第14話
ぴんぽーん。
呼び鈴が鳴った。
誰だ。
「臨」
境界を広げる。
ドアの向こうに一人。
それだけだ。
少なくとも、他には誰もいない。
俺はSIG P210を抜き、ドアに近寄った。
「誰だ」
「私は聖母騎士修道会のディエゴ・ガルシアだ。まずは先ほどの素晴らしい歌声に賞賛の言葉を送りたい」
「そうか。じゃあ、伝えておくからお帰り願いたいのだがね」
「せっかくなのだ。顔を合わせておきたいじゃないか」
その言葉とともに、ドアがゆっくりと開いた。
バカな……。
二重のロックがかかっていたはずだ。
開いたその向こうに見えるのは、中肉中背。
黒髪を短く刈り込んだ褐色の肌を持つ男。
「いやいやいやいや。素晴らしかったですよ。先ほどの神をたたえる歌声。さすがです」
ずかずかと入り込んでくる。
SIG P210は無視だ。
「だが、私は悲しい。この歌声を、この世界から失わせてしまうなど」
両手に刃物。
グルカナイフ。
その特徴的な形はナイフであり、鉈でもある。
湾曲した刀身の内側に刃を持っている。
これを愛用する、ネパール山岳民族の傭兵たちによって、一気に知られるようになった。
「麻耶、隣の部屋へ行け。机の下に隠れていろ」
「うん」
背後に部屋から出ていく気配を感じつつ、俺はディエゴと向き合う。
「そこをどけ、異教徒。その首刈り取るぞ」
「うるせえよ」
俺は胸元に構えたP210の引き金を引いた。
避けられた。
いや、この距離で避けるとかないだろ!
前へ転がってナイフを避ける。
一回転して懐へ。
逆手持ちのグルカナイフが上から降ってくる。
P210をディエゴに向ける。
弾丸と刃が激突した。
互いに一旦距離を取る、がディエゴが早い。
横なぎに、首に向かって振られるナイフをP210で受け止める。
二撃、三撃。
スチールのボディにがんがんと傷が入っていく。
ディエゴ渾身の一撃が、P210を切断した。
「ば……馬鹿なっ」
銃身とスライドは綺麗になくなっていた。
「さて、どうするね」
俺はP210を捨てた。
そして、半身に構える。
「空手かね」
「合気という」
ディエゴが踏み込む。
まず、右。
それを躱すと、身体を回して、左が来る。
基本的には回転運動だ。
だからこそ。
手首を取って、その回転運動を加速させる。
ふわりとディエゴが浮いた。
そのまま床にたたきつける。
「がっ」
一か八かの踏み込みがうまくハマった。
俺はそのまま背後へ飛んだ。
そして、隣の部屋の机。
大きなスチールの事務机へと駆け寄る。
足元に麻耶が隠れているわけではない。
下の階に抜ける抜け穴があるだけだ。
俺はMK3手榴弾、米軍制式の手榴弾で自衛隊でも使われている、それを事務机の引き出しから出して、ディエゴに放り投げた。
そして、そのまま抜け穴へと降りる。
麻耶が待っていた。
「逃げるぞ!」
その言葉とともに階上で爆発音。
建物全体がビリビリと揺れる。
地下に止めてあるレクサスともう一台の車、トヨタプロボックスのドアを開けて乗り込んだ。
麻耶も助手席に転がり込む。
「行くぞっ」
俺たちはセーフハウスを飛び出した。
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