人命救助

横断歩道の真ん中の人影が立ち止まる。俺はそれを追いかけ飛び出した。

けたたましいクラクションを聞きながら、その人影もとい少年を突き飛ばした。ゲームで鍛えられた反射神経がここにきて役に立つとは。この通りは店が多いこともあり、車通りもそれなりにある。現に俺の視界の端に車が迫ってきているのが見える。


無愛想なわりに行動派、と言われてきたがそれは逆だ。口下手だから行動で示す。それがこの人生で学んだ、俺なりの生き方だったのだ。だから、今ひとりの少年を向こう側に突き飛ばせたのだ。

意外と冷静な考えのまま、車と対峙する。


驚いた顔の運転手と目が合う。周りのざわめきが聞こえる。夕日を反射するボンネット。体の全体の筋肉が衝撃に耐えるためか無意識に固まる。これだけはっきり見えているのに、足だけは動かない。


このまま死んだら運転手の人や家族に迷惑をかけてしまうな。

あの少年は無事だろうか。

このあとみんなとゲームして飲む予定だったのに参加できないのか。惜しい。

そういえば、来月予約したゲームがあったっけ、楽しみにしてたのに。


体感時間が意外にも長く、段々どうでもよいようなところに思考が流れ出す。案外死が迫っていてもこうあからさまだと怖くないものだ。しかし最期に考えることがこれで正解なのだろうか。

いくらスローモーションに感じているとはいえ、何事にも終わりは来るものだ。俺の場合、人生の終わりが。


ドンッと鈍い音がしたような、

恐ろしいほどの衝撃を感じたような、

体が遠くにふっとばされたような、

生ぬるいものが流れ出しているような、


そんな気がしたが、結局よくわからなかった。

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