その命、自ら定めよ1(神錘の代行者 vs 霊竜ヴィグバルト)

 ゼルシオスたちフロインデ・ファータ・イクスクロイツ連合が、暴走する戦艦を止める少し前のこと。


「我がしゅが導きし場所は、ここか」

「みー……すごい暗い」


 暗雲に包まれたエリア6“古戦場”、その中でも最高位に危険なエリア6-3:常闇の要塞。

 近づくだけで容赦ない魔法の嵐が吹きすさぶが、転移を繰り返して移動する神錘しんすいの代行者とミミミにとっては無意味に等しいものであった。彼らは歩くこともあるが、主――謎の機体の導きにおいては必ずと言っていいほど、指し示された対象の近くに導かれてもいる。


 というのは、無用な争いをほとんど生まないためだ。代行者の目的は、あくまで定められた者に死を与えること。あるいは、死を与える他に、主に示されたことを為す――ゆえに“代行”者なのだ――。

 概念的に死神である代行者にとっては、物理的な距離や壁などほとんど意味をなさない。


「示されたのは、『魂の解放』か。珍しいことに、死を授けるか否かは定められなかったが……」


 代行者は、カティンカから発せられる無言の、しかしハッキリとした「私を使って」という気配を受け止める。


「みー、魂って縛られるものなの?」


 と、ミミミが質問を口にした。


「その通りだ。魂とは縛られるものでもある。自ら宿る場合もあるがな」


 代行者は瞬く間に、肯定にて返す。


「我が主は後者だ。しかし、我が主とは異なれど、同様の兵器には魂を縛り付けて活力と為すものがある」


 これを口にする代行者が思い浮かべるは、一つ目の蛇を顔に持った人型の兵器。低級なる霊魂を縛り付けしそれは、怨嗟をはじめとした悪意をまとわりつかせている。


「みー……一つ、知った」

「我らが世界にあることわりよ。もっとも、縛り付けるにおいては外法げほうと呼べるがな。……む、ここだ」


 要塞内を少し歩いているうちに、広大な空間が二人の目の前に現れる。

 同時に、死に装束を纏った男が姿を現した。


「何者……ダ」


 装束から覗く瞳は、生気や輝きを完全に喪失していた。見る者が見れば、ひと目でこの世ならざる者と分かるだろう。


「私ノ名ハ……“ヴィグバルト”」


 しかしながら、既にこの世ならざる者であっても、生前の誇りというものは残っていることがある。

 彼は――ヴィグバルトは、自らの名を名乗ることでこれを示した。


 それに対し、代行者もまた礼にて報いる。


「我が名は、神錘の代行者。共に在る者は、名をミミミという。我が主の示しによって、汝が魂を救済しに来た」

「救済……ダト……」

「そうだ。しかし、彼女には……ミミミには手出しをさせない。……ミミミよ、守ってくれるな?」

「みー、もちろん。それに、私じゃたぶん手に負えない」


 代行者がミミミを向いて話しかけると、ミミミはコクリと頷いてから距離を取る。


「これにて遮る者は無し。では、いざ尋常に」

「オオオ……」


 騎士然とし、正々堂々とカティンカを構える代行者を見て、ヴィグバルトには感じ入るものがあったようだ。


「汝ガ私ヲ救済スルト言ウノナラバ……ソノ力、試サセテモラオウ。我ガ全力ヲ、オ見セスル」

「然り。汝に悔い無きようにするがいい」


 代行者の肯定の言葉を聞いた途端、ヴィグバルトの身に変化が訪れる。


「我ガまことノ姿、ソノ両ノ瞳ニ焼キ付ケヨ!」




 わずかな時間も経たずして、ヴィグバルトは――霊なる竜の、真の姿と化したのであった。


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★解説

 敢えて最初から全力モードです。

 代行者相手にはこのレベルでないと、正直……w

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