黒き機神の介入(??? vs 姫神降臨 a.k.a. キティ・チャトラー)

 女神リアの世界の一角いっかく

 謎の機体は、自らが導いた転移者せんし達の戦いぶりを見ていた。


「上々だな。順調に、脅威という脅威を削り始めている。我らにすら届きうる異質たる存在をかえし、摩天楼の悪魔を討ち――そして私のしもべは、同族を導き、正しき在り方を示しつつある」


 討伐や懐柔した実績の数としてはまだ突き出たものではないが、倒した存在の脅威度――導いた者ではなくリアにとっての脅威度は、数と比しては既にして相当以上のものである。


「どれ、わずかなれどえにしを感じられる者たちを見るかな」


 謎の機体は、自らの意思に同調する者、ないし好奇心を湧き起こしにかかった者たちの情勢を垣間見る。

 老いてなお力と威厳を衰えさせることの無き老人の一行は、着実にリアを助けており。

 人懐っこい霊と共にある少年は竜種の乙女と共に、今は自らが導きし者たちが預かる竜の少女を探さんがために歩みを進め。

 謎の男は巧みな話術を駆使し、自らの利益を求めんと独自の戦い方を行っている。


「ふむ、善哉ぜんざい善哉。いずれも良き戦いぶりよ。では私は、引き続き……ん?」


 と、異様な気配を察知した謎の機体はその発生源を見る。


「……乙女か。しかし、数多あまたの人に率いられているな。とはいえ見たところ、どうやら困った様子。さて、あまり手を出して乱しすぎてはいけないが、こればかりは私が出るにふさわしいだろうな」


 謎の機体は右手を広げると、黄金きんの粒子をまとわせた。


     ***


「皆様、私はこの世界の女神ではありません。本来この地を治められる女神様は、他にいらっしゃるのです」


 澄んだソプラノの声で、自身を取り巻く群衆に語り掛ける女性、キティ・チャトラー。

 その美しさはもはやこの世の人間とは思えぬほどであり、ただいるだけで男はおろか女さえも惹きつけるものであった。


「否! 我らの、そしてこの世界の女神様は、貴女をおいて他にありません!」

「「その通りです!!」」


 信者たる一人の男が叫ぶと、他の者たちも唱和して叫ぶ。

 心優しき女神キティは、しかし困ったような表情を浮かべていた。


「どうしましょう……これでは、私が本来の女神様と勘違いされたままになってしまいます。……あら?」


 と、キティは自身に降りかかるようにふるまう、黄金きんの粒子を見つける。


「これは……どういうことでしょう? しかも、私にだけではなく……」


 そう呟いた次の瞬間、キティを含め全員の姿がどこかへと転移した。


     ***


「ここは? この世界の空、のようですが……」


 キティはどこかのエリアの空に、ふわふわと漂っていた。


「呼びつけて済まないな。しかし、少しばかり話をしたい」


 そこに姿を現す――とはいえキティのみがその姿を見ることが叶っている――のは、黒に桜色と金で飾り付けた全高25mの謎の機体だ。


「あなたは……機械の神ですか。それも、私より格の高い……」

「然り。汝が困る姿を見過ごせず、そしてそれを放置するは私がここに来た目的にもそぐわぬゆえである」

「あら、もしかして本来の女神であるリア様のために?」

「ひと声交わすだけでそれを見抜くは、女神にふさわしきなり」


 謎の機体は、キティに転移させた人々の姿を見せる。


「あっ、その方々は――」

「案ずるな。害するつもりはない。今は猫の幻覚を見せて、不安がらぬようにしてある」

「猫! 猫ですか!? 私にも――」

「落ち着け。汝には、猫多き世界を示そうと思ったのだ。この地の女神、そして汝という女神のために、な」


 言いながら、謎の機体は新たなる世界をキティに見せる。


「猫が多くいる、人の住まうことができる星だ。今は人がおらぬが、治める神もいない。そこで、汝は汝が集めり者たちを従え、この星の開拓を頼みたいのだ」

「それは賛成です! 私は猫が好きですから……! ところで、私や私たちが猫が好きなことを、どうしてご存知なのですか?」


 キティにとっては奇妙なことであるが、謎の機体はキティが自己紹介をしていないにも関わらず、キティが病的――いや狂的な猫好きであることを知っていたのである。


「汝の御霊みたまに宿りしものを読み解いたがゆえ。無粋な真似であることは詫びよう」

「いえ、むしろ話が早くて助かります! それで、あの方々は――」

「汝に任せるとしよう。汝であれば、あの数とて一時いっときに移せるだろうからな」

「では、早速そうします! あっ、でも私は、まだ送りたい人がいるので……」

「それは黙認するとも。ああ、だがな、少しばかり“かぎり”を付けるとしようか」


 謎の機体がキティの頭上で、スッと右手のひらを広げる。

 次の瞬間、黄金きんの粒子がキティを包むようにして輝いた。


「今のは……?」

「我が導きし者に迷惑はかけられぬ、ということだ。だが、それ以外の者であればいくらでも連れていくが良い。ただ、できればこの世界に不安を抱えている者を優先してもらえると、私としてはありがたいのだが……」

