………………誰だ、こいつ?(ゼルシオス vs〝量子〟の概念体【Schrödinger's】)

「あー、クッソ疲れた。割とかなり本気出しちまったぜ」


 あの後、集まりをいったん解散させたゼルシオスは、自身の部屋に戻っていた。


「緊張して変な汗かいちまったぜ。風呂に……ん?」


 自分用のバスタオルを調達するためにクローゼットを開けようとしたその瞬間、ゼルシオスの目に変なものが入る。


「………………誰だ、こいつ?」


 変なもの――猫耳を付けたオレンジ色の髪の少女が、ゼルシオスのベッドで丸まるように眠っていたのである。


「しかもこいつ、前世でいうセーラー服着てるんだよなぁ」


 聞こえよがしに独り言を呟くが、まるで起きる気配が無い。


「……はぁ」


 しょうがねぇ、と思ったゼルシオスは、ベッドに座り込んで少女のほっぺたをツンツンと突いた。


「おい。起きろ。起きろってんだよ」

「……んん、にゃあ」


 よほど深く眠っているのか、わずかに反応を見せるだけで起きる気配は相変わらず乏しい。

 ゼルシオスは業を煮やし、自身の方へ向いている右の耳に息を吹きかけた。


「ふーっ」

「わひゃっ!?」


 飛び起きる少女を間一髪でかわすと、ゼルシオスは「おはよう。不法侵入者め」と呟く。


「どうやって入ってきた……のかはまぁいい。とりあえず、てめぇの名前を教えやがれ、この猫耳娘」

「うぅ、びっくりしたにゃあ……! こほ、こほん。猫のわたしが失敬、失敬」


 少女はベッドから離れるように立つと、ゼルシオスに向き直る。


「やあやあ我こそは量子の概念体、名前は……」

「名前は?」


 肝心の名前を聞き出すタイミングで、少女が黙りこくる。

 ゼルシオスがせっつくようにほっぺたを突っつくと、少女は無言で左手をゼルシオスの手に当てた。「やめなさい」の意思表示である。


 次の瞬間、少女にしては恐ろしく低い声が響いた。


「……名前はSchrödinger'sシュレーディンガー。とはいえ、好きに呼ぶといいにゃ」

「へいへい、ネコミミ」


 全然名前とカブっていない呼び方である。


「ま、それでもいいにゃ。ところで」


 少女――シュレーディンガーは、ゼルシオスの前に立つと、自らの体を大の字に広げた。


「君はわたしを――どうするのかにゃ?」


 試すように、挑発的な笑みを浮かべるシュレーディンガー。

 ゼルシオスはわざとらしく頬をぼりぼり掻いたあと、ニカリと白い歯を見せた笑みを浮かべながらつぶやいた。


ひん剥く脱がすか?」

「わわっ! ちょ、ちょっと待つにゃ! そういう意味で言ったんじゃないにゃ!」


 概念体とはいえ、シュレーディンガーは仮にも少女の姿を持つ存在である。

 ゼルシオスが告げた言葉に危機感を――主に性的に――抱いた彼女は、慌てて止めた。


「じゃーどういう意味なんだよ、コラ」

「まったくもう……君って、変態なのかにゃ?」

「自覚はあるな」

「あるのかよ……」


 あきれながらも、シュレーディンガーはゼルシオスの質問に答える。


「はぁ、まあいいにゃ。君はわたしを、殺すのかどうか……にゃ」

「あー、そういうことかい。殺さねぇよ」

「え?」


 まるで自身の能力を一瞬で見透かしてきたかのような回答を受け、シュレーディンガーはポカンと口を開ける。


「だからぁ、殺さねぇっつってんだろ。それに、殺したらなんかまずいこと起きそうだしよ。まったく、そんなにてめぇの体をどうこうしてほしけりゃ……」


 呆然とするシュレーディンガーをよそに、ゼルシオスは上着を脱ぎだして上半身裸になる。


「な、なんで脱いでるにゃ! やっぱりわたしを……」

「なんもしねぇよ。連戦でむわむわしてきたから、風呂入る準備してるだけだ」

「普通風呂の前で脱ぐでしょ!?」

「汗でベトベトしてんだよ。着心地わりぃんだ。着てみっか? ほれ」

「押し付けるにゃ! そんな男くさい服――って、ちょっと待てにゃ」


 シュレーディンガーが、ゼルシオスの上半身をまじまじと見だした。

 予想外の行動に、ゼルシオスが立ち止まる。


「どうしたんだよ? やっぱ着るのか?」

