『黒竜王』の影(ユニット:ゼルシオス、ゲルハルト)
「最大級に厄介な存在? なんなんだよそりゃ」
重くなってきた調子をリセットする狙いで、ゼルシオスは敢えて再び話の腰を折る。
「時に、そこのドラゴンのお嬢さん」
「私?」
ヒルデが突然指名され、驚きの表情を見せる。
「“
「な、ないです。初めて聞きました」
あたふたするヒルデがゼルシオスを見る。
しかし、ゼルシオスも同様で、首を振った。
「
「王族ゆえに多くの情報に触れられる私であっても、初耳です」
ヒルデ、ゼルシオス、アドレーアのヴェルセア王国組は、揃いも揃って知らない様子だ。
「分かったにゃ。そっちの二人はどうかにゃ?」
「
「そーゆーわけでー、ボクらもお手上げ」
ゲルハルトとパトリツィアのベルグリーズ王国も、まったく同じである。
「となると、イチからキッチリ話すにゃ。――その名は、エッツェル」
エッツェルという明確な敵の正体を知り、混浴場に衝撃が走る。
「とりあえず、ざっくりと“極めて大きく、極めて強い竜”だと思ってくれればいいにゃ。あと、竜族に強い思い入れがあるみたいだから、竜族を見るやいなや勧誘しにかかるにゃ。とはいえ、今の
「大丈夫? 私が、ですか?」
首をかしげて困惑するヒルデ。
しかし、ゼルシオスは思い当たることが一つだけあった。
「おまじないかよ。
「たぶんそれにゃ。今の君たちからは、奴の嫌う加護がかかってるにゃ。というか、この……何だっけ?」
「ドミニア、な」
「そうそう、ドミニアにゃ。全体にかかっているから、この中にいる限りは安全……とは言い切れないけど、比較的持ちこたえられるにゃ。でも、過信は禁物にゃ」
「そんなに
「エッツェルにゃ。少なくともただの人間が勝てるものだとは思わない方がいいにゃ」
調子に乗ったそぶりを見せたゼルシオスに、しっかりと釘を刺すシュレーディンガー。
「あ、そうそう。普段は人間の姿をしてるにゃ。けど、遠目からでも分かるくらい、凄まじい
「冗談じゃねぇな」
「本当に冗談じゃないにゃ。ただでさえ……概念体のわたしでさえここまで恐れるほどに強いのに、そのうえさらに絶望そのものたるピトスを取り込んだのにゃ。惑星を通り越して世界がいくつ滅亡するか、考えたくもないにゃ……」
ゼルシオスやゲルハルトたちに突きつけられる、圧倒的な脅威。
それはもはや、いっときとはいえ平和である今を忘れさせるほどの圧があった。
「とりあえず、わたしが知ってるのはここまでにゃ。あとのことはどうするか、任せるにゃ」
「……ほっとけねぇなぁ。ほっとけねぇ」
「同感だ。事実であるならば、引いてはならない。
即答で返したのはゼルシオス、そしてゲルハルトであった。
「クソ
「その通りだ。助力を乞われてやって来たのだ、脅威があるならば排除しなくては」
顔を上げ前を見据える二人の瞳には、炎のように強く光のように鋭い眼光が宿っていた。
「であれば、私はゼルシオス様にお付き合いしましょう。元より、正妻としてそれを求めておりますので」
「私も、ご主人様とならどこまでも、だよ!」
ゼルシオスの意思に呼応するは、アドレーアとヒルデであり。
「さっすが、ボクが惚れた男だねー! ゲルハルトー、全力でお手伝いしちゃうよー」
「相変わらずだな……とはいえ今回はそういう気持ちに救われそうだ。頼むぞ、パトリツィア」
『私もお忘れなく。しばし口を挟む余裕もありませんでしたが、貴方により強い加護を授けようかと思っております』
「
ゲルハルトの闘志を支えるべくして寄り添うのは、パトリツィアと
そんなゼルシオスとゲルハルトを見て、シュレーディンガーは。
「はぁ~~~……。人間って、こんなにも強く、前向きになれるのにゃ~~~。あと、二人とも顔も
のぼせ気味なのも相まって、マタタビを嗅いだ猫のようになっていたのであった。
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