旗印を決めねぇとな

 それからは脱衣所で男女に分かれ、着替えを済ます。

 そして、混浴場前で――ゼルシオスが、立ち話を切り出した。


「ところで、唐突になんだが。俺らの旗印を決めておこう、って思っちまってな」


 意外な提案に、アドレーア含め残り5人が驚く。


「旗印……ですか? ゼルシオス様」

「ああ。このまま“ドミニア部隊”って呼んでもいいんだが、なんかな。それに、俺が前世で遊んでたゲームにゃ、自軍部隊の呼び方を決める……って出来事イベントがあったんだよ」


 その言葉を聞いて、ゲルハルトが頷く。


「確かにな、ゼル。共通の呼び方があれば、味方の士気が上がり、敵におれたちの存在を示せる」

「分かってくれるかゲルハルトぉ! お前も男のアツさが……熱い漢の魂ソウルが宿ってんなぁ!」


 意外な賛同者を得たゼルシオスが、さらに熱を帯びて語り出す。


「出来れば記号とか旗みてぇなもんがありゃいいんだが、とりあえず呼び方だけでも決めておこうと思ってよ。どうだぁ?」

「私は構いません。実用的な側面が、大いにありますから。さて、問題はどう決めるかですが……」


 アドレーアが、ヒルデとシュレーディンガーを見る。


「では、まずは私から案を」

「あいよ」

「『VWUブイダブルユー艦隊』、あらため『フィーヴェ連合艦隊』というのはいかがでしょう?」

「『フィーヴェ連合艦隊』ねぇ……。艦隊っつーほど艦が無いぜ。まぁそれは百歩譲って置いとくにせよ、なんかイマイチ名前がパッとしねぇ。漢の魂ソウルを感じねぇな」

「あら、残念ですわ」

「とはいえ方向性としちゃあ悪かねぇな。つまりは“多種族艦隊”ってこったろ?」


 ゼルシオスの問いかけに、アドレーアがコクリと頷く。


「こんな感じで、いかねぇとな。既に俺らは、ヴェルセア王国じん赫竜エクスフランメ・ドラッヒェ、ベルグリーズの神様夫婦にあとは翼人カナーン、そして概念体っつー存在だ。つまり、種族的になんだよ。だから、“いろんな仲間がいる”ってアピール出来たら最高サイコーなんだよな」

「おっと、であればおれの『DMディーエム-イクスクロイツ』は使えないな」


 と、ゲルハルトが提案を込めて、意見をさし挟んできた。


「『DM-イクスクロイツ』ってのは、『ドラゴミッシュ=イクスクロイツ』、“竜と共に在る”ということだ。少しばかりこの世界を見聞きしたのだが、元々は竜の世界だったようだからな」

「……残念だが、その通りだぜゲルハルト。採用は出来ねぇ。ただ、その『イクスクロイツ』ってのは漢の魂ソウルに響くぜ。ここだけ採用する方向で考えるかな」

「ゼル、おれ漢の魂ソウルを持っている……というのか?」

「ったりめーよ! むしろ漢の魂ソウルを持っているからこそ、こうして友達ダチになれたんじゃねーのか!?」


 ゼルシオスが、燃えるような光を灯した瞳でゲルハルトを見つめる。

 ややあって。


「だな!」

「だろう!? そんじゃ、どんどんアイディア出してくれや! あー、あとな、『イクスクロイツ』無くてもいいぜぇ! 漢の魂ソウルに響いたら採用してやる!」


 こうして、旗印――一行の名称決めは、白熱したのである。


     ***


「ダメだ……あと一歩、いいのがねぇや」


 あれからゼルシオスたちは、次々と意見を出して激論を交わした。

 具体的には、「エル=アイン部隊(正式名称は“リヒティゲ・アイントラハト部隊”)」、「ピースメーカー・クロス」、「ピースオーダー・ツヴァイクロス」、「シュヴァルツ・エクスクロイツ」のような候補が出てきたのである。


 しかしどれも、ゼルシオスとゲルハルトの漢の魂ソウルに響かなかった。

 喋りすぎて喉が渇いた一行は、食堂に移動していたのである。


「おっ、ご主人様じゃーん」

「揃ってどうしたのかしら?」


 と、ここでメイド服をバッチリ着こなしたハルカナッソス――ハルカとエヴレナが合流する。


「あぁ、俺たちの名前を決めてたら喉渇いちまって。どれもあと一歩なんだよなぁ……」


 本当に、本当に惜しいところまで来ている。しかしそれを表す言葉は無い。

 ゼルシオスたちにとっては、それがもどかしいものであった。


「どんな名前なんだ?」


 ハルカが尋ねると、ゼルシオスが答える。


「種族のちゃんぽんって感じでさぁ……。『一緒にいよう』って雰囲気がある感じにしてぇんだよなぁ」


 その言葉を聞いて、エヴレナがある単語を呟く。




「だったら。“フロインデFreunde”、なんてどうかしら?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る