竜としての矜持か。良かろう(ユニット:神錘の代行者)

「このような場所に、これほどの竜がいたとはな」


 ヴィグバルトが、謎の薄水色の竜を見て呟く。

 次の瞬間、高らかなる名乗りを上げた。


「我が名は、ヴィグバルト! 竜であれば、この名を知っていよう」

「ええ、良く知っているわ。私の名前はフォルテシア。“氷針竜ひしんりゅう”という通り名を言えば、少しは心当たりがあるかしら」

「氷針竜……噂を聞いたことならば」


 ヴィグバルトは過去の記憶を振り返り、今視界に映る竜の情報を思い出す。


「冷気と氷を司る竜だったな。そして……竜種どころか、この世界では珍しい両性具有と聞く」

「その通りよ。産むことも、産ませることもできるの」


 色気を帯びた声で告げるフォルテシア。

 ヴィグバルトの背でカティンカが「はわわ……」と言っているが、フォルテシアにとって彼女の気恥ずかしさなど知ったことではない。


 ヴィグバルトはフォルテシアに向き直ると、淡々と告げる。


「恨みは無いが、先に仕掛けたのはそちらだ」

「うふふ、だって美味しそうだったもの」

「何……?」


 予想をはるかに通り越した返事を受けて、ヴィグバルトが動揺する。


「そう。美味しそうなのよ。あなたの、遺伝子」

「わぶっ!」


 恥ずかしさのあまりに顔面を赤く染める――のを通り越して、蒸気爆発を起こしたカティンカ。


「だ、大丈夫!?」

「ぷしゅー……ちょっと、刺激が……」

「確かに、かの竜は言葉回しがひとつひとつ攻めたものですね」


 ミミミとロイヤが、思わずカティンカを抱きとめる。

 一方、ヴィグバルトは動揺こそしていたものの、カティンカほどに過敏な反応を示さなかった。


「……なるほどな。だが、今の私に肉体は無い。渡せる遺伝子は無いな」

「あら、そう。けれど……だとしても、私は私でたぎっちゃうわ!」


 劣情、そして闘志をむき出しにしてくるフォルテシアを見て、ヴィグバルトもまた決意を新たにする。


「代行者よ。ここは私だけで相手をしたい」

「そうか。止めはせぬが……良いのか?」

「ああ。彼女は私との戦いを所望しているようだ。応える義理は無いが、無視する理由もまた無いのでな」

「竜としての矜持か。良かろう」


 代行者はヴィグバルトにかけた隠形おんぎょうを解除し、退避を試みる。


「ならば我らは、安全な場所へ――む、主よ」


 代行者に語り掛けた謎の機体が、代行者たちをヴィグバルトの背から離した。

 そして、代行者たちを空中に漂わせ、“観戦”の準備を整えたのである。


 謎の機体は、ヴィグバルトの脳裏に不可視の文字を浮かべる。


「“彼らは十分に離れた”……承知。ならば遠慮なく、私は全力を尽くせる!」


 臨戦態勢を整えたヴィグバルトを見て、フォルテシアもまた歓喜の言葉を上げる。


「いいわ、いいわよ貴方! もっともっと、滾らせてちょうだい!」




 かくして――いにしえ炎霊竜えんれいりゅうと、両性具有の氷針竜ひしんりゅうとの対決の火蓋が切られたのである。


---


★解説

 セルフ後始末枠その1の、フォルテシアさん。

 元々の名前は「フォルテリア」だったが、少し考えた結果「音楽記号の“フォルテシモ”に寄せよう!」となったために、現在の名前への改名に至る。


 とりあえず、変態レベルはカティンカの反応のほどを見てもらえれば分かるかと。


 そもそもこちらの自主企画「ワールドワイド・フロンティア」は、他の参加者の皆様と交流を図ることが本懐であると勝手に見ている。

 そのため、「セルフ後始末」というのは、正直自分のしょうに合わない。本懐に反するから。


 しかし、一度は敵として戦う「ボス・逸脱者」を、自分で使いたくなることが起こるのもまた事実。

 ゆえに私は、「他人も予約でき、かつ自分で使うチャンスもある」という状況を作ることにした。そう、それが予約期限付きユニットである。

 これならば「指定された時間までは予約可能だが、指定された時間を迎えた瞬間即刻封印指定をする(そして自分で使う)」の両取りが出来るというわけである。


 というわけで、ユニット「幼淫魔リル」に期限を付してあります。

https://kakuyomu.jp/works/16817139558351554100/episodes/16817330647970862061


 期限までに選ばれなかったら有原陣営で操るので、悪しからず。

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