ワガママ乙女の元に2(ユニット:代行者一行)

「順調だな」


 戦闘を避け見つかることを避け、代行者一行は無事に要塞前にたどり着く。


「この裏口からならば、比較的交戦を避けられるだろう。だが、繰り返すが……私は“想い人”の場所を知っているわけではないからな」


 ヴィグバルトは囚われた場所から動かなかったため、ほとんど要塞の構造を知らない。知る情報としては、たまたま耳に入った会話から断片的な位置を把握しているか、あるいは脱出の際に上空から一度見下ろした程度だ。


「承知している。さて、神錘よ。我らを導きたまえ」


 代行者は神錘の動きを頼りに、位置取りや敵の有無を探る。動き方や光の色・強さ……視覚的な情報を組み合わせた神錘によるは、代行者たちを一度たりとも過たず、また一度たりとも遭遇戦を起こさずに、目的の場所のいくらか手前まで到着出来た。


「もう少しだ」

「ここなの……? 人の気配はするけど……」

「みー……なんか、死の気配もプンプンする」

「同感だ。死人しびとが多くいる……神錘もそう示している。さて、気を引き締めるが良い。迂闊に接触しようものなら、隠形も意味をなさなくなるからな」

「これまで以上に用心するとしよう」

「行くぞ」


 進行を再開する代行者。

 転移を使わないで徒歩にこだわるのは、地形把握が困難――であることもそうなのだが。


(我らを知っているわけではない以上、信用を欠くような事も出来んからな)


 形式上のものではあるが、形式は重要である。手を抜けば、使命を果たせなくなるのだから。


 と、ミミミが小声で耳打つ。


「……前」

「ああ。不死の侍従じじゅう、か」


 そこらじゅうにわらわらといるアンデッドメイド。目的の部屋に近づくにつれ、頻度は上がりだす。

 発見された気配は皆無だが、緊張が否が応にも増していく。


 無用な戦闘はしない――代行者たちの目的は戦闘ではなく、説得だからだ。


「ッ!」

「…………気を付けろ」


 よろけてぶつかりそうになるカティンカを支える、ヴィグバルト。

 わずかに漏れ聞こえた会話がアンデッドメイドを振り向かせる――だが、視えるものが何もないことから、アンデッドメイドは不思議そうにしつつも、いつもの作業に戻った。


 ……やがて、一行はある部屋の前に立つ。


「ここだ」

「みー……仲間の気配が、する」

「ミミミちゃん、死神だったよね? まさか……?」

「入れば分かるだろう」

「その通りです。ここでの問答に、意味はありません」

「行きましょうか。今回は……滾れないでしょうけれど」




 各々心構えを済ませると、代行者は一同を代表して扉を開けたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る