第19話
怪我人の俺に出された食事はかつ丼。おしんこと味噌汁付。
そして、カツカレーと野菜サラダ。
いや、おかしくないか。
怪我人だぞ、俺。
「多分、必要だから」
デザートだろう。
チーズケーキとモンブラン。
「食え」
黒髪のメイドが、とても怖い目で見ていた。
「あいよ」
そして、ぺろりと平らげた。
平らげてしまった……。
「おかわりいるか」
「いる……」
大量の唐揚げの乗った唐揚げ定食。
どんぶり飯に、味噌汁も豚汁にグレードアップした。
「お前ら、何かしたのか」
いくら何でも、これだけ食える方がおかしい。
フードファイターってわけじゃないぞ。
銀髪のメイドがこちらを見て言った。
「右足が食べてるのよ」
「?」
「見てみる?」
右足の掛け布がめくられた。
右足の太ももに、プラスチックの筒がはめられている。
そこから、無数のケーブルが伸びていた。
銀髪メイドがその筒の留め具を外し、パカリと開いた。
そこには、異形にうごめく、肉の塊がいた。
「う……何だ……こいつは」
「あなたの足に、霊的なブーストをかけて、細胞の異常賦活化を促進しているの。そうね、一時的にあなたの右足を別の生物にしているようなもの。そうね、プラナリアみたいな、分裂して増えるような生き物にね。だから、今あなたは足を作り変えてるようなものよ」
「何だよ……、それ」
「私たちの『技術』よ。感謝して」
この連中の怪しい技術か……。
「今、あなたが食べたものは、ほぼこの肉が吸収してるわ。寝たら、またカロリー取ってもらうわよ」
「あ、ああ……」
ひと眠りすると、すでに右足のケースは外されていた。
そして、銃創は消え、足は元に戻っていた。
起き上がっても、立ち上がっても痛みひとつない。
銀髪メイドは、ずっと付き添っていてくれたらしい。
「着るものはそこに置いてあるわ。一通り装備したら、出てきて」
銀髪メイドが示したテーブルの上には、俺が着ていたものと同じものが積まれていた。
衣類一式。墨染の僧衣は、どこで手に入れてきたのか。
それと。
SIG P210とホルスター。
新品ぽい。現行最新のバージョン9か。
ありがたくいただいておく。
部屋を出ると、そこには銀髪のメイドが待っていた。
「ご案内いたします」
一礼して、歩き出した。
案内されたのは食堂だった。
貴族が使うような、長大なテーブルにヘンリエッタが座っていた。
案内された席には、すでに大量の食事が。
「まずは食べたまえ。食べながらやろう」
「その前に礼を。ありがとう」
俺は立ち上がって頭を下げる。
ヘンリエッタは、右手を上げて、それを受け入れた。
目の前には大量の食事。
それも、ファストフードの山だ。
ピザにハンバーガー、コーラにフライドポテト。
「食事はカロリー優先で選んだ。のんびり会食というわけにはいかないからね」
「それでいい。で、ヤツらの居所はどこだ」
「東京港に接岸している貨物船ベネディクトス号だ」
「貨物船?」
「これから、東京湾を出て、インド航路でヨーロッパへと向かう」
「船……か。出航はいつだ」
「一時間後だ」
一時間後……か。
「そう言えば、ここはどこだ」
「横浜だよ」
今すぐ出れば、出航前に捕まえられる……か。
俺は立ち上がった。
「今から東京港に向かう気かい?」
「ああ」
「話を最後まで聞く気はないかな?
「どういうことだ」
テーブルの上に、3Dの画面が浮かび上がった。
東京湾の地図が表示されている。
「ここからは私が説明する」
黒髪のメイドが口を開いた。
「我々は桟橋に接岸している船に襲撃をかけるのは、あまり得策ではないと考えている。そして、これが貨物船ベネディクトス号の予定航路だ」
東京湾の真ん中を通る線が現れた。
「我々は、横浜港からクルーザーを出す。夜の闇にまぎれて近づき、海上保安庁が出てくるまでの間に、娘を助けて離脱する」
「我々って、あんたたち、一緒に来るのか?」
「私と彼女が参加する」
そう言って、銀髪のメイドを指さした。
いや、ちょっと待て。
どう見ても子どもだ。
下手したら、麻耶より年下だぞ。
そんなのが戦場に……。
「信用できないか」
「信用の問題じゃない。子どもが戦場に出るということが」
「子どもではない。気にするな」
くっ……。
「涼真くん、君の邪魔はしないよ。子ども扱いすると、痛い目に合うぞ」
「は?」
「ついでに、今、僕に使えるのは、この二人しかいなくてね。十全の信頼を与えられる者が少なくてね。すまないな」と、ヘンリエッタ。
子どもではないと言われてもな……。
「説明を続ける。クルーザーには、迫撃砲も用意した。我々が貨物船の側面に攻撃を加えているうちに、君には船尾から乗り込んでもらう」
画面が船の構造図に変わった。
「貨物室の一つが、戦闘用の指揮所になっている。おそらく、F2がいるのは、ここだと思われる。いなければ、一つ下の階の医務室、もしくは居住スペースの船室のどこかだ」
ふむ。
「君が乗り込み次第、我々も乗り込む。君とは逆の方向、船首方向から侵入する。その時点でクルーザーは自沈。証拠を消す」
「どうやって脱出する?」
「攻撃開始から30分後にヘリを差し回す。3分待つ。間に合わなければ、海に飛び込め」
立派なアフターフォローだな。
「理解したら以上だ。出発する」
黒髪メイドが微笑った。
わかったよ。手伝ってもらおう。
痛い目にあっても、助けねーぞ。
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