「はい。従いましょう」

「助かるな。では、元の場所に戻るが良い」




 かくしてキティは、謎の機体から解放されたのであった。


---


★感想

 有原陣営2人目の、特殊勝利の対象者。


 ラスボス。能力だけで言えば正しくラスボス。桜付き出動案件。「ラスボスにはラスボスぶつけんだよ!」である。


 今回やったことは、乱暴に言えば「このリア様の世界からの排除」である。もう少し穏当に言えば、「もっといい条件の世界あげるから、リア様の邪魔にならないように振る舞ってね」とも言える。


 桜付きの神格が「(キティに)勝てる」と判断したからこその強行。やってることは「高い神格を、さらに上の神格で押さえつけて従わせる」も同然。

 だが、ぶっちゃけこれをどこまで受け入れていただけるかはかなり不安。でも有原陣営的には、ロールプレイ的にこれが最優・最上等の勝利方法だったりする。


 他の有原陣営ユニットだと、ぶっちゃけ勝てない。いや、ユニットによっては「勝てたけどその後の悪影響がひどいので、勝ったのに勝ってないような状態に陥る」と言わざるを得ない。


 以下に各ユニットの顛末予想を書くとする。

 まずゼルシオス君だと、あっという間に精神汚染されるので勝負にすらならない。そもそもゼルシオス君が逃げる。

 次にゲルハルトとパトリツィアだと、「抵抗できてもどこまでいけるか」と不安要素と不確定要素たらたらなのでやはり安心して任せられない。

 チート枠たる神錘の代行者だと、実は「単にキティを討伐するだけ」なら勝てる。精神汚染はSGエネルギーで無効化し続ければ対策可能だし、逆にキティにSGエネルギーをメタる要素が見受けられないので、キティ単体を排除するだけなら事足りる。前提となる「死すべき運命さだめ」も、(有原、作中では桜付きの都合で)どうにでも動かせる。最悪殺さなくても、暴力的にこの世界から排除すればいいだけだから。

 ただしこの方法で勝った場合、「キティを排除した後」が大問題。キティの信者たちを激怒させて蜂の巣をつついたような騒ぎになるのは待ったなしだし(代行者自体はテレポートで難を逃れられるだろうが)、その結果としてリア様の世界に悪影響が及んではキティを排除した意味が無いどころか逆効果。というか信者の入れ込みようからしたら悪影響が間違いなく及ぶだろう。

 ハッキリ言って、こうなると「戦術的勝利しあいにかっても戦略的敗北しょうぶにまけた」である。


 以上の結果として、有原はやむを得ず禁止カードである桜付きを出さざるを得ない状態に追い込まれた。こうなってしまっては、もはや禁止カードとか何とか言ってられない。読者の心証が悪化しようが何だろうが、物語的に「そんなこと言ってられない」状態である。いちおう自分自身への縛りは守ってあるが。

 あと、心証と言えば、読者における有原陣営の振る舞い。構想しているストーリー上の特性もあるのだが、「読者視点」かつ「作中の一般市民視点」の両方が、有原陣営に好意的な状態を保ったままで決着してもらわなければ冗談も誇張も抜きでストーリーが破綻する。それを考慮した上での、桜付き投入の判断である。


 なお、本編中で桜付きがキティにSGエネルギーを付与したが、あれは単刀直入に言うと「有原陣営に対して精神汚染の効果を無効化する」である。

 対象は「現時点でリア様の世界に存在する有原陣営ユニット」、「有原陣営の増援(投入予定)」、そして「現時点か将来的かを問わず、有原陣営の軍門にくだる元・敵ユニット(現時点ではミミミちゃんが該当。キティは能力者自身のため対象外)」の3種別である。

 この汚染効果を引き継がれてはストーリー的にさらなる縛りを迫られるので、有原の強権で対策させてもらった。これ以上縛りが増えたら脳みそオーバーヒートしちまいます……。


 なお、作中のモブや、有原陣営に属さない味方陣営は普通に汚染効果を受けるので、参加者各位はかち合わないように留意されたし(当然、有原がうっかりかち合わせてもいけない)。やりすぎるとそこいらのモブにすら通用しなくなる(信者に出来なくなる)からこその、「有原陣営のみの無効化」が現状の最大の妥協案なのだ。

 特にエリア0-2:セントラル地下は、キティの出現警告がなされている。前話のアレだよ、アレ。


 ……ここまでの書き方で大方予想していただけるだろうが、猫大好き女神ことキティは、有原陣営に組み込んで運用させていただく。

 特に自キャラや味方化キャラとは、積極的に絡ませたいので。猫的に。


 とりあえず、桜付きを投入する際の正しい方法の一例としては、どうにか示せた。

 なお、有原がさんざんっぱら書いた“特殊勝利”だが、これは以下の条件を両方とも守るものである。


1:「味方ユニット、また戦闘対象となる敵ユニットが生存している」

2:「戦闘後、敵ユニットが中立ないし味方化する」


 この2つに当てはめれば、ミミミちゃんもキティも、きちんと特殊勝利したと言えるだろう。


 ものすごく乱暴な勝ち方となりましたが、どうか、どうかご容赦頂ければ幸いです。

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