止めてやるぜ!3(ゲルハルト&ゼルシオス vs 灼熱戦艦 a.k.a. 占領艦『フィラデルフィア号』)

 突入に向けて、ゼルシオスが指示を飛ばす。


「フレイア、お前は上空待機! 可能なら俺のリヒティアを預かっててくれ!」

「了解した!」

「ゲルハルトは俺と来い! パトリツィアはフレイアの背中で待機だ!」

「承知!」

「はーい!」


 役割分担を手早く済ませると、ゼルシオスは機体を空中で制止させる。


「そんじゃ、一番槍ィ!」


 そしてただちに機体から飛び降りると、そのまま開けられた穴に飛び込んだ。


「まったく、相変わらずだな! だがそこがいい! それでこそおれの友だ!」

「ご主人様の破天荒ぶり、見てて気分がスッキリします!」


 ゲルハルトとヒルデも続き、突入を終える。


「あとは任せるぞ! おっと、乗るんだお嬢さん!」

「うん!」


 最後にフレイアが、リヒティアとパトリツィアを回収して突入前の段階は終了した。


     ***


「放射能漏れがあるかもしれねぇな。ヒルデ、重素障壁グラヴィタ・ヴェンデ頼む!」

「はい!」


 重素障壁グラヴィタ・ヴェンデとは、重素グラヴィタによってあらゆる脅威を斥力で弾く防壁だ。その影響は放射能にも通用するため、範囲内の空間は安全な状態となる。


「道のりはこっちだ。楽に行けそうだぜ」


 残すは、止めるだけ。

 周囲の雪を溶かすことでギリギリ人間が突入できる程度の熱に保たれてはいたが、時間切れを起こした瞬間メルトダウンが起きる。そうなれば、即死と言って差し支えなかった。


「道はこっちだ! 急げ!」


 ゼルシオスは直感を最大限に活用し、最短ルートを発見する。

 止め損ねたら、辺り一帯が自分たちもろとも壊滅する――ことはエリア8全体にまで広がっていたのであった。


     ***


「やっぱあったよ、クソ面倒なの!」


 ふらつきながらも、ゼルシオスたちは緊急停止ボタンにたどり着く。

 しかしそれを封じるのが、箱入り娘パズル状の鍵であった。


『こちらドミニア、残り3分!』

「了解! どけ、俺が――」


 ゼルシオスが直感で、素早い解除を試みる。


「待って、ご主人様。私がやる」


 だがそれに異を唱えたのが、ヒルデであった。


「おいおい、知ってんのか? 俺ならすぐ済むぜ」

「いえ、初めて見るパズルですね。けど、解き方は簡単そうです」


 言葉にたがわず、ヒルデがパズルを素早く解き進める。


「マジかよ……」


 自分と同等以上の速度だ。

 これならヒルデだけを突入させても良かった気がするが、もはや後の祭りである。


「解けました!」

「押せ!」


 カバーのロックが解除されると同時に、ヒルデが中の非常停止ボタンを押す。

 一瞬遅れて鈍い音が響き、リアクターが停止を始めた。


「内部の熱が上がらなくなってきたな。まだ干からびねぇうちに退避すっぞ」

「ああ」

「でしたら、壁際でぶち破ってしまいますね!」


 3人リアクターから十分離れる。

 そして窓の見える場所まで来ると、ヒルデが竜形態に姿を変えた。当然、内部装甲はメチャクチャである。


「だいぶ俺に毒されてきたな、ヒルデも」

「しかし、手っ取り早かろう。それにしても、内部は思ったほど熱くなかったな?」

「……ああ。そこが奇妙なとこだ。つーて俺らが無事な以上、原理はどうでもいいんだがな」


 かくして、ゼルシオスたち――否、フロインデ・ファータ・イクスクロイツ連合は、結成後の初仕事である「エリア8の危機攻略フィラデルフィア号無力化」を果たしたのであった。


     ***


 ゼルシオスたちを回収し、ドミニアが一時退避してから数分後。

 快晴を誇るミナレットスカイには珍しく、全域に霧がかかった。


「……かようなものを放置していては、この世界そのものの危機なのでな。我が助力で、熱と放射能が導きし者たちに及ばぬようにした。私が手ずから止めても良かったのだが、これも試練よ」


 声を発し、しかしそれは誰にも聞かれない。

 黒に桜色と金とで飾った色合いを持つ機体は、神錘しんすいの代行者が“しゅ”と仰ぐ存在だ。


 それがさっと手を振ると、フィラデルフィア号が黄金きんの粒子に包まれる。


「静かなる星で、眠りにつけ。もはや動く必要はあるまい」


 次の瞬間、フィラデルフィア号は影も形もなくなったのである。


「これで、憂いは無し。では、今しばらく見守るとしよう」


 謎の機体は“後始末”を済ませると、再び誰にも悟られることなく、上空へと昇っていったのであった。




 そしてフィラデルフィア号は、リアの世界ではないどこか遠くの星で朽ちるその時を、ただひたすらに待つ運命となったのであった……。


---


★感想

 ギミックボス。これは通常勝利と見なす。


 時間制限が厄介な存在。

 強いというか、手順に従わないと失礼な気がした。


 構想ではヴェルリート・グレーセアに宇宙まで押し出させる方針だった。出力的に足りているかどうかはともかく、ギミックを無視していたらこうなったというイフ。ただし押し出す途中で熱暴走していた可能性があるので、どのみち手順に従わなければ勝てなかったと思われる。そういう意味では強敵も強敵。火力や装甲自体はドミニアの足元にすら及ばなかったけど(ぶっちゃけ)。


 そして、地味に桜付き介入案件。熱と放射能の緩和が無ければ、突入失敗待ったなしだった。あと、停止させたとはいえ放置していたら再起動しかねなかったので、リア様の星の外に永久放逐させた。積極戦闘はさせていないから縛りの範囲内です。

 とにかく、そういう意味で紙一重な強敵だった。強さ★5は伊達じゃない。


 なお突入後だが、設定上内部人員がいそうになかったため、船内の脅威はゼロと見なした。もしも少しでも敵兵力がいたら、時間稼ぎを受けて突入ユニットが全滅していたかもしれない。


 “カンパニー”は相も変わらず、迷惑の塊である。

 ツヴァイエフ・イクスクロイツがいなければエリア8は壊滅していただろう。


 ちなみに、ヒルデが箱入り娘を解けたのは、長寿故の頭の良さ。

「意外なキャラの活躍」を活かすため、敢えてゼルシオス君にやらせなかった……という裏設定がある。ぶっちゃけ、「直前の思い付き」だけど。

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