恐ろしい来訪者2(ゼルシオス&フレイア&ヒルデ vs 深棲竜ネメシス)
「友達ねぇ。あんたみてぇな美女と友達になれるってんなら、こっちは大歓迎だぜ」
「私としても、異存は無いな」
「ご主人様の方針ですし、私もお友達になりたいって思ってたんです!」
好意的な反応を示す、ゼルシオスたち3人。
それを見た美女が、喜色満面になる。
「あ、ありがとうございます! 私の名前はネメシスです。それでは、お友達になったお近づきの印として……」
「!?」
ゼルシオスは、猛烈に嫌な予感を覚える。
「一曲、歌いたいと思います。■■■■■ーーーーーー!!」
「ご主人様ッ!!」
ネメシスが歌い始めると同時に、ヒルデはゼルシオスをかばうように前へ出る。その、直後。
「ぐぅ……っ!」
「ヒルデ!? って、押し流されてんじゃねぇか俺たち!」
異常な振動と、激烈な音響――“音”と表現するのも生ぬるい、おぞましい空気の震え――により、泳ぐことはおろかまともに立つこともままならない。
そして
「つーか、何だこれ! うるせぇ!!」
「おそらく彼女の歌だ! 意味は解らんが、あの様子では……!」
「止めさせるぞ! オイ、うるせぇクソ音痴!!」
ゼルシオスが叫ぶが、ネメシスの耳には届いていないようだ。
「クソ! 出力最大……!」
「機体の中でも無事じゃ済まないかもしれませんよ、ご主人様っ!」
「わーってる! あの音自体が危険なんだろ!? ……それ、でもっ!」
ゼルシオスが機体の出力を上げ、ネメシスの歌を止めるために踏みとどまる。
表面に光の帯が生まれるほどに出力を上げたヴェルリート・グレーセアは、冷たい深海であってもなお伝わるほどの熱量を生み出した。
「わっ、熱くなってきた! 母さん、炎熱防壁!」
「ああ!」
巻き添えを食わないように、フレイアとヒルデが熱気への対策を施す。
その直後、ヴェルリート・グレーセアの発する熱量が一気に増大した。
「俺のっ、話を……聞けぇえ!!」
「■■■■■ーーーーー……えっ、あぢっ、
「じゃあ黙れ! 今すぐ黙れ! 黙らなきゃ焼き魚にしてやる!」
「だ、黙りますから、黙りますから熱いのやめて! 死んじゃう!」
かくして、ネメシスの歌は止まったのである。
***
「まったく……おいコラ、このクソ音痴。見た目に似合わねぇ声出しやがって」
「えっ……」
ゼルシオスに「クソ音痴」呼ばわりされ、呆然とするネメシス。
「てめぇだよてめぇ! あんな破壊的なクソうるせぇ音痴ボイス出してたの、てめぇしかいねぇだろ!!」
「……」
黙り込むネメシス。
その、次の瞬間。
「うっ、うぇええええ~~~ん!!」
「おい!?」
突然泣き出したネメシスを見て、機体の中で動揺するゼルシオス。
「音痴って言われた……ガルテアちゃんは『いい声だね』って褒めてくれたのにぃ!」
「いや……済まないが、これは私にも擁護できん。ゼルシオスの物言いは最悪だが……」
「まったく、私のダメージだけで済んで良かったですよ、ネメシスさん。これ、海面にも被害が出てるんじゃないですか?」
「えっ、えっ……?」
ネメシス自身には心当たりが無い――先ほどの壊滅的な歌も、ネメシスに曰く“平和がいちばんの歌”――が、彼女の歌にはエリア1-3:大震洋に影響を及ぼすほどの威力がある。
この程度のダメージで済んだのは、奇跡、そして加護によるものとしか言いようが無かったのであった。
「わ、私の歌……そんなに?」
「あぁ、そんなにだ。まったく、ちゃんとした歌手にレッスンしてもらえ」
「うぅ……音痴、なんですね……。しょうがないです、特訓してもらおっかなぁ。あの竜に。となると、海の上に顔を出すしかないのかなぁ」
(あの竜……?)
ネメシスの一言を聞いて「まだめんどくせぇこと、ありそうだな」と直感的に思うゼルシオス。
と、本来の要件を思い出した。
「はぁ……それはそうと、もう一回お願いだ。“深海の秘薬”、あるか?」
「あっ、は、はい! あるので、ちょっと待っててくださいね」
「あと、戦いに役立つものがあれば、分けてもらいたいのだが」
「はい! いいですよ」
バッサリ「音痴」と言われようと、ネメシスにとっては“初めて出来たお友達”である。
何だかんだで、すぐに笑顔を取り戻したのであった。
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★解説
というワケで、ネメシス嬢に特殊勝利です。
ゼルシオス君に「うるせぇクソ音痴!!」と言わせられたので大満足。そして、ようやく予約消化。南木様、大変長らくお待たせしました……。
なお、彼女が「ガルテアちゃん」と呼んだのは彼女。
許可を得て、「ネメシスと(ほぼ)お友達」という設定にしています。
https://kakuyomu.jp/works/16817139558351554100/episodes/16817330647970644878
あと、“彼”のフラグを立てておきました。
先んじて予約したのは、彼と絡ませたいがゆえです。もしかしたら、ネメシス嬢の音痴……治るかも?
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