第7話

「転校生だって」

「どこの人だろ。イケメンかな」

「俺は美女志望ー」

「あんたの意見聞いてないから」

「そういや、今日灰田くんたちいなくない?」

「また遅刻かよ」

「仲良いよね、あの二人。幼馴染なんだっけ?」


 そんな賑やかな教室にチャイムの音が被さる。それと同時に気だるげな体育教師の金田先生が入ってくる。


「えー、転校生っちゃ転校生になるのか。なんか俺もよく分かんねぇけど、変わらず仲良くしてやれよ。ほら、入って来い」


 そう金田先生が言うと二人の男子生徒が入ってきた。


「え、あれって」


 教室がざわざわとしだす。一人の生徒は爽やかに、もう一人の生徒は不機嫌そうに。しかし、どこか見覚えのある二人だ。


「僕は天崎羽紅。よろしくね」

「……」

「ほら、自己紹介が大事って金ちゃん言ってたじゃんか」

「うっせぇな。……天崎羽琉」

「ということで、双子が来ましたー。気になる者は直接本人に聞いてくれな。俺もよく分かってないから。じゃ、授業の準備しろー」


 金田先生はそれだけ言うと教室から出ていった。その後の教室は混乱していたが、賑やかで楽しそうな声が聞こえてきた。


 そうして、二年三組に不思議な転校生がやって来た。


「これって、どういうことなんですかねー」

「難しく考えちゃいけませんよ、金田先生。俺もよく分かりませんが。まあ、漫画みたいだなって思っときましょ」

「おー。なんか、でっかい家族事情に巻き込まれたみたいだよ。まあ、仲直りしたなら良かったけどな」


 金田先生は微笑むと職員室にある冷えたコーヒーを一気飲みした。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 それから二年後の夏。

 羽紅と羽琉は同じ大学の異なる学科に入学した。羽紅は地歴の高校教師の資格を取れる学科に。羽琉は体育の高校教師の資格を取れる学科に。

 バイトと課題に明け暮れる日々と変化した毎日だが、あれから変わらないものもあった。


「羽琉、そろそろ起きて。今日一限目から講義あるって言ってたじゃん」

「……あ」

「朝ごはん食べるならもう用意してあるよ。服も仕方ないから用意してあげたし。早く行こ」


 支度を終えた羽琉は寝癖がぴょんぴょんと跳ねているまま、羽紅と共に家を出る。


 お互いのカバンについた短い、色の組み合わせが微妙な紐のストラップが揺れた。


 十七回目の夏。嘘で殺された天崎羽琉は自分を取り戻す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君に最後の嘘を吐く 白鷺緋翠 @SIRASAGI__HISUI

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