第15話
トヨタプロボックス。
おそらくは、日本の道路をもっとも多くは知っている車の一台だ。
商用のライトバンとして、日本中の企業の荷物を積んで走り回っている。
そのプロボックスで江戸川沿いを海に向かってひた走る。
後方から音がしていた。
車とはくらべものにならないくらいの大きなエンジン音。
あいにく、ミラーの範囲にはいない。
「後ろ、見てくれ。何かいるか」
麻耶が窓から後方を探っている。
「涼真さん」
「どうした」
「ヘリコプタ―がいる」
その言葉と同時に、音が降下してきた。
江戸川の上をヘリコプターが疾走している。
アエロスパシアルのAS350か。
観光用らしく、機体は青と白に塗り分けられた派手なものだ。
TOKYO SKYと書かれている。
だが、そのドアがあいていて、そこから長い銃身が覗いているとなると話は別だ。
撃ってこない。
ドアの向こうに、ディエゴの顔が見える。
やっぱ死んでないか。
そして、突き出た銃身が弾丸を吐き出してきた。
ブレーキでかわし、そのまま住宅街へとプロボックスを回す。
深夜の住宅街を暴走車とヘリの追いかけっこが騒がすことになる。
と、いうかここまでやらなきゃいけないことなのかよ。
聖母騎士修道会は、武闘派とはいえ、数ある騎士修道会の中では穏健的な方だった。
なのに。
そして、藤倉さんは、一体何をやった。
古巣だろうに。
さすがに撃ってこない。
横道に入って、プロボックスを止める。
「走って逃げるの?」
一瞬、麻耶をここで降ろして、囮になることを考えた。
だが、敵勢力は一つじゃない。
俺はプロボックスの荷台の床を開けた。
そこには、黒光りする銃器が並んでいた。
俺はその内の一丁を取り出し、ボルトを引いて、初弾を送り込む。
「いや、戦うさ」
俺は再び運転席へ戻り、アクセルを踏む。
再度、江戸川へ向かう。
そして、都道451号線をひた走る。
AS350が迫る。
戦闘ヘリじゃないので、並ばないとこちらを撃てない。
北総鉄道の鉄橋が見えた。
そこでフルブレーキ。
ヘリがくぐれるような高さではないため、一旦大きく飛び越えた。
「車を出て、地べたに伏せろ!」
「うん!」
俺はプロボックスから一丁のアンチマテリアルライフルを取り出した。
バレットM82A1。
プロボックスのボンネットに二脚を展開して、構える。
中央高速でぶっ放されたものと同じものだ。
持っているのが、自分たちだけだと思うなよ。
ヘリが戻ってきた。
鉄橋の下に潜った俺たちを始末するには、ゆっくりと降りてくるしかない。
AS350は銃弾を吐きながら降りてくる。
俺は境界を展開する。
「臨」
狙撃は相手の位置を正確に把握してこそのことだ。
境界の中に入れば、ヘリの中の人数までわかる。
ゆっくりと射界に入ったヘリに向かって、俺は12.7ミリNATO弾を発射した。
マズルブレーキから吐き出される発射煙で視界が持っていかれる。
たが、まっすぐ、パイロットを貫いたのがわかる。
AS350がぐらりと姿勢を崩したのがわかる。
続いて二発目。
ヘリの燃料タンクはキャビンの後ろ。
そこに二発目と三発目を撃ち込んだ。
ヘリが炎に包まれる。
「やったの?」
「爆発する! 伏せてろ」
その叫びと同時にヘリが爆発した。
だが。
その炎の中から一人の男が飛び出してきた。
ディエゴ・ガルシア。
「異教徒ォ!」
それは怒りの叫びだった。
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