氷の針(ユニット:神錘の代行者)

「……さて、我がしゅによる直々のお言葉により、ひとまずの目的は達成したわけであるが」


 含みを持たせた言い方で、代行者は同行する者たちに告げる。


「我が主より、『まだこの地における役割を果たしておらぬ』とのお告げを得た。先ほど神錘にて子細しさいを確かめたが、『北に真理あり。“白き巨鯨きょげい”が、さえぎるを払うであろう』と読み解けり」

「みー……“きょげい”? 意味が、というか字が分からない」

「でっかいサカナかな?」


 ミミミとカティンカが呟く。正確には鯨は魚類ではなく哺乳類だが、その程度の事実はほんの些末さまつなことである。


「予言のまことなる意味は、その時を迎えるまでは分からず。曖昧であり、時に明瞭である。それが主の下されし予言や“示し”だ」

「ひとまず、北に向かうのであろう?」

「然り。そういえば、だ」


 代行者はチラリと、ロイヤを見る。


「私がどうかしましたか?」

「主による示しなのだがな。ロイヤよ、汝にえにしあることやもしれん」

「私に……ですか」


 突然であるために、当人ことロイヤは意味が分からない様子だ。

 だが、その疑問に答えるのは言葉ではなく、行動であるのが代行者である。


「では、ヴィグバルトよ。頼むぞ」

「望むままに」


 竜化し、代行者たちを乗せたヴィグバルトは、ゆっくりと空へ舞い上がった。


     ***


「それにしても、見事な猛吹雪なり。備えが無ければ、我らとて危うかったであろう」


 代行者たちがいるエリア5:フロストマキアは、この世界における酷寒の地だ。ヴィグバルトや代行者による備えが無ければ、たちまちのうちに氷の彫像と成り果てる宿命である。


 一行は隠形を発動したまま、フロストマキアにおける山脈“クオルト氷壁”に到達せんとしていた。


「みー……ここも、大きい山」

「絶壁だねー」

「私ならば苦にはならぬでしょうが、人間にとっては命を懸けて踏破するものなのでしょう」


 代行者とヴィグバルトを除く面々が、思い思いに感想を告げる。

 と。


「ヴィグバルトよ」

「何だ?」

「ただちに高度を下げよ」


 突然の代行者からの言葉に、しかしヴィグバルトは異論を一言も唱えず実行する。


 次の瞬間――無数の氷の針が、先ほどまでの代行者たちの進路に重なるように飛来した。


「いるぞ。何やら、敵意ある者が」

「ならば、先駆けに」


 ヴィグバルトは首をぐるりと巡らせ、気配のする方向を一掃するように炎のブレスを吐きだす。

 摂氏1万度にも達する莫大ばくだいな熱量が、隠形を行っていた“別の”竜の正体をあらわにした。


「あら、見つかっちゃったわ。けれど、だからこそ……美味しそう♪」




 自らの姿を暴かれた薄水色の体表をした竜は、嬉しそうな声を響かせたのであった。


---


★解説

 というわけで、次回から「氷針竜フォルテシア」戦です。

 まさかこの変態ftnrふたなりドラゴンを自分自身で操ることになるとは夢にも思わず。


 なお、代行者たちの姿こそ隠れていますが、本エピソード最後のヴィグバルトのブレスによってフォルテシアのステルスが解除されたので、もしかしたらこの戦闘が暴露状態にあるかもしれません。

「でかい水色の竜が何かと戦ってる」という具合に。


 とりあえず……R15の範囲内でどこまで攻められるかww

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