イケメンに美女……!5(ゼルシオス&ゲルハルト&パトリツィア vs 鬼女 お万&『鬼龍神』サー・ワールドワイド・イバラガンド)

「「なっ……!?」」


 突然のゼルシオスの一言に、お万とイバラガンドは揃って驚愕する。


「ま、待てゼルシオス! あたいたちはまだそんな仲じゃ……」

「そ、そうだぞ、ただの酒飲み仲間だぞ」


 二人してあわあわと否定する。


「嘘つけ。思ったより仲良さそう……つーか深そうだぞ、あんたら」


 ……が、ゼルシオスには逆効果だった。直感ここに極まれりである。

 いちおう酒の影響で少々ブレてはいるのだが、この程度では揺るがない事実があるのだ。


「だからさぁ、もうくっついちまえば? って思うワケよ、はたから見てる側としちゃ」

「そ、そう、だけどさ……」

「ああ……」


 しどろもどろになる二人。

 お万に至っては一度肯定しているあたり、やはりまんざらではない。


 と、ゼルシオスが我慢の限界を迎える。


「えーい二人して奥手だなぁこら! 柄杓寄越せ!」


 それぞれの柄杓で一度酒を掬ってから、やはりそれぞれの升に入れる。

 八分目まで入れたところで、ゼルシオスは升を入れ替えた。


「おい、何やってんだ!」

「そ、それは彼女の……お万殿どのの升ではないか!」

「いいんだよ、これで。ほら、乾杯!」

「「か……乾杯!」」


 有無を言わさず乾杯の音頭を仕切ったタイミングで、お万とイバラガンドが乾杯をする。

 そして二人とも酒をひと息に飲み干した途端、ゼルシオスが衝撃の一言を切り出した。


「よし! あんたらめでたくこれで夫婦だ! あ、仲人なこうどは俺な!」

「「ハァ!?!?」」


 驚くところまで息ピッタリである。タイミングが何度も揃うあたり、二人の間柄は既に夫婦だろう。たった今ゼルシオスに夫婦認定されたばかりではあるが。


「ちょ! と、取り消せ!」

「そ、そうである! ま、まだ覚悟が……」

「るせぇ! あんたら鬼なのに、俺より肝が据わってるはずなのに、こんなとこでウジウジしてんじゃねぇ!」


 酔いが回って支離滅裂になっているゼルシオスだが、発言の勢いだけは抜群にある。

 今の一喝は、鬼二人すら黙ってしまった。


「どう見ても結婚してる気配プンプンじゃねぇかもう! グダるな! 引くな! 特にお万!」

「あ、あたい!?」

「ああ! 『全て奪う』んだろ!? だったら押し倒しちまえ! イバラガンドも、押し倒される前に押し倒しちまえ! あんたら見たところ俺らより遥かにつえぇんだから、恋愛でもその調子で行きやがれってんだ!!」


 ――お酒は本音を引き出す。

 ゼルシオスの視点では、下ネタすら出てくるほどに「見てらんねぇ」状態なのが、お万とイバラガンドであった。


 だが飾らぬ本音が逆に作用したのか、お万がスッと真顔になる。

 酔いは十分回っているが、ゼルシオスの一言はなかなかに効いたようだ。


「そうか。ぶっ殺す……のは今回しねえけど、『全て奪う』のは言われた通りだわ。なぁ、イバラガンド?」

「ひっ!」


 ゼルシオスの勢いに呑まれて不安定になっているイバラガンドが、一瞬だが悲鳴をあげる。

 しかし、すぐにいつもの調子を取り戻し。


「ああ、ゼルシオス殿の言う通りだ。この鬼神と龍神の血を引くワールドワイド・イバラガンド、同じ鬼であるお万殿に負けはせん!」

「“殿”はいらねぇだろうがイバラガンド!」

「お……お万に、負けはせん!」


 外野となりつつあるゼルシオスから、激烈なツッコミが入った。

 確かに、夫婦に“殿”は無用である。そういう距離感は無いのが通常だからだ。


「上等! 全て奪ってやんよ!」

「その意気や見事! ならば我も!」

「オーケイ、二人とも夫婦になる気はマンマンのようだな。それじゃ、お邪魔虫はそろそろ……」


 ゼルシオスが、ゲルハルトとパトリツィアに目配せをしながら立ち去る準備をする。


「待ちな!」


 それをお万が呼び止める。


「何だ!」

「あたいの酒、持っていきな! 全部……はダメだけど、飲みたいだけな!」

「だったら遠慮なく! でも、ぶっちゃけ重いから、乗ってからにするぜ」


 飲酒運転である。ついでに軍規違反、というか艦内規律違反でもある。とはいえ、移動手段がこれしかないのだからやむを得ない。


「それじゃ、夫婦でよろしくやれよ!」

「ああ! またな!」


 かくして、土産であるお万特製の酒のツボを7つほど回収したゼルシオスたちは、ドミニアへと戻っていくことになったのであった。


     ***


 そこから数分のち。


「……で」

「なんだ、お万?」

「あたいら、これで夫婦ってわけですか」

「証人までいるのだから、仕方あるまい。我はやり方を知らんが、一緒にお酒でも造るか」

「いいねぇ! あたいがみっちり教えてやんよ!」




 なんだかんだ言って、二人は今後の門出かどでに期待を寄せていた。


---


★解説

 長らくお待たせしました!

 ようやく“対お万&イバラガンド”編、解決です。戦ってすらいませんが、こういう場合はいちおう特殊勝利扱いで……w

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