深海に棲む竜と、空を観る竜3(ネメシス&陸式識勢・和御魂竜殻天将「ナ号」vs 催雨竜シエル)

「…………私が? 貴女たちのところに?」

「はい!」


 突然の提案に戸惑うシエルと、ニコニコと笑顔なネメシス――ついでに無表情なナーちゃん。


 ネメシスとしては、受けてもらう自信満々の提案を――しかしシエルは、笑い飛ばした。


「あっははははははは! 笑わせないでよ! あひっ、ひゃははっ、おかしいじゃない……!」

「えっ……えっ?」


 ネメシスが動揺するのも気にせずにひとしきり笑い飛ばしたシエルは、ゾッとするような声音で告げる。


「どうせ……どうせ、戦いからは逃げられないんだ。貴女たちのところに行ったって、結局戦うことになるんでしょ?」

「それは……!」


 FFXXに合流したばかりのネメシスは、事情をよく把握していない。

 実際のところ、事実上のリーダー格であるゼルシオスたちは、「戦いたくない」と言えば承諾してくれるのだが、シエルはもとよりネメシスもこういった配慮を全く知らないのである。


「ッ、それは、違います!」


 だが、それでもネメシスは否定した。


「私の師匠はっ! 一度は彼らFFXXと戦いましたけど、今は歌の師匠をしてくれてますっ!」


 何故ならば、今の師匠であるパルティスは、少なくとも今は。自らの歌を披露し、またネメシスを指導しているからだ。


「へぇ……? 歌?」

「はい! だから、きっと戦わなくても大丈夫です!」


 無根拠な自信を胸に、ネメシスはただ「友達になりたい」という一心で話し続ける。

 そんなネメシスを試すかのように、シエルが言った。


「じゃあ、一曲、歌って。今」

「い、今?」

「今」


 有無を言わせぬシエルの圧を受けて、ネメシスは覚悟を決める。


「スゥ――」


 深くゆっくりと息を吸い込みながら、パルティスから教わったことを思い出す。


(声はお腹から……そして、感情を込めすぎない!)


 声量は十分すぎるほどにある。あとは、どう美しく響かせるかだ。


(歌はいつもの歌でいいかな。なら!)


 準備を整えたネメシスは、歌声を響かせる。


「La~~~~~!!」


 まだぎこちなさが残るが、壊滅的な声からは順調に遠ざかっている。

 そして――


「えっ……あれっ、雲が?」


 ネメシスの歌声は、ものだ。

 雲も水分で出来ている以上、操る対象になる。


 周囲の雲という雲が、ネメシスの歌声に応じて拡散し、徐々に単なる水蒸気と化す。雲としてのまとまりを失い、天候が急激に回復する。


「…………」


 シエルは何もさえぎらず、ただその様子を見て――そして、ネメシスの歌声を聴いていた。


「ど、どうでしたか?」


 やがて一曲歌い終わったネメシスが、シエルに評価を尋ねる。


「……55点。まだまだ散々。……でも、いい」

「え?」

「…………友達。なってあげる。勝ち目も無さそうだし」


 いくらシエルが天候を操ると言っても、元となる雲を散らされては能力を活かしきれない。

 力量の差を思い知った以上、まだ突っぱねるつもりは無かった。


「……」


 ナーちゃんもナーちゃんで、ただ静かにその様子を見つめている。

 そして、ネメシスは――


「やった! ありがとうございます!」

「でも……約束」

「何でしょう?」

「『私を戦わせないで』。これ……ちゃんと、伝えて」

「はい!」




 かくして、シエルはネメシスの友達となったのであった。


---


★感想

 思ったより穏当な結果になった。

 とはいえ、シエルが好戦的でないので、やむを得ないと思われる。初期構想では水ブレスの撃ち合いにでもしようかと思ったけれど、これはこれでFFXX……もといフロインデ・ファータ・イクスクロイツ連合らしいと思ったのでヨシ!


 あとはいったん本隊をセントラルに到着させてから、代行者サイドに移行ですね。

 これで、作中時系列は遅い部類なんだぜ……ガクガクブルブル。

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