深海に棲む竜と、空を観る竜1(ネメシス&陸式識勢・和御魂竜殻天将「ナ号」vs 催雨竜シエル)

「どこまで行くの……?」


 黄金きんの粒子は、空高くにネメシスとナーちゃんを導く。

 気づいた頃には、雲の上までたどり着いていた。


「あれ? 誰かいる?」


 ネメシスの声を聞いたナーちゃんが、“誰か”がいる方向へと進む。


「うふふ……うふふふ……」


 気流に乗って、暗い声音が聞こえてきた。

 ネメシスが視線を巡らせると、紺色のウロコをした竜が雲の上を漂っている。


「見つけた!」


 ネメシスの言葉に反応したナーちゃんが、紺色の竜に向けて動く。

 十分に接近したタイミングで――


「あ、あのっ!」

「ん~……?」

「あ、あたしはネメシスって言います! とっ、友達にっ、なってくれませんかっ!?」


 ネメシスが、紺色の竜に呼びかける。歌声、またパルティスに短時間なりとも鍛えられた結果、声量は見事なものになっていた。

 果たして、結果は――


「うふふふ、見えてないと思ってた?」

「え?」

「あのデカい戦艦から……出てくるところ……。あなたはFFXXに、いるんでしょ? だったら、私の……敵だよね……」

「て、敵ですか? どうして!」


 ネメシスが叫ぶように問いかけるが、竜は答えない。


「FFXX……それ即ち、エッツェル……様の、敵。だから…………死んで」

「ッ!」


 明確な敵意を示され、動揺するネメシス。

 次の瞬間――高水圧のブレスが発射された。


「!?」

「――!」


 反応が遅れたネメシスを庇うように、ナーちゃんが大地のブレスを吐く。

 五行による相性あいしょうでは“土は水を汚染し、また水を吸い取ってしまう”――相克そうこくの関係であり、いわば有利な属性だ。

 元々五行を用いた戦闘をも想定されている式神、ナーちゃん――陸式識勢・和御魂竜殻天将「ナ号」――は、相手の用いる攻撃の属性によっては相性で押し勝つ戦術も可能なのだ。


「チッ……!」


 紺色の竜が舌打ちする。

 出力としては互角よりやや優る程度であったが、相性が有利であったことが一方的な圧倒に繋がった。


「やっぱり、単に撃つだけじゃ勝てないか……」

「あのっ! あなたの名前を聞かせてください!」

「うざったい……。けど、まあ、いいか」


 紺色の竜が、ネメシスの顔を気だるげに見据えて名乗る。


「私はシエル。人呼んで、催雨竜さいうりゅうシエル……ってとこかな」

「わぁ! 素敵な名前です!」

「はぁ……もういいでしょ? 私たちは敵、なんだから……」

「それでもっ! お友達になりたいですっ!」


 友達を求めるネメシス。

 シエルが彼女と似た種族の竜であることも、親近感を覚える理由の一つだ。


 ……だが。


「あぁ~……もう。うざい」


 肝心のシエルには、ネメシス――ついでにナーちゃんに対して、敵意しか持っていなかった。


「めんどくさいけど、ちょっと力を見せないと……」


 シエルがブレスを放つ。

 ただでさえ雨が降っている状態なのに、さらに雨雲が重なる。


「わっ、豪雨……」


 ネメシスが呟いた次の瞬間――


「きゃっ!?」

「――!」


 落雷が発生した。

 ネメシスとナーちゃんに直撃こそしていないものの、ネメシスを驚愕させうる悪天候であった。

 そもそも海底神殿に引きこもっていたネメシスは、ほとんど落雷という現象への知識が無い、あるいは“久しぶりすぎて忘れていた”か、いずれにせよショックを受ける状態にあったのである。


 そんなネメシスを見たシエルは――


「めんどくさいの、やだ。これ以上戦いたくないし、退いて?」

「わっ……心配してくれるんですか? ありがとうございます!」

「別に、あんたのためじゃない。私が……めんどくさいの」


 あくまでも自分のためであるシエル。

 だが、それはネメシスには逆効果であった。


「なら、お友達になりましょう! あたし、優しい人は好きですから!」

「……はぁ。余計、めんどくさい」




 ネメシスの謎の執念深さを見たシエルは――雨粒を雹に変え始めた。

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