幼き淫魔と、邪悪な気配(ユニット:幼淫魔リル)

「んぅ……ここは、どこですか?」


 エリア0-2:セントラル地下。

 キティの働きにより、居住する者――もっとも、ほぼ全員が貧民である貧民窟なのだが――がごっそりと減り、かつ突発的な地震による影響も相まって廃墟同然と化している。


 そんな場所に迷い込んだ、一匹の幼い淫魔がいる。

 もっとも幼いのは精神面だけであり、肉体的には男をとりこにするレベルで発達していたが。


 彼女の名前は、リル。

 この世界に生まれたばかりの淫魔だ。彼女を生み出した存在は土着であり、ゆえに彼女は「生まれも育ちも、リアの世界」といえる。


「おなか……すきました」


 生まれたばかりの彼女は、本能的な飢餓感を覚えていた。

 赤子が母乳を求めるように、彼女はふらふらと足を進める。生きているものから、精気を吸収するために。


「あのひと……いいかも、しれません」


 リルが目を付けたのは、金髪黒目の少年。

 見た目こそ貧民に偽装しているが、あふれる精気を見て、彼女はふらふらと足を進める。


「む? お主、何か用か」

「はい。ごはん……ください」

「ご飯じゃと? 空腹なのか」

「そうです。だから……いいですよね」


 リルはそういうと、ひざまずいて少年にキスをしようとする。

 薄めだが、適度にぷっくりしている唇が、少年の口を捉えんとし――


「口を付けるなら、こちらにするのだな」


 少年が、左の手の甲を差し出す。


「はぁい……いただき、まぁす。ちゅっ」


 リルは素直に口を付け、そして精気を吸い――


「!? ま、まず不味いっ!」


 とっさに、口を離す。

 明らかな嫌悪の表情を浮かべながら、リルは告げた。


「あなたは、……それも、とっても人です!」

「ほほう。ワシの本質を、手に口を付けただけで見抜くか。……お主、見たところ生まれたてのようじゃのう。眷属とするにはまだ早いが……面白い、“実験”を兼ねて、ひとつやってみるか」

「い、いや……!」


 翼の魔力を放出し、少年から逃げようとするリル。

 だが、体が一切動かない。


「それは、ワシをおそれる本能じゃ。大人しくしておれ? でないと、言葉通り――赤子の手をひねることになるじゃろうからのう」

「ひっ…………」


 恐怖と絶望に染めた表情を浮かべるリル。


「その顔じゃ! その顔こそ、ワシの糧にふさわしい。では……始めるか」




 頭の頂点に手を置いた少年――悪竜王ハイネは、リルに自身の持つ魔力を注いだのであった。


---


★通達

「幼淫魔リル」が「淫魔リル・アルプトラオム」に進化しました。

 なお、本ユニットは予約不能状態であるため、最初から最後まで有原がコントロールします。また、本エピソードは時系列に逆行した「過去の話」であるため、絡める際は時系列にご注意ください。


 ネタバレとなりますが、時系列を考慮した際の「この後リルに起こる変化を、ハイネが知らなかった理由」を先に書いておきます。

1,「そもそも変化自体を知らなかった」

2,「変化を知ってはいたが、諸々の理由で手出し出来なかったためそのまま戦略を実行せざるを得なかった」

3,「変化を知ってはいたが、諸々の理由でリルの実力ないし脅威度を侮っていた」


 個人的に見て一番適合しそうなのは3ですが、こちらの判断はハイネの生みの親である東美桜様に委ねます。

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