深海に棲む竜と、空を観る竜2(ネメシス&陸式識勢・和御魂竜殻天将「ナ号」vs 催雨竜シエル)

「あいたっ!?」


 雹が頭にぶつかり、痛がるネメシス。

 対話のために一時的に解除していた水の球体を慌てて展開し、そのままナーちゃんにしがみつく。


「も、もう一回! 近づいて!」


 ネメシスの頼みを聞いたナーちゃんが、シエルに近づく。

 同時に口をぐわりと開き、ブレスを吐こうと――


「ダ、ダメーッ! 攻撃しちゃダメー!」

「?」


 ナーちゃんが軽く首をかしげながらも、開いた口をわずかに閉じる。


「と、友達になりたいのに、攻撃なんかしちゃダメッ!」

「……」


 元々喋らない、というか喋れないナーちゃんだが、ネメシスの訴えは通じている。

 不可解だ――と言わん様子ではあるものの、攻撃はきちんと中断した。


「とりあえず、雨の降ってるとこに向かって!」


 氷では、ネメシスの特殊能力は発揮しえない。

 ナーちゃんが水か炎――熱で雹を適度に溶解させる――のブレスを吐いても良かったのだが、とりあえずは指示通りに動く。くどいようだが、今のネメシスはFFXXの同行者である以上、ナーちゃんにとっては味方であるために反抗・無視する理由が無い。


「ここなら……!」


 深海ではなく高空であるが、それでもネメシスにとって“水が存在する”という事実だけで有利な状態だ。


「手加減はします! スゥ――」


 ネメシスが息を吸いだした。

 だが――


「にひぃ……♪」


 シエルがニタリと、笑みを浮かべる――その、次の瞬間。


「あ、あれ?」


 雹がポチャリと、水の球体の内側へと入り込んでくる。

 雨粒だったはずが、いつの間にか雹に変わっていた。


「さ、さっきまで雨だったはず……」

「ざぁんねぇん。私の周囲の雨はすべて、私の思うがまま……」


 雲から降るものはその一切が、シエルの操りうる物と言っていい。風と雷は例外であるが、それを踏まえたとしても、シエルにとってネメシスという存在を退けるには十分すぎるものである。


 と、シエルが距離を詰めてきた。

 高高度から、文字通りの上から目線でネメシスに言う。


「もう一度だけ、言う。退いて」

「えっ……?」

「私……本当に戦うのは嫌なの。めんどくさいし、何度逃げてきたか。もっとも……逃げられなかったんだけれど」


 うんざりした様子で、ネメシスに語り掛けるシエル。

 彼女も彼女でネメシスにシンパシーを感じるのか、それとも元来の積極的な戦闘をしない主義か、ともかく攻撃を止めて――一方的ではあるが――ネメシスに話しかけていた。


「今では、エッツェル……様の支配下。だから、戦うしかない。でも、戦うのは嫌」

「め、めんどくさいからですか?」

「それもそう……でも貴女、今まで会った奴らと、ちょっと違う。それに……竜でしょ? 水系の」

「は、はい……」


 ネメシスの異名は“深棲竜しんせいりゅう”。深海に棲む竜、ゆえだ。

 そして海を拠点としているがゆえに、水の扱いには長けている。


「……だったら、私と貴女は同胞。同胞で、殺し合いはしたくない。だから、退いて」

「あ、あなたはいいんですか?」

「いい。『撃退した』ということにすればいい。いちおう戦ったんだから、少なくとも……素通りはさせてない」


 とは言っているものの、シエルは直後に「けど……数の上じゃ戦果ゼロだから、どうなるか分かんないけどね」と、悲観的に笑いながら呟いた。


「だ、だったらっ!」


 その様子を見たネメシスが、シエルに提案する。




「あ、あたしたちのところに来ませんか!? 一緒に歌を歌いましょう!」

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