この人騒がせどもが!3(ゼルシオス vs 輝く翼のハルカナッソス)
視点はハルカナッソス――ハルカに移る。
「5秒もありゃあ余裕余裕! このハルカちゃんのスピード、舐めんな――ん?」
カウントが0になり、「アネゴ逃げてー!」という声が聞こえた次の瞬間。
「うおっ!? ちょ待て待て待て待て、なんじゃあの速さ!?」
空中静止状態からほぼ一瞬でマッハを超越したヴェルリート・グレーセアが、舐めプのつもりで速度をそこまで出していないハルカに迫る。
『逃がすかオラァ! そこだぁ!』
「うわわわわっ!?」
ヴェルリート・グレーセアが伸ばした
地球の戦闘機やギガンテア相手ならばこれで一方的に翻弄出来ていたが、超次元的な直感を持つゼルシオスに対しては「一瞬猶予が伸びた」程度の効果でしか無かった。
『おいおい、今のをかわすかよ。だがそれでこそだハルカァ! 次は捕まえてやんぜぇ!』
「ちょ、ここじゃ無理、無理!」
障害物が何もない空中では、速度で劣るハルカが不利なのは火を見るよりも明らかだ。
これでは60秒どころか10秒も経たずに捕まる、そう思ったハルカは逃げつつ場所を変える。
『付き合ってやんぜぇ!』
舐めプのつもりが、逆に自らが舐めプされている状態だ。
すぐに捕まえられるはずなのに、ヴェルリート・グレーセア――ゼルシオスは何もしてこず、律儀に山脈に入るのを待っていたのである。
「後で吠えヅラかくんじゃねぇぞ!」
ハルカは自身を鼓舞するのも含めて、ゼルシオスにタンカを切る。
だが、山脈に突入した途端、自身を上回る機動力を持つヴェルリート・グレーセアが本気を出してきた。
繰り出される
「……ヒッ!」
下手な避け方すれば、自身の翼をちぎられかねない勢いだ。
しかしヴェルリート・グレーセアに手加減は無い。正確には、ハルカを握りつぶさないように出力を弱めてはいるが――捕まえる勢いに関しては、抑えるつもりがハルカにはさらさら感じられなかった。
「アネゴ、あと30秒だぜ!」
と、近くまで飛んできた手下の声が響く。
妙に時間把握能力に正確な彼女が、残り時間を教えてきたのだ。
『あと半分か。じゃあ、本気出すかな!』
その言葉を聞いて、ハルカの額に脂汗がにじむ。
「あれでまだ本気じゃなかったってのかよ!」
『ったりめーだ!
ゼルシオスの心底から楽しそうな言葉を受けて、ハルカは――口元に笑みが浮かんだ。
「じゃあ、アタシもそれにこたえねぇとな!」
ハルカは自身への負担を承知で、今まで以上の空戦機動を見せる。動きの鋭さは翼端で鋼を切れると思わせるほどに増し、ヴェルリート・グレーセアから迫る確保の手を紙一重――もとい羽一枚でかわし続ける。
だがヴェルリート・グレーセアも、動きをジャブのような細かなものに変えだした。威力は求めず、しかし速さを求める新たな動きは、ハルカの集中力を急激にそぎだす。
「くっ、このアタシが振りきれない――」
さらにゼルシオスは、わざと大振りに
「あっぶねぇ!」
まんまとその誘いに乗ったハルカは、背後から迫る手に気づかず――
『ほら、捕まえた』
「しまっ!?」
あっさりと、ヴェルリート・グレーセアの
『ゼルシオス様、そこまでです』
「あぁー、アネゴぉ~!」
アドレーア、そして時間間隔に優れた手下が時間切れを伝えたのは、そのわずか1.1秒後であった。
***
「つーワケで、てめぇら全員今日から俺のメイドな」
ゼルシオス、フレイア、ヒルデの誘導でドミニアの甲板に降りたハルカたちは、渋い表情を浮かべていた。
自由気ままに暮らしていたと思ったらいきなり手下扱いである。
「ハッ、負けちまったからにゃあしゃあねぇや」
とはいえ、ハルカは満足そうだ……が。
「アタシらはアンタのメイド、ってワケだ。それには従うよ。だがな!」
ハルカはエシュロンを置くと、尻から卵状の物体をひり出す。
ゼルシオスは止めずに、ただ黙ってそれを見ていた。
「この悔しさは、どこにぶつけりゃあいいん……だっ!」
ハルカが遠くの空に卵を捨てようとした瞬間、ゼルシオスは既に動いていた。
両の腰にさげた刀で、卵を素早く切り刻む。
