頑固なもんだぜ(ユニット:FFXX本隊)

「……そうかい」


 マリアの返答を聞いたゼルシオスが、短く呟く。


「いちおう聞くぜ。理由を教えてくれ」

「彼と……リィフと、約束したんです。『立派な魔法使いになってから、また帰る』と。それまでは行けません」

「おいおい、命かかってんだろ? 彼……リィフ君でいいのか? 命を救うためなら、ぶち破ってでも……!」

「ダメなんです」

「何でだ!」

「私も、同じ……


 それを聞いて、ゼルシオスが大きな石で顔面を殴られたかのようにのけぞる。


「あ、あぁ……そういう、ことかよ……」


 召喚で来た以上、帰るにはリアか、同等以上の存在による介入――転移が必要だ。空を翔けるドミニアでさえも、世界を飛び越える神の域には至っていない。


「だったらこうしてやるぜ! おいッ、リア!!」

「やめてください!」

「……え?」


 ゼルシオスが初めて、面食らった顔を浮かべる。

 直感を持ち近い未来を察知する彼であっても、マリアが止めることは――感情が理性を上回っていたがゆえに――知覚出来なかったのだ。


「いいんです。これは私と、リィフの問題です」

「……」

「深海の秘薬を取ってきて下さったことには感謝しています。ですが、今帰っても、私は何にもなれないままです。お役にも立てず、恩だけを受けて帰る……それじゃあ、リィフに顔向け出来ないんです」

「……けどよ、リィフ君の病気はどうすんだよ?」

「今すぐ……少なくとも、数日や数週間で死ぬような病気ではありません。『治らない』とは言っても、だからと言って『すぐに死ぬ』とも限りません。リィフは……彼なりにずっと、病気と付き合っていました。だから、急がなくて……いいんです」


 マリアの訴えを聞いたゼルシオスが、言葉を収める。


「……分かった。そこまで言うなら、もう俺らの出る幕じゃねぇや。ヒルデ、仕舞ってくれ。宝箱とは別の容器にな」

「いいんですか、ご主人様?」

「いいんだよ。まったく、見た目によらず頑固なもんだぜ。あんたといいアドレーアやアドライアといい、シルフィアといい……女はみんな、どうしてこうも頑固なもんかね?」


 ゼルシオスの呟きに、意外な人物が口を挟む。


「そういうゼルシオス様も、なかなかに頑固ではありませんか」

「ライラ……どういうこった?」

「ご自身でお気づきでは? 一見ひねたように見せて、その実まっすぐな性格。見ている私としては、“愚直”とすら言えるほどです」

「……うっせ。前世からこうなんだよ。あぁ、そんなもんを捨てたくてヤンチャしてたはずなのに、こうまでしみついてっと……魂の底からそうなんじゃねぇかって、思えてきちまう」

「私は好きですよ。ゼルシオス様のそのような性格が」


 突然のライラの言葉に、ゼルシオスは一瞬硬直した。


「あぁん? こくってんのか?」

「はい。それに……そのような性格だからこそ、アドレーア様、アドライア様、フレイア様、ヒルデ様、シルフィア様、ハルカ、エヴレナ様……貴方に惹かれる方々が大勢、いらっしゃるではありませんか。もちろん、私もその中の一人ですよ?」

「かーっ! 恥ずかしいねぇ。ま、俺のハーレムに加わりてぇってんなら大歓迎だ。空きは俺が死ぬまで作っといてやるよ」

「光栄です。では……いかがしましょうか」

「持ち場だ持ち場! アドレーアんとこ行ってやれ! 俺は寝るからよ!」

「かしこまりました。うふふ」




 ゼルシオスは足音荒く、自室へ向かったのであった。

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