「着ないにゃ! ……けど、君ってよく見たらイケメンだし、けっこうイイ身体カラダしてるにゃ」

「惚れちまったか?」

「惚れてないにゃ! ああもう、君といると調子狂うにゃ……」


 自らを敵の前にさらけ出し、殺させるというシュレーディンガーの主戦法は完全に封殺されてしまっている。そもそもゼルシオスに殺す気が無かった。


「まいった、まいった、まいりましたにゃ。わたしの負けですにゃ。不確定を司るわたしでも、君の深淵は見えそうにないですにゃ」

「よく分かんねぇけど、まぁいいや。負けを認めた以上、とりあえず俺のメイドな」

「……はぁい」


 “とりあえず”でハーレムメンバーを増やすあたり、ゼルシオスは相変わらずフリーダム極まりないのである。


「……で。てめぇ、なんか面白そうな情報持ってそうだなぁ?」


 と、ゼルシオスが直感で、シュレーディンガーを問い詰めた。彼は「面白い」ということに対しては、宝石を前にした猫のごとく目が変わるのである。


「……ふぅん。ちゃんと、聞いてくれるのかにゃあ?」


 シュレーディンガーも、喜んで答える意思をむき出しにし。


「俺と混浴に付き合え。まぁ、水着は探しといてやっからよ」

「……うにゃあ」




 最低限の配慮を示しつつも有無を言わせないゼルシオスの言葉に、シュレーディンガーはうなだれることになったのであった。


---


★感想

 有原陣営4人目の、特殊勝利の対象者。


 いろいろな意味で敵。なので「戦わずして、シュレーディンガーに興味を抱かせられる存在」であるゼルシオス君の部屋に出現させた。恨むなら恨みなさい。


 彼女の特性である「確率と選択(あるいは可能性)」を拡大解釈して、「どこにでもいて、どこにでもいない(ただしリア様の世界のエリア0~8に限る)」という条件に設定した。これはもう少し簡単にすると「どこにでも出てくる」というものであるため、空中であるドミニアに出現する運びとなった。

「流石に空のど真ん中には出しません」と予約時に書いたが、これは「足場も何もなく、常人ならただ落下して死ぬだけとなるような場所」には出さないという意味(ついでに火山のような、煮えたぎったマグマのど真ん中も該当する)。有原は意外と詭弁きべんを弄します。だってドミニア、足場あるし……ねぇ?


 ゼルシオス君のやったことは、ぶっちゃけセクハラ行為の嵐。最悪改稿やり直しものである。

 しかしこれでも初期案に比べればいちおう自重させている。初期案ともなれば「目の前でズボンの金具をカチャカチャいじる(なお、あくまでもいじるだけ)」という、本編よりアレな展開になっていた。これ、R-15ですから、それを超える真似は出来ませんからね。あと、直接的な手出しはさせていないので、そういう意味でも自重させている。合意が無いと乗らないんですよ、うちの子ゼルシオス君は……。

 とりあえず、彼の部屋に出現したシュレーディンガーは泣いてもいい。本当に。本編では口癖も忘れたマジなツッコミを入れたくなるくらいに、ゼルシオス君はいろいろとんがってます。


 ちなみに「メイドになれ」としてゼルシオス君が主となるようにしているが、これはゼルシオス君に管理させるための便利な言葉なのである。とはいえ、シュレーディンガーもゼルシオス君については興味津々なので、彼の気分を害する真似はもうしないだろう。

 最近の戦闘を考えると、ちょっとゼルシオス君が過労気味かもしれない。便利すぎるから。たまには正面きっての火力勝負でゲルハルトを駆り出してもいいかもしれない。イイ感じの敵があんまり見つからないが。


 次話は素直に混浴にする。これは箸休め的な意味もあるし、シュレーディンガーを傷つけず仲間にした目的を果たすためでもある。あ、ちゃんと彼女シュレーディンガーには水着を着用させます。ビキニだけど。


 あと、有原が責任を持って、彼女はエピローグまで生存させます。

 ゼルシオス君のメイドにされるというのはそういうことである。ラスボスへの自爆特攻兵器になんて、させませんからね。


 ……とりあえず、次話の混浴メンバーを誰にしよう。

 ゼルシオス君とシュレーディンガーは確定として……ううむ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る