第5話
二時間ほど仮眠をとって、目を覚ます。
携帯を取り、麻耶の携帯の利用状況をチェックする。
指示した通り、誰かと連絡をとった形跡はない。
SNSにも未接続。
まあ、実際に何かしようとしてもはじかれるようにはなっているのだが。
さて、身支度を整え、「機関」から届いた情報に目を通す。
西方十字教会の火事は確認している。
「機関」のエージェントにして、神父藤倉進の消息は不明。
火事による死者については身元不明だが、体格から藤倉神父ではないことが確認されている。
「機関」からのメッセージには、今のところ返信はないため、情報収集中。
そして、ニュース記事のリンクがついていた。
東京 世田谷区の西方十字教会で火事
昨日夕刻、東京 世田谷区の西方十字教会で火事が発生しました。
午後7時すぎ、世田谷区の西方十字教会の建物から火が出て、消防車など25台が消火活動にあたり、火はおよそ7時間後に消し止められましたが、併設していた住宅と合わせておよそ180平方メートルが全焼しました。
警視庁によりますと、この火事の男性1人が死亡し、この男性の身元は、いまだに判明していないとのこと。教会の神父藤倉進(42)の行方は不明とのこと。
歯切れの悪い記事だな。
ついでに、機関の情報センターが持っている情報が、この程度ってことには、ちょいと不満だ。
俺はメッセンジャーを起動して、一人の相手を呼び出す。
しばらくして、ビデオ通話の着信がある。
画面にはアニメ風美少女のアバターが映っている。
「ひさしぶりだな。で、ヒマなのか。一発で捕まるなんざ、あんたにしては珍しいと思うんだが」
「いやいや。大龍寺の和尚からのひさしぶりの連絡だ。出ないわけにはいくまいよ」
「ありがたいことだな」
通話の相手は「鴉」という通り名を持つ情報屋。
一年ほど前に、ちょっとしたピンチを助けてやってからの関係だ。
そういう意味では義理堅いヤツではある。
「世田谷の火事は知ってるか」
「藤倉のだんなの教会だな」
「犯人を知らないか」
「すまん。それは拾えてない」
「拾えたら、ネタが欲しい。何でも」
「キーワードが西方十字教会ってだけならなくはないんすけど」
「どういうことだ?」
「結構な重要人物がお忍びでこの国に来ています」
「重要人物?」
「聖母騎士修道会のディエゴ・ガルシアと古き栄光の騎士修道会のフェルナン・フェルナンデス」
西方十字教会の武闘派中の武闘派。
いわば、教会の持つ軍隊、騎士修道会。
当然という言い方は何だが、騎士修道会のメンバーは、「機関」の武装勢力としても名が通っている。俺のようなフリーランスが受ける泡沫仕事ではなく、文字通り「世界を揺り動かす」案件に対して、西方十字教会が直々に乗り出し、「機関」としてふるまう時の、文字通り手足であり、盾と剣でもある。
その中でも、特に名前の通った二人だ。
そんな連中がそろって、日本へ。
仲良く京都観光でもしようってのか?
そんなわけあるまい。
「でも、聖母騎士修道会と古き栄光の騎士修道会って、仲悪くなかったか」
「まあ、ねえ。仲悪いねぇ」
と、いうことは協調よりも、競争の可能性がある。
西方十字教会の武闘派二人。いや、当然部下たちもいるだろう。
そんな連中が出張ってくるとなれば、この案件、西方十字教会の内ゲバ案件?
だが、藤倉さんがそんなハズレくじ引くか?
あの神父、何やかや危なっかしいが、退転して西方十字教会を抜けるなんてことはない人だぞ。
「ありがとう。助かった。また、何か情報あったら、メッセくれると助かる」
「あいよ。何に首突っ込むかなんてのは聞かねえよ。命大事にな」
「ああ、お互いにな」
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