日輪印、宝瓶印を結びつつ、九字を唱える。


 俺の感覚が広がっていく。

 境界をつくり、監視する。

 近づいてくる者、通り過ぎる者。

 それらを避けて、敵地を進む。


 あいにく、俺の力は「誰か」を見分けることができない。

 役立たずめ。


 毒づきつつ進むと、正面に人。カソックを着た男。

 あわてて、拳銃を構えようとするところ、俺は先んじてダッシュ。

 男の懐に入り、掌底を叩き込む。

 小さなうめき声とともに、意識を失う。


 ぐったりと倒れたその身体を転がして、先へ向かおうとする。

 そのタイミングで、俺の境界の外から入ってくる者が一人。

「死ねぇっ!」

 カソックを着た男。


 うむ、ややこしい。

 そもそも、ここの連中は、おそらく全員カソックを着ている。

 強いてあげれば、左目の傷が目立つ。

 歴戦の兵士なのだろう。

 腰だめにH&KのUMPを構えている。


 マガジンがストレートタイプということは、45口径。


 俺は、その引き金が引かれる前にSG551の引き金を引いた。

 SG551から5.56mm弾を放たれる。


 傷男はもんどりうって絶命。

 だが、その銃声で、別の人間が走ってくるのを感じる。


 ちっ、面倒だな。


 こちらからも走り出す。

 加速する。


 俺を視認した男がUMPを構えようとした。

 そこに、野球のバットの要領で、SG551を振りぬいた。

 顔面にストックの一撃を喰らった男が思いっきり吹き飛ぶ。


「はい、ホームラン」


 きびすを返し、走る。

 もうバレたのだ。スニーキングしている場合ではない。


 頭にたたきんでいた戦闘指揮所の場所は目の前。

 指揮所と言っても、結構、中は広い。


 中には人間が4人いることがせわかる。

 SG551を腰だめに構え、ドアを開ける。


 そこには、いすに縛り付けられた麻耶と、F2ことフェルナン・フェルナンデスがいた。そしてあと二人は修道女。



「涼真さん!」

 麻耶が俺を見て叫ぶ。

 よし、怪我はないな。もうちょっと待ってろよ。


「ようこそ、ここまで。異教徒。足は二度と元に戻らないと思っていたのだがな。よく歩ける」


「魔法使いがいてね。麻耶、もうちょっと待ってろ」


 俺の言葉に、麻耶が返事する。


「うん!」


 その返事に合わせて、SG551を構えた。


「さ、返してもらうぜ」

「この状況でかね。そんなライフルを使えば、間違いなく聖母にも傷が及ぶ。いいのかね?」


「ちっ」

 躊躇した。


「ブランカ!」

 左に控えたシスターが飛び出した。

「ノワール!」

 右に控えていたシスターが飛び出した。


 二人とも、両手に拳銃を携えている。

 ブランカがステンレスのリボルバーのようで、銀色に光っている。サイズからして、S&WのM66っぽい。一方、ノワールは黒いスチールのリボルバー。とすると、S&WのM19か。

 だが、それ以上に特徴的なのは銃身の下につけられている銃剣。


 湾曲した反りの入った刃が、直接取り付けられている。

 銀色の刃と、黒色の刃が襲い掛かってくる。


 ああ。名前も白と黒か。


 銀色の刃をSG551で受ける。

 そのまま、銃口がこちらを向いた。

 357マグナムらしき銃弾を避けると、今度は黒色の刃。

 ライフルを錫杖のように扱いつつも、なかなかにやりにくい。


「どうした異教徒。手も足も出ないか」


 右、左それぞれから交互にやってくる刃を避けつつ、フェルナンの笑いに舌打ちをする。

 かえって邪魔か。


 そう判断して、俺は傷だらけのSGを捨てた。


 この二人を拳銃使いと認識するな。

 銃も使えるナイフ使いだ。

 気にすべきは、刃と銃口。


 武器の有効範囲が二つあるだけのものだと認識しろ。

 

 受けるな。

 はじけ。


 俺はブランカの銃剣を籠手で受けると、そのまま外へと弾く。

 刃の方向と銃口が常に外を向くように受ける。


 が、相手は一人ではない。

 ノワールの刃が下から跳ね上がる。

「ちっ!」


 左上腕が切り裂かれ、血しぶきが飛ぶ。


「くそっ」


 俺は距離を取った。

 その瞬間、ブランカとノワール、両手に持った四つの銃口がこちらを向いた。

 

 この二人相手に距離を取るのは自殺と同じか!



 そのタイミングで、境界を破って近づいてくる者に気づく。

 三人だ。すると、騎士修道会の増援か。



 メイド達の陽動が失敗したか、それとも力尽きたか。

 歯噛みするも、現実を飲み込む。


 俺は籠手を顔の前で交差し、せめて顔だけでも、と守る。


「ちっ」


 増援の連中も部屋に入ってきた。


 だが、増援と思ったその連中は、意外な叫び声をあげた。


「麻耶あああああっ」


 大声とともに、巨体が部屋に乱入してきた。

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