心が躍る……!(霊竜ヴィグバルト vs 氷針竜フォルテシア)

「まずは挨拶代わりだ!」


 ヴィグバルトが、自身の代名詞と言える蒼炎のブレスを吐きだす。


「心もカラダも躍るわね! 受けて立つわ!」


 それに呼応し、フォルテシアもまた冷気投射フリーズ・ブレスで応じる。

 摂氏1万度と、周囲の大気にある冷気を取り込んだ極低温のブレスは――徐々にヴィグバルトのブレスが優勢になる。


「流石に相性が悪いわね……! カラダの相性は……分からないから、試してみたいけど!」

「お断りだな!」


 竜種は特有の発声器官により、口から全力でブレスを吐いていようとも会話が可能である。

 フォルテシアが不利を悟ると、人型形態を取って強引にブレスを中断した。直後、極低温の空間は灼熱の蒼炎に呑まれる。


「ほう、そのようにして避けるか」

「そうでもしないと丸焦げよ。ヤケドはあとを残すんだか……らっ!」


 人型形態となったフォルテシアが、氷の針を連射する。

 大気中の水分や氷さえあればいくらでも生成できる針は、次々と弾丸となる。


「当たるものか」


 肉体に準じた“から”を持つヴィグバルトは、針を軽く避ける。SGエネルギーによるものとはいえ、そう迂闊に被弾できないのだ。


「読み通りよ。“氷針人形アイス・ドール”」


 だがフォルテシアは、“ヴィグバルトが回避する”ということを見越していた。自らの持つ特殊能力を、発動する。


「さあ、?」

「背中だと? 誰もいない――」


 言いかけたところで、ヴィグバルトは自らの背面に違和感を覚える。


「……そういうことか。味な真似を」


 本来有り得ない、背中に冷気を感じる状態。

 離れた場所から見れば、ヴィグバルトの背中には氷の針で出来た人形があった。


 たとえ首を巡らせ背中に炎を吐いても、直接照準では絶妙に狙えない位置に生成されている。

 ならば振り落とすという手があるが、先端がいくばくか刺さっているために手間取る可能性が大きい。そして手間取るということは、フォルテシアからの攻撃を受けかねないということでもある。


「……ならば!」


 ヴィグバルトは誰もいない正面に、全力でブレスを吐いた。

 フロストマキアの酷寒の大気をして抑えられぬ熱気の波が、広がっていく。


「何を……ッ、まさか!」

「そのまさかだ!」


 ヴィグバルトの意図に気づいたフォルテシア。

 次の瞬間――ヴィグバルトが、自らの生み出した熱気の中に飛び込んだ。


「これがただの氷であるならば!」


 そう。フォルテシアの生み出した針人形は、氷を固めた程度のものに過ぎない。

 当然の結果というべきか、余波でも圧倒的な熱量を秘める空間を通り過ぎただけで、瞬く間に溶け去ったのである。


「さすがね……けれど、今なら隙だらけよ」


 フォルテシアは回避行動の隙を突き、冷気投射フリーズ・ブレスを再び発射する。

 被弾すれば機動力を封じられ、一方的になぶり殺しにされるだろう。現にフォルテシアは、今まで戦った敵たちをこの戦法で仕留めていたのだから。


 完全にヴィグバルトの背後に回ったフォルテシアは、回避を許さず冷気を放ち続け――


「ヴィグバルトよ。無粋ではあるが、汝の炎のいましめ、今解く」


 代行者の言葉が響いた、次の瞬間。

 ヴィグバルトが身にまとう蒼炎が、本来の熱を取り戻す。


「ウソ!? そんなに熱かったの!?」


 フォルテシアが慌てる間もあらばこそ。

 浴びせた冷気は、瞬く間に圧倒的な熱気で上書きされていく。


「人を乗せていたがゆえ! しかし今ならば、遠慮は要るまい!」


 もはや冷気を完全に封殺したヴィグバルト。

 それを察したフォルテシアは、あきらめの表情を浮かべ――


「降参、降参よ。勝てそうにないわ。それに、私より強いことが分かればそれで十分だし」


 戦意を喪失し、これ以上の敵対の意思が無いことを告げたのであった。


     ***


「済まないな。水を差す格好になった」


 再び蒼炎の温度を人間の体温程度に抑えてから、代行者たちは謎の機体によってヴィグバルトの背に戻される。


「いや、これもまた運命なのだろう。戦いこそしたが、彼女は死なせるには惜しいからな」

「あら、見逃してくれるの?」

「否だ。仲間になってくれ、フォルテシア」


 果たして、彼女の答えは。


「いいわよ。何となく、あなたたちと一緒にいると楽しそうだし」


 人間態に変身しながら、肯定の答えを返すフォルテシア。


「それにしても……さっきから思ったんだけど」

「な、なに?」


 カティンカを、熱情のこもった視線で見つめるフォルテシア。


「あなた、可愛いわね! 私の子供を産んでほしいわ!」

「むぎゅっ! もが、もがががちょ、ちょっと離して……」

「みー……変態」

「騒がしくなりますね」




 一対一の戦いを経て、フォルテシアが代行者たちの仲間になったのであった。


---


★解説

 セルフ後始末、完了。

 スペックや相性その他もろもろの理由でフォルテシアがヴィグバルトに勝てないのは既定路線です。

 そのため、「じゃあ、どこまで善戦させるか?」という方向に舵を切りました。


 とりあえず……戦略的方針上、FFXXもとい有原は「仲間にできるボスや逸脱者は、可能な限り仲間にする」という戦法を取っています。


 ところで、あの新生した猫型ドラゴン……どのタイミングで倒す(あるいは始末をお任せする)べきか?

 早すぎると敵の頭数が少なくてそれはそれでつまらないし、遅すぎると逆に頭数が増えすぎて対処が追っつかないし……。


 あと、メタ的理由で予約たっぷりなので、いい加減消化にあたらねばという事情もある。

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