第18話
「『結社』が何の用だ。お前ら好みのお宝は、今回登場してないぞ」
「結社」は、神秘の封印による社会の安定を目的としている「機関」と違い、その神秘を「経済活動」に利用しようとする、厄介な組織だ。
例えば新兵器。そして薬品。富豪向けに癌の治療薬が密売されているとはもっぱらの噂だ。
先日、成田空港で取り上げたアムリタなんかは、そのまま神秘の産物なのだが、あれをまじめに研究して、人の手で作り出そうとするのが、こいつらだ。
世界のパワーバランスなんか、お構いなし。
「売れる」なら神秘ですら金の種にするのが「結社」だった。
ヘンリエッタ・ダイアーもそれなりの有名人だ。
結社を構成する企業群の中核を占めるガーナー財団の総帥、総帥ヘンリー・ガーナーの娘という話だ。
ヘンリー・ガーナーが失踪したタイミングで、財団のすべての権利を引き継ぎ、そのすべての財産を持って「結社」に合流し、「結社」の中核になった娘。
実際「結社」の動きを見過ごせなくなったのは、ヘンリエッタの台頭とほぼ重なる。
「機関」に属するあちこちの団体で、暗殺計画が建てられたのは、一度や二度ではないはずだ。
「そんなことはない。聖母マリアのクローン。それも成長した少女。こんな興味をそそるものが、他にあるかな。はたして『神』の母体は純粋な人なのか。それとも何か『特別』なものを持っているのか。人の進化の過程に、これほど重要なサンプルはないと思うのだけどね」
そうか、こいつらにとってはどんなものも金の種か。
「で、なぜ俺を助けた。麻耶を手に入れるなら、フェルナンのチームを襲撃すればいい。俺を助ける意味はあるのか」
「僕が助けたかったから、かな。君はゲームのプレイヤーとしては、非常に面白いんじゃないかと、前から思っていてね」
「プレイヤー?」
「この国に閉じ込めておくには、もったいないくらいの戦士だろう?」
「俺は住職だ。檀家と寺を守るのが、俺の仕事だよ」
「友人の娘も庇護の対象かね」
「もちろん」
俺は言い切ってみせた。
「ふむ。その言い切りは好ましい、と思うよ。それが助けた理由、ではいけないかね」
「礼は言う。だが、俺にはやらなくてはいけないことがある。そろそろ失礼するよ」
そう言って、立ち上がろうとした俺を足元のメイドが押しとどめた。
「あと六時間待て」
「六時間?」
「六時間たてば、お前はもう一度走れる」
「冗談じゃない。待ってられるか」
「フェルナンがどこにいるのかわかっているのかね」
ヘンリエッタの言葉に俺は押し黙る。
だが。
「そう言うなら、お前たちは知っているんだろう」
「ああ。六時間後にブリーフィングだ。どうせ、真っ昼間に襲撃するわけにもいかないだろう。それまで待て」
壁に時計がかかっていた。1時すぎだ。
窓の外の陽射しを見れば、まあ昼の1時なのだろう。
「食事を用意させる。食って寝ろ。その後、作戦開始だ。オペレーションマリアのな」
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