汝、今は死すべきに非ず。されど(ユニット:神錘の代行者)

「これで99人目」


 貧民窟においては、ミミミの予想以上に“死すべき者”がいた。もっとも代行者にとっては、示された通りであり何ら驚く要素は無かったが。


「汝が定められし、死を授けるべき魂は次で至る、か」

「みー……うん」


 二人が、次に定められし者へ向かうその最中さなか


「良くない。良くないのう。甘美なる不幸を奪うとは」


 よく通った、しかし邪悪さのある声が響く。


「……ミミミよ。我が主の元にて、僅かなれど休むが良い。今から起こることは、汝には手に負えぬ」

「みー……それって」


 ミミミが言い終わるのを待たず、代行者はミミミをある場所へと転移させた。

 次の瞬間――声の主が、姿を見せる。


「連れを逃がすとは。判断が速いのは良いことだのう」

幼子おさなごの姿をしておれど、汝の悪意は隠せまい」

「言うのう。もっとも、ワシから見ても、おぬしの死の気配は隠せておらんが。あのような隠形おんぎょう、ワシからすれば児戯じぎじゃよ。しかし……それにしても、お主、まるで味のせぬ者じゃのう」


 子供らしい見た目をし、貧民に紛れるようなボロの服を身につけ――しかし隠しきれぬ悪意の持ち主。


「我が名はハイネ。人は、ワシを――悪竜王ハイネ、と呼ぶ」


 余裕を崩さずお辞儀をするハイネを見て、代行者はむしろ構える。


「そう構えずとも良い。ワシは話がしたいだけじゃ」

「汝に従うことは望まず。汝とは相反す」

「であれば、ワシに楯突きたいのかのう?」

「否である。しかし、神錘しんすい如何いかに指し示すか」


 構えを解かぬまま、代行者は神錘を右手で取り出して垂らす。


「ほう。これは珍しいものを見られそうじゃ」


 ハイネは対称的に、余裕を崩さず代行者の様子を見つめる。そこに攻撃の気配は一切無い。


「我はが眼前の者が、死すべき者かを問う。神錘よ、示したまえ」


 代行者は力むことなく、しかしわずかな刺激でただちに臨戦態勢を取れる引き絞った弓のような状態を保ちながら、神錘に問う。


 果たして――神錘は反時計回りに回り、赤く輝いた。


「汝、今は死すべき時に非ず。されど、汝に区切りが迫れり。覚悟を決めるは今なり」

「なるほど、なるほどのう。おぬし以外にも、ワシを狙う者がいると?」

運命さだめにては、しかり」


 代行者は一歩、二歩と足を下げる。


「おや、茶は良いのか? 招かれざるといえども、客人であろうに」

「我は求めず。そして、我が使命は果たしていく。恨むことなかれ」

「かかっ、結局ワシの蜜は奪われていくんじゃのう。かっかっか」


 ハイネの笑い声を聞くや否や、代行者はその場を転移にて後にしたのであった。


     ***


「ミミミよ。眠ることは出来たか」


 セントラル市街地まで退避した代行者は、ミミミを再び召喚する。


「みー……ちょっとは寝不足が取れた、かも」

「善哉。……おや、これはお導きか」

「みー、なんか金の光が見える」

「導きに我を委ねり。ミミミよ、共にあれ」

「はぁい」




 代行者とミミミは、黄金きんの粒子に導かれるように、少しばかり歩くことにしたのであった。


---


★感想

 直接戦ってはいないが、お借りしたので感想を。


 強い。スペック的にラスボスを張れる十分な強さを持つ。代行者が即座にミミミちゃんを安全な場所へと転移させたのは正解といえるくらいには強い。


 とはいえ、代行者なら正直、勝てる。勝ちの目も十分にある。

 ここで戦わなかったのは、死すべき運命さだめに無かったからに過ぎない(メタ的には、有原陣営で排除するのはもったいなさ過ぎたため。プレイング的に「ラスボスキラー」「ドラゴンハンター」の称号が付くよう、特定の敵陣営ユニットに向けて積極的に目を付けている。しかしこれをやりすぎると自主企画荒らしと化すので適度に自重している……つもりである)。


