再び、地下遺跡に2(ユニット:地下攻略連合軍)

「前来た時に、俺が戦ったヤツの話をしようか」


 遺跡の最奥まで移動するさなか、桐夜は待ち構えている敵の話をする。


「そいつは、一言で言えば竜だ。首が三つある、な」

「ふぅん」


 反応を示したのはゼルシオスだ。

 彼のいる世界には三首竜サーベロイ・ドラッヒェと呼ばれる生物――空獣ルフトティーアがおり、「首が三つある竜」と聞いて直感的に想起したのだ。

 ……もっとも、その敵の脅威度は三首竜サーベロイ・ドラッヒェの比ではないのだが。


「三つの首は全部独立してやがる。首だけじゃねぇな、尻尾の攻撃も侮れねぇ。離れてりゃあブレス、近づきゃあ尻尾てな具合に攻撃してくる。遠近両方において隙がぇ。だが……最大の問題はそこじゃねぇんだ」

「どんな問題があんだよ?」

「尋常じゃない再生力だ」


 桐夜が即答する。


「俺がみんなに入るように促した、この光のドームだがな。そもそもこれを作ったのは、この遺跡の中にある異常な時間加速……ってのは、もう話した通りだよな」

「ああ。ひとたびこの光の外から出ようものなら、瞬く間に老化して死ぬということか」

「そうだ」


 ゲルハルトの言葉に、頷く桐夜。


「人間だったら、平気でいられる奴はいない。俺ですらも平気じゃねぇ。平気だってんなら、こんなもんは作らねぇからな」

「それで? さっきの竜と再生力と、どんな関係があるってんだ?」

「ああ。文字通り一瞬で、与えたダメージがゼロになっちまう。どれだけ撃とうが蹴り抜こうが、な。再生速度は1秒で10日分……早いなんて次元じゃねぇ。つーて、俺が口で説明するよりも見た方が分かるぜ、きっと」

「マジかよ……ん?」


 と、ゼルシオスが何かを思い浮かぶ。


「ってこたぁ、このドームん中に入れちまえば、いくらかマシになるんじゃねぇか?」

「!」


 桐夜にとっては盲点だった。

 保護を前提とした光のドームを、攻撃に転用できるとは想定していないからだ。


「ここにいるやつぁ、どいつもこいつもふざけた実力してやがる。悔しいが、生身の俺じゃ勝てねぇような強さを持つやつらがな。あと……」


 ゼルシオスが見たのは、代行者の一団である。


「ただの人間じゃねぇ奴もたくさんいるな。つーか、何人かはバカみてぇに早い時間の流れもへっちゃらだろうよ。そんな気がするぜ」

「私も問題ないな。1秒で10日であるなら、多少は耐えられる」

「私も同じく!」


 赫竜エクスフランメ・ドラッヒェ母娘おやこである、フレイアとヒルデ。

 ヒルデですら7,500年、母親であるフレイアに至っては1万年以上生きてきている個体だ。そもそも寿命の概念があるかどうかすら怪しいレベルで長寿な彼女たちは、数瞬であるならばこの異常な時空間にいても何ら影響を受けない。


「ところで、そこのお姉さんは?」

「あらぁ、私? そうねぇ……私も一瞬なら、外に出てもイケるわね。そこのヴィグバルトともども」

「ああ」

「わわっ!?」


 突然聞こえる声に驚くヒルデ。

 声の主は、ヴィグバルトである。代行者の判断によって、隠形を解かれないでいたのだ。


「驚くことはない、異界にいる我らが同胞よ。私は一度、既に死んだ身。寿命の概念はとうに無い」

「その通りだ。そして、それゆえ活きる道もある」

「そうだな。この命、役立てよう」

「頼むぞ」


 決意を固める代行者とヴィグバルト。

 と、ドームの中心にいるシューヤが、短く告げる。


「気配が変わってきた……。そろそろだな」




 それは、間もなく行われる激戦の予兆であった。

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