「そんなクソを捨てんじゃねぇっつの。不法投棄だろうが。あー、ばっちぃし、それにくせぇ。めっちゃくせぇ。あとで洗ったもんを渡してもらうとして、とりあえず替えてもらうか、これ」
何の
そんな彼を見て、ハルカは。
(やっぱこんな男……いや、この人には勝てねぇわ。いろんな意味で)
内心でもまた、敗北を認めたのであった。
---
★感想
有原陣営3人目の、特殊勝利の対象者。手下は数に含めません。
変わった意味で難易度が高い敵。「どうやって殺さないように勝つか」を入念に考える羽目になった。ただし、たぶん本来想定されていた意味での難易度の高さではないと思う。おちょくり要素が消し飛んだから。
ぶっちゃけた話、当初は「手も足も出させず、手下ごと皆殺し」の方針であった。ヴェルリート・グレーセアや二頭の
しかし南木様の、応援コメントへの返信をいただいた際、「
罵詈雑言の応酬をイメージして、ゼルシオス君の対戦相手に選んだ意味ではそこまで間違っていなかった。
ただし、当初の想定よりもかなり意気投合した。たぶん、根底では「自由」という側面にて共通の価値観があるからかもしれない。
で、本題である戦闘――もとい「鬼ごっこ」だが、これが有原で考えうる最良の「殺さないで勝つ」方法。
勝ち方においては大筋で求める通りだったが、本編で書こうか迷ってやっぱりボツにした構想をここで書いておく。
「捕まる直前、ヴェルリート・グレーセア目掛けて卵を投げつけて一矢報いる――はずが、二本の指で掴まれて自分の尻に“お返し(そのまま戻すのではなく、割れる。割れるということは、ハルカちゃんのお尻がヒドいことに……w)”をされる」というものだったのだが、正直「そんなことしてる余裕も何もなくね?」との判断によってあえなくお蔵入りとなった。
これが実現されていた場合、ハルカちゃんの初仕事が「大急ぎで風呂に入る」だっただろう。「てめぇがさんざんっぱらぶつけてきた屈辱を、てめぇで味わえ」……だったのだが、描写上のリアリティには勝てなかったよ、うん。とりあえず、屈辱というのはハルカちゃんの想定外の方法(パッと思いつく「
とりあえず、ハルカちゃんと妙に時間間隔(いわば“体内ストップウォッチ”)に優れた手下含め30人が合流したので、頭数の問題がだいぶ解決したと思われる。しかも全員翼人だから、高度を取っての火力支援も可能。
ただしハルカちゃん除き武装が貧弱なので(高高度から落とすことを想定しているため、同程度の高度に迫られると威力不足が露呈する。特に有原陣営のロボが相手になると、高度補正が無ければまず太刀打ち不可能なレベル)、その点はどうにかして解決する必要がある。まぁ有原製のうってつけなエネミーがいるんですけどね。あと、最序盤に撃破したオルクス君とハルカちゃんは仲がそれなりに良好だったので、そういえばどうにかする手段がだいぶ揃ってるんだった。
ちなみにゼルシオス君は原作中でハーレムを公言しているため、“そういう意味”でもかなり頭数が増えた。……彼はいろんな意味で大丈夫なのだろうか。
ハルカちゃんたちの本領は味方になってから発揮されると思う。
屈辱的な意味はともかく、卵爆弾は「実体を持つステルス相手」にはペイント弾のごとく作用するだろうし、そもそも素で飛べるので高高度からドミニアと一緒に火力支援……というのもすぐに考え付く。
ステルスの相手がいるかどうかは不明だけど(最低限、暗い系統の肌を持つ敵にぶつけて、攻撃位置誘導には使えるかも?)。
ひとつ間違いなく言えるのは、今後はドミニアがにぎやかなことになると思います。
あ、最後に「他ユニットで相手をした場合」ですが……うん、やっぱやめた。正直どのユニット(ゲルハルト、代行者、桜付き)でもあっけなく勝てるから、やる意味が無い。どの程度クソまみれになるかはユニット次第だけど。
というわけで、ハルカちゃんたち御一行様は有原陣営が責任を持って預かります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます