第22話
クルーザーは、夜の海を走る。
操縦はユーリ。
「見えたわよ」
その言葉に従い、目をこらすと、そこには一隻の貨物船。
ベネディクトス号。
ベネディクトス号は「ばら積貨物船」と呼ばれる汎用型の貨物船だ。鉱石運搬船、タンカー、そしてコンテナ船など、積み荷に合わせた専用船が大半となっていくが、本来の利用上、専用船にするわけにもいかないのだろう。
本来の使い方?
もちろん、古き栄光の騎士修道会の強襲揚陸艦にして、移動基地だ。
こちらが確認している情報をもとにすると、船首から五つある船倉のうち、船橋よりの第五船倉が、居住区に改造されているらしい。
なぜ、そんなことが詳しくわかっているかって?
コンピュータとインターネットという、通信の一大革命が、互いの情報を露わにしてしまったということだ。
すでに日も落ちて、暗くなった海をマスト灯、舷灯、船尾灯、それぞれの灯りを灯しながら、ゆっくりと移動している。
「背後から近づく。準備して」
エマが、持ち込んだコンテナを開いた。
デカいバックパックが三つ。
「リョーマ、背負って」
言われるがままに背負う。
結構、重い。
「何だ、これ」
「ジェットパック。五分しか飛べないけど、たどり着くには充分よ。外したら、勝手に爆発するようにできているから、気をつけてね」
「は?」
そして、VRゴーグルみたいなものを被せられる。
「あの船の船尾を見て」
「あ、ああ」
俺はほぼ言いなりだ。
エマの持つ携帯と視界が共有されているのか、エマは手元を見ている。
そして、俺が船尾の甲板あたりを見た時に、beep音。
「勝手にここに下りるから、機械に身をまかせてね。慣れてないから、コントローラーは切っておくわ。じゃ、行ってらっしゃい」
その言葉と同時に、ジェットパックが噴射を始めた。
そして、気づくと俺は空にいた。
「おお、アイアンマンか」
「ロケッティアって言ってほしいわね」
無線機からエマの言葉。
ロケッティア?
「じゃ、始めるから」
その言葉と同時に、クルーザーの船首の蓋が開いた。
そこにエマが駆け寄るのまでは見えた。
ジェットパックは俺の意思を無視して、滑空を始める。
ジェットパックは背負い式の空中移動装置、とでもいうべきものだ。
背中から大きく張り出した二本のスラスターノズルから、何かを噴射していた。
英国のグラビティ・インダストリーズが開発中のジェットパックは、メインスラスターの出力は1000馬力、最大飛行速度は136.8km/h。パイロットの両手に、スラスターが装着され、コントロールを行う。
だが、こいつはそのコントロールを、背後のメインスラスターのみでやってのける。
右手の位置にコントローラーはあるが、左手は完全に自由なので、銃器を持つことも可能だ。
そのあたりが、『結社』の技術なのだろう。
こんなもんがあれば、たしかに戦場の様相は一変する。移動の手間が段違いだ。
クルーザーから砲撃が始まった。
迫撃砲の発射炎で、クルーザーが露わになる。
甲板に砲弾が着弾し、爆発している。
甲板上は大騒ぎだ。
砲撃を受けていることに気づいたベネディクトス号側からの銃撃が始まった。
何せ、真っ赤な発射炎が夜の闇に目立つ。
とは言え、囮として引き受けるという作戦通り。
彼女たちは目立ってみせた。
クルーザーが引き付けている間に、俺はベネディクトス号の船尾甲板に降り立ち、ジェットパックを海に捨てた。しばらくすると爆発音。
うう。もったいない。
いくらするんだろう。
その思いを内に秘めたまま、無線には何も言わず、俺はSIG551を抱え、船倉へと向かった。
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