星へ与えられる希望(ユニット:神錘の代行者)

「…………そういう、こと?」


 長い間をおいて、ようやくスミトが会話を再開する。


「あなたたちの言いたいことは、『通じないから、撃つな』……と」

しかり。おそらくは、あの夢を司る竜も同じことを訴えたいのであろう。民たちだけを悪意なく犠牲にしてしまう、悪に備えた星。なるほど、こうして考えれば、実に符合するな」


 スミトの要約を肯定しつつ、メルテの夢を評価する代行者。

 と、今度は代行者が問いを投げる。


「ときに、スミトよ。汝はいかにして、その“星”を作り出したのか」

「……これでも私、そこのヴィグバルト同様にいにしえの戦争を見ているのよ。間近でね」


 代行者たちにはもとより、ヴィグバルトにとっても意外な情報が語られた。


「ミサイルなどの先進兵器が通じず、加護が施された武器だけが通じる。どうも私は、それを“火力不足”と認識したみたいね。あはは、道理で……言ってしまえば“古臭い”兵器ばかりで攻撃していたのね、あの時は」


 自嘲じちょうも込めた、乾いた笑いをしながら呟くスミト。

 ここに来て、自らの過ちを認識したのである。


 と、代行者が口を差し挟む。


「然り。ゆえに、無暗に“星”を使わないでほしいのだ」

「当然でしょ。倒すべき敵エッツェルを倒せず、無意味に民たちの犠牲を生み出す武器なんて。私のしたことなんて、結局無駄だったんだ。あはは、あっはは……」

「待て、それは違――」


 代行者が、自虐的になり始めたスミトを止めんとしたその時。


『違うぞ。無駄ではない。無駄ではないぞ、スミト……否、オリヴィエ・ソミェットよ。汝が民へ抱く思いは真実まことである。ならば、その結晶たる“星”を、偽りのままにしておくわけが無かろう』


 謎の声が、スミトの家全体に響き渡る。……いや、スミトや代行者一行にはそのように聞こえているだけで、実際は指向性を持った――話者にとって聞かせたい者にだけ届くように調整した音声で、語り掛けているのだ。


 男声的な低い、しかし声音から誠実さを感じさせる言葉は、海千山千のスミトですらも耳を傾けるほどに誠実さに満ち満ちていた。


「であれば……私のしたことは、無駄ではないと?」

『然り。私がすぐさま動いて、あるいは“希望”たる青年が連れてくる新たなる真銀竜によりて、星に加護を付せば通じる。だが、その前に二つ、聞いてほしいことがある』


 声はスミトに、“守ってほしいこと”を伝える。


『まずは一つ。私の加護は強力であることを保証するが、今の黒竜王には「通じぬものが、わずかばかり通じうる」というものに過ぎぬと』


 声――謎の機体が伝えるのは、「神格の高さで押し通せはするが、直接竜への特効を持たぬがゆえに加護の意味は限定的になる」というものである。

 力量としては黒竜王と単独で十分に抗し、あるいは勝ちうる謎の機体だが、それでも竜特効を明確に保持していないのは制約の一つであった。


『そして、もう一つ。こちらが肝心だ。スミトよ、汝に確約してほしい。“罪なき民を傷付けぬ”と。少し星の様子を見せてもらったが、今のままでは地獄を生み出す。それではかの黒竜王の思い通りだ。それを解除し、また今後罪なき民たちを巻き添えにせぬと誓ってもらわなくては……我が加護も、あるいは真銀竜が加護を付すまでの導きも、してはやれぬ』


 本来であれば、謎の機体と代行者にとってはのが“星”である。

 しかし、“無辜むこの民たちを傷つける”という点に目をつぶれば―― “星”は黒竜王エッツェルに対する、強力な刃となりうる。そもそも、本来はエッツェルに対抗するためにスミトが設計したのだから、当然だ。


 だからこそ、謎の機体は――“反逆のために築き上げた巨大な一振りのつるぎを、本来向けるべき敵に正しく向け、また正しく切り裂く”ために動いたのである。


『それが私からの“願い”だ。どうか、答えてくれ』

「誓います。元より、あれを築き上げたのはこの星の人々を守るため。元より、あれを築き上げたのはかの黒竜王を打倒するため。間違った道に進む前に止めてくれたことに、感謝します。謎の声……いえ、異世界の神よ」

『良し』


 謎の機体は満足げに、肯定の言葉を返す。

 そして気配が消え去った頃合いを見て、代行者が告げる。


「速やかな履行りこう所望しょもうする」

「もちろんよ。ありがとう、名も知れぬ異世界の使者とその御一行様」

われに名は無し。しかし望むのであれば、我を“神錘しんすいの代行者”と呼ぶが良い」

「そうさせてもらうわね。また会う時があれば」




 満足そうな表情のスミトを見た代行者たちは、そのままスミトの家を後にするのであった。


---


★解説

 ひとまずスミト姉さんの出番は終わりです。今度こそ、終わりです。“ひとまず”だけど。


 それでもって、有原陣営にとっての敗北条件に直結する事件の一つ(セントラルを壊滅せしめる“星”)も解決扱い。誰が何と言おうと解決扱い。このエピソード公開時点で、ね。

 ぶっちゃけ中の人的は「ようやく対処できた……」と安堵の表情を浮かべています。


 ……それはそうと、桜付き。ちょっとやり過ぎたかもしれない。

 設定段階で「今のエッツェルとまともにやり合えるし、何なら勝てる」レベルまでガチ組みしたとはいえ、今回は舞台装置の域をはみ出したかもしれない。

 力のあり過ぎるキャラを扱うのって、つくづく難しいと実感させられる。これでもスミト姉さんや桜付きの言い回しに気を遣ってます(コラボ相手であるスミト姉さんをキャラ的に食い過ぎないように)。

 桜付きを扱った後はいつも、ヒヤヒヤドキドキである。超スペックに反比例して、扱う難易度最上なんじゃないか?


 というわけですので、何かあれば時を巻き戻し書き直します。

 本当に、頼むから、遠慮なくお申し付けください。(示唆とはいえ)ちゃんと予告したものの、いくら何でも(自分で書いててナンだけど)桜付きがチートすぎるので。組んだの自分だけど。


 あと、急きょ予約不能にさせていただいたフォルテシア。

 事情があり今日の更新はなりませんでしたが、次話あたりで出すでしょう。というか出します。位置的にエリア5だから。


 とりあえず、もう少し代行者サイドで書いています。

 ゲルハルトサイドでもやること(本編への描写・反映事項)山積みとはいえ、しばらく放置し過ぎでしたから……。

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