 相性で見ると、やはり代行者が有利と言わざるを得ないのもまた事実。

 ハイネが好む悪意は、代行者は持っていない。というか、感情全般が“無いと言えるほど希薄”である。「まるで味のせぬ者じゃのう」というハイネの評はそこから来ている。結果、悪意に呼応する能力に制限をかけられる(とはいえ場所が場所なので、悪意自体はたっぷり。その点では代行者が不利になる補正が掛かる。あくまでも「周囲に何もない場所で、1対1で戦ったら」という条件での話に過ぎない)。

 また、代行者の能力ではハイネの攻撃をことごとく封殺しうるし、ハイネの作者である東美桜様に曰く「聖なる加護的なものには弱い(代行者は、神様たる桜付きの強力な加護を得ている)」ため、これらの意味でも代行者がかなり有利。


 攻撃面では、代行者が持つ特効「生者せいじゃ特効」がどこまで通用するかによる。これは部分的に竜特効を包摂する(竜種も生者とみなされるため)が、それだけで安心できるほどハイネが弱いとは到底思えない。余談だが、確実に生者特効を無効化する竜種は「アンデッドドラゴン(ないしゾンビドラゴン)」といった系統。既にして死者なので「生者」のカテゴリーの対象外。

 ただし、既に書いたように代行者は「聖なる加護がある」し、しかも今の代行者は聖斧カティンカを携えている。我欲無く使命を果たす代行者の心は、業にまみれてはいても汚れていようはずがなく、カティンカも「自ら望んで所有されたがった(ミミミちゃん談)」ほどなので、竜特効の加護は問題なく付与される。これら、特にカティンカの所有状態であることが「代行者なら正直勝てる」と評した最大の理由。


 ハイネの付け入る隙があるとすれば、弟子のミミミちゃん。

 ……なのだが、代行者は出会うよりも早くハイネの気配を察知して逃がしたほど対応が速いし、そもそも羽交はがめなどで拘束してもSGエネルギーでの転移があるので、これをどう封殺するかがハイネ側の課題になるのは間違いない。やるとすれば、「対応させる間もなく不意打ちで人質に取る」ということになる。

 ただし、ハイネの性格上これを許容するかは分からないため、「とにかく代行者に勝つ」という条件に絞った上での仮定の話となるが。


 有原陣営的には「仲間にする構想はまるで浮かばない」。おそらく、桜付きも容認することは無いだろう。友好的であるという条件を超越して悪意が強すぎるので、仲間にしても有原では扱いきれない。というか罪業が多すぎるので、仲間に“出来ない”レベル。

 善として振る舞いたいのであれば、魂のレベルからやり直したうえで生まれ直して来い……とつっぱねるだろう。

 とはいえ「人の絶望が見たいのに、それを根源ごと奪う貴様より強い敵は許さん。ワシの娯楽のために、死ね」という、「悪役がよりドス黒い悪を倒すために、主人公勢と立場を超えて共闘する」という展開は書いていて思い浮かんだ。もっとも、有原陣営では戦わないし、これ以上扱う予定も無いので構想というか妄想にとどめるが。


 何度でも書くが、有原陣営のユニットとは戦わせない。

 正規の予約をしていないため、一時的に借り受ける程度である。なので代行者の言葉も、「区切りが迫れり」というどうとでも取れるものにしてある。ハイネの運命を定めるのは有原ではないのだから。


 ……ただしハイネおじいちゃんにはもう一度ほど“嫌がらせ”をする予定である。

 本人の名誉のために「その場に居合わせなかった」という設定にするが、有原の確保したユニットの都合上、ほぼ間違いなく入れる。なのでエリア0-2:セントラル地下、特に貧民窟が再び有原陣営に荒らされることになる。

 あと、代行者は撤退時、「死すべき運命さだめを持つ者たち」にSGエネルギーを付与してから貧民窟の端の端で右手を握りしめて一斉に魂を刈り取ったので、そういう意味では目的を達成していたりする。


 とにもかくにも、素敵なユニットでした。

 東美桜様、ご貸与いただきありがとうございました。

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