死は慈悲たるか(ユニット:神錘の代行者&ミミミ)

「再び、進むべき道は示された」

「みー……暗い」


 代行者とミミミは、今度はエリア0-2:セントラル地下に来ていた。もちろん、謎の機体の導きによって転移したのである。


神錘しんすいが重く、暗い……。絶望渦巻き、死の運命さだめにある者が何人るか」


 貧民窟のど真ん中に降り立った二人は、SGエネルギーによって透明化している。ここにいる貧民たちが、姿を見ることは無い。

 これは代行者の判断によって、目立つことを避けるためである。死の気配は、格好をそれらしく近づける程度では薄れはせず、もはや隠れるには見えぬようにするしかなかったのであった。


「みー……。死の迫ってる気配はプンプンするけど、多すぎて分かんない」

「案ずるな。我に委ねよ、ミミミ」

「みー。はぁい」


 歩いているうちに、代行者はある家の前で足を止める。


「ここか。死すべき運命さだめを持つ者は」


 家の中には最低限の寝具しかなく、その上で横たわる老人がいた。


「ゲホッ、ゴホッ……」


 絶え間なく咳を発しており、病におかされた者であるとひと目で分かる。

 代行者は、自身とミミミの隠形おんぎょうを解いて姿を見せた。


「だ……だれ……」


 絶え絶えの声で尋ねる老人に、代行者は無機質な、しかしどこか優しさを込めた声で答える。


「案ずるな。我が名は神錘の代行者。共に在る者はミミミという。汝に、死をもたらしに来た者なり。安らかなるが良い。……ミミミよ」


 呼びかけと同時に、代行者はミミミの“かせ”を解く。


「みー。分かりました」


 言うが早いか、ミミミは自らの左人差し指の先端をカッターナイフで軽く切り裂く。


「舐めて。もう、苦しまなくていい」


 老人に血の付いた指を差し出し、なかば舌にこすりつけるように血を舐めさせる。


「おぉ……」


 それと同時に、老人の周囲に黒い粒子がきらめく。最期の一瞬ばかりは苦痛も恐怖も無きよう、代行者がSGエネルギーを送り込んだのだ。


「美しい……」


 ミミミの顔を見た老人は、最後にそれだけ言うと――全身から血を噴き出し、魂を肉体から解き放たれたのである。


「我は汝の御霊みたまを見れり。失意にて、かような場所に至れり。だが、我が主が汝の魂を救われる。次生きる時は、心安らかならんことを祈れり」

「みー……これで、2人ふたり

「然り。だが、我らの歩みは止まらず。死すべき運命さだめを迎えてなお苦しむ者たちに、定められた通りの死を与える。では、くぞ」


 再び枷を嵌め、隠形を行う代行者。

 それを呼び止めるように、ミミミが声を掛けた。


「みー……ねぇ」

「何だ?」

「あなたにとっての死って……慈悲、なの?」


 突如として尋ねられた言葉に、しかし代行者は眉一つ動かさない。


「死は慈悲たるか? それは是にして非なり」

「人それぞれ、ってこと?」


 ミミミの予想を、代行者は首肯しゅこうする。


「然り。正しく運命さだめを全うして死ぬ者もあれば、その上で老いにて死す者もあり。また、運命さだめにて苦しみながら死を迎える者もあれば、運命さだめそのものを捻じ曲げられたるがゆえに誤った死を与えられる者もあるなり。されど、死そのものは平等。る者には慈悲と感じられ、る者には恐怖と感じられるが、それは人の身ゆえの見方なり。我はそれゆえにはかりとなり、死の運命さだめを与えられた者にふさわしき死を授けるなり」


 代行者の言葉に、取り繕いは何もない。


「我の答えは如何いかなるか」

「みー……まだよく分かんないけど、少なくともあなたが“死”に誠実なのは分かった」

善哉ぜんざい。では、今一度踏み出すとしよう。まだ、授ける死は残っている」

「はぁい」


 代行者はミミミを連れ、さらなる死――とはいえ、貧民窟の者たちにとっては救いたる死だが――をもたらすべく、次に指し示された者を探しに行った。


     ***


「これはいただけない。いただけないのう。ワシの蜜たる不幸が、減るわい」


 代行者とミミミが死を授けだしてから、しばらくして。




 二人を見つめる、一人の影がいた……